災いを呼ぶ者 1
「すみませんロットー、ちょっといいでしょうか」
そんな声が部屋の外から聞こえて、ロットーは慌てて軽く身なりを整える。声はマリサナだ。
「どうした?」
部屋のドアを開けると、マリサナの後ろにはロザリアの姿があった。妙な組み合わせにロットーが思わず顔を顰めると、マリサナは「説明したいから部屋に入れてもらえると嬉しいのですが」と彼に言う。ロットーはほんの一瞬迷ったが、「どうぞ」と二人を部屋の中に招いた。
「どうしたんだ? こんな遅い時間に男の部屋に来るなんてお前らしくない」
「妙な言い方しないでください。ロザリア様の前だというのに」
マリサナに睨まれて、ロットーは「失礼しました」とロザリアに頭を下げる。しかしロザリアは小さく苦笑いを浮かべて、「いえ、気になさらず」と返した。
「もうお休みの時間だというのに、突然おしかけてきたのはこちらなんですから」
ロザリアはロットーに「ごめんなさい」と小さく頭を下げる。大国の時期女王に頭を下げられてしまい、さすがのロットーも「そういうことは冗談でもやめてください」と慌てた。
「自分はただのフィニア王女の護衛なんですから。あなたのような方に頭を下げられる存在ではありませんよ」
「でも、とても頼りになる方だと先ほどマリサナさんが……」
ロザリアはそう言ってマリサナを見遣る。ロットーもつられてマリサナに視線を向けると、マリサナは少し照れたような表情を浮かべた。
「えぇ、それは……事実ですから」
「驚いたな。お前、俺のことそんな評価してくれてたのか」
ロットーの呟きに、マリサナは「あなたは少々不真面目な点を除けば、フィニア様のよき理解者であり護衛であり友人ですからね」と返す。
「不真面目な点は改善した方がいいと思うけれども」
「あぁ、そうだな。少しはマリサナを見習うよ」
自身を素直に評価してくれていたことは嬉しいので、ロットーもマリサナにそんな言葉を返す。しかしマリサナは小さくため息を吐くだけだった。
「それで? ロザリア様と一緒に、いったい何用で俺の元に?」
ロットーがマリサナにそう問いながらロザリアに椅子を勧めるが、ロザリアは小さく首を横に振る。
マリサナはロットーの問いに対して「実は……」とやや表情を曇らせて説明しかけると、それを遮るようにロザリアが口を開いた。
「私がお話します、マリサナさん。実はイシュのことで相談がありまして」
「王子のことで?」
ロットーが問い返すと、ロザリアは「はい」と頷く。先ほどの胸騒ぎといい、何か嫌なことが起きそうだとロットーは内心で思った。いや、あるいはもう起きているのかもしれない。
「イシュに寝る前に挨拶をしようと部屋に行ったのですが、返事が無くて……」
「もう休まれているのでは?」
「えぇ、私もそう思ったのですが……でも、メリネヒもいないようなんです」
二人の部屋からそれぞれ反応が無く、それを不審に思ったロザリアが心配して彼女たちを探しているのだろう。
「二人とも、こんな早い時間に熟睡するようなタイプでもないんですが」
ロザリアは首を傾げ、「それでちょっと気になって、マリサナさんに相談をしたんです」と言う。
「えぇ、ちょうど近くを通りかかったので相談されたの」
続く説明はマリサナが語った。
「それで、王子のことだからフィニア様のところにいるのかと思って部屋へ伺ったのだけど、フィニア様も反応がなくて」
「王女も?」
「えぇ。さらに警備兵の話ではメリネヒさんがフィニア様の部屋を訪ねたようなの。で、その後メリネヒさんだけ出てきたらしくて、フィニア様は部屋にいるはずだと説明されたのだけど……」