不穏な影 24
フィニアたちが騒いでいる頃、イシュタルはメリネヒを伴いながら姉のロザリアに城の案内を行っていた。
とはいえ数日滞在してはいるがイシュタルがアザレア城を知り尽くしているわけでは無いので、当然アザレア側の存在を連れ添ってでの案内である。そのアザレア側の案内はオリヴァートであった。
「こんなじじいの退屈な案内よりも、フィニア様に案内をお願いしようと思ったのですがなぁ……どこに行ったのやら」
オリヴァートはイシュタルたちを先導しながらもゆったりとした足取りで、城内の廊下を進みながら呟く。
本来はフィニアに案内を頼むつもりであったオリヴァートだが、部屋に居ないフィニアが庭で騒いでいるなど知らず、仕方が無いので自ら案内を行うことにして現在の状況に至るのであった。
「退屈だなんて、そんなことありませんよ。アザレアの歴史のお話を交えながらの案内は興味深いですし、とても楽しませて頂いております」
オリヴァートの呟きを聞いて、ロザリアが微笑みながらそう言葉を返す。オリヴァートは「それならば良いのですが」と白い口髭を撫でながら笑った。
「では、次は書庫を案内致しましょう。古今東西各地から収集した魔道書を何千、何万と保管している我が国自慢の書庫ですぞ」
「まぁ、それは楽しみです」
ロザリアが楽しそうに声を上げると、隣でイシュタルが「私もフィニアに書庫を案内してもらったよ」と言う。
「本当、とてもたくさんの魔道書があってね。あんなにたくさんの魔道書を見たのは初めてだよ」
「そうなのですね。我が国は魔道に詳しく無いですから、魔道書に触れる機会も少ないですからね」
ロザリアとイシュタルの会話に耳を傾けていたオリヴァートは、不意に「ところでイシュタル王子」とイシュタルに声をかける。
「なんでしょう?」
オリヴァートに名を呼ばれてイシュタルが視線を彼に向けると、オリヴァートは書庫へと足を向けながらおもむろにこんな質問をイシュタルへ投げかけた。
「フィニア様のことは、どうですかな?」
「え? ど、どう、とは……?」
唐突な質問にイシュタルが困惑した表情を浮かべると、オリヴァートは目を細めて笑う。
「フィニア様のこと、王子にお気に召して頂けたかと気になりましてなぁ。じじいはそれが心配で心配で」
穏やかに笑いながら語るオリヴァートのその言葉に、イシュタルは少し困ったように笑いながらこう言葉を返した。
「えぇ、フィニア王女とお話しているととても楽しいです。フィニアはたくさんの笑顔を周囲に与えてくれる人物だと……本当に素敵な方だと思っています」
イシュタルのその高評価な言葉に、オリヴァートはひどく驚いたように目を丸くして「ほおぉ」と声を上げる。そうして彼は考えるように「なるほどなるほど」と小さく呟いた。
「ふむ……そのように思って頂けて嬉しい限りです。フィニア様も喜びますぞ」
満足げに笑うオリヴァートに、イシュタルも同じく笑みを零す。ロザリアも「可愛らしい方でしたね」と言って笑った。