災いを呼ぶ者 2
二人の話を聞いて、ロットーは「で、俺の元に来た理由はフィニア様の部屋の様子を確認したいから、か?」とマリサナに聞いた。
「えぇ、そうです。こんな遅い時間に私がフィニア様のところを訪ねるわけにはいかないから、護衛のあなたにお願いをしたいと思って……」
マリサナがそう申し訳なさそうに告げると、ロットーは「わかった」と返事をして近くにあった上着を素早く羽織った。
「それなら早速フィニア様のところに行きましょう」
理解と行動の速いロットーに、マリサナは思わず「いつもそうだといいのだけど」と呟く。その彼女の言葉にロットーは怪訝な顔をしたが、マリサナはそれを無視して「行きましょう」と彼を促した。
ロットーたちがフィニアの部屋の前まで行くと、警備の兵が少し眠そうな顔をしつつ彼女の部屋の前に立っている。
「ちょっとフィニア様に用事なんだ、いいか?」
「あ、ロットーさん」
ロットーが兵士に声をかけると、兵は「どうぞ」と一歩下がる。マリサナやロザリアといった面々もいることに兵士は少し疑問の表情を浮かべたが、特に何が問いかけるようなことはしない。その代わり彼は「今日はフィニア様に用事の方が多いですね」と世間話のように呟く。
「あぁ、メリネヒさんが訪ねてきたんだって?」
「そうです。すぐに出て行っちゃいましたけど。なのでフィニア様、おひとりでお休みになられているんじゃないでしょうか」
兵士は先ほどマリサナから聞いた通りの話をロットーにも説明する。するとロットーは「そうか」と頷くと、兵士にこんなことを言った。
「今日はもう休んでいいよ」
「え?」
ロットーの予想外の言葉に兵士が驚いて目を丸くすると、ロットーはすぐに「この後用事が済んだら、俺が引き継ぐから」と彼に笑って説明する。
「なんか疲れてるみたいだし、休んだ方がいい」
「いえ、でも……」
「っていうか本来これは俺の仕事だからな。俺はもう休ませてもらったから任せてくれ」
ロットーがそう説明すると、兵士の男は一瞬考えてから「それじゃあお言葉に甘えて」とロットーに頭を下げた。
「実は昨日の夜遅くまで飲んでたせいで、さっきから眠くて」
そんな言葉を漏らす兵士にロットーは苦笑しながら「しっかりしてくれよ」と声をかける。兵士はもう一度深々と頭を下げると、体を休めるために立ち去って行った。それを見送りながら、マリサナは「いいの?」とロットーに聞く。するとロットーは頷き、こんなことを言った。
「どうせフィニア様、この部屋にいないだろうしな。無人の部屋を守っても仕方ないだろ」
「え?!」
なんとなく予想できたことだが、ロットーの言葉にマリサナは驚きながら「フィニア様がいないって本当?」と彼に聞く。ロットーは「多分な」と答えて、ノックもなしに部屋のドアを開けた。
「王女、入りますよ」
一応そう声をかけつつ彼がドアをあけると、部屋の中はしんと静まり返っている。そのまま部屋の中に入っていくロットーにマリサナが「ロットー、勝手に」と小声で注意をしたが、すぐに彼女も中に人の気配が無いことに気づいて彼の後を追った。
「フィニア様……?」
ロットーの後に続いて部屋の中に入ったマリサナが、そうフィニアの存在を探して声をかける。彼女の後ろではロザリアも、恐る恐るといった様子で部屋の中を伺った。だがやはり中に人がいる気配はない。マリサナが「フィニア様、どこに……?」と不安げに呟くと、一人で先に奥の部屋に行っていたロットーが「こっちに来てくれ」と二人に声をかけた。
「どうかしましたか、ロットー」
マリサナがロザリアを連れてロットーの元に向かうと、彼女は目に飛び込んできた光景に驚く。ロザリアも少し驚いた様子で「これは……」と呟いた。
奥の部屋――フィニアの寝室にある装飾された大きな棚が移動しており、その裏の壁にはどこかへと続く出入口が存在していた。
「これは……抜け道ですね」