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gloria  作者: ユズリ
不穏な影
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不穏な影 21

「あ、ええと……怪我しないように、だよ! あの、あくまでこう、練習試合って言うか……平和的に戦うアレだからね! 練習!」


「手合わせでしょ、わかってますよ」


「本当にわかってる?! ロットー、手を抜いてね! じゃなきゃレジィが可哀想だよ!」


「いや、あの……王女、俺の実力を見たいからって企画した試合では……?」


 本末転倒なことを言いだすフィニアに小声で突っ込むロットーは、しかし次の瞬間にはその表情を変えた。


「まぁ、本気じゃ無いとしても、だ……手を抜くわけにはいかないな。悪いが、俺もプライドがあるし」


 そう小さく呟いたロットーは、涼しげな風に黒衣の外套を靡かせながら、真剣な表情でレジィを見据えつつフィニアからの合図を待つ。

 一方でレジィは相変わらず自信の無い怯えた表情をしながらも、こちらも合図を待つ様子で無言となった。

 二人の準備が出来た頃、フィニアは対峙する二人の真剣さに影響されてか、こちらもまた緊張を滲ませつつ表情を引き締める。そうして彼女は一つ深呼吸をしてから、試合開始の合図を叫んだ。


「それじゃあ二人とも、準備いいみたいだし……始めっ!」


 フィニアがそう緊張気味に声を上げて、二人の試合が幕を開ける。しかし対峙した二人は、フィニアの合図があってもすぐには行動しなかった。

 相手の様子を窺うようにレジィを見つめるロットーと、対して緊張して動けなくなっているレジィの二人を、フィニアはそわそわした様子で見守る。


「うー、どっちが勝つんだろう……」


 二人を見守りながらフィニアが思わずそんな独り言を呟くと、それを聞いていたらしいロットーが「どっちが勝つと思いますか?」とフィニアに聞いた。


「え、どっちが勝つか?」


「そーそー、王女は俺とレジィのどっちを応援します?」


 試合が始まっているというのに暢気にそんな問いをするロットーに、フィニアは「うーん」と考えながら答える。


「そうだなー、ロットーが勝つと何か癪だからレジィを応援するかな~」


「おい、癪ってなんだ、癪って」


「いやーなんとなく~。そんなわけでレジィ頑張って~! ロットーをボコボコにしちゃえ~!」


 フィニアのその言葉を聞いてやる気に火が付いたのか、ロットーは怖い顔で「王女、見てろよ」と吐き捨てると駆けだした。

 駆けだしたロットーは、相変わらず怯えた表情で立ち尽くすレジィ目掛けて構え持った剣を横薙ぎに一閃振るう。


「うわあぁ!」


 薙ぎ払われたロットーの剣が太陽の光を受けて銀の軌跡を描くと、レジィの情けない悲鳴と同時に彼の騎士剣がそれを受けて甲高い金属音を響かせる。

 素早く相手の間合いに踏み込んでのロットーの一撃は、勢いはあったがそれほど力を込めているようには見えなかったので様子見程度のものであっただろう。しかし怯えて立ち尽くしているだけのように思えたレジィが反応して、ロットーの一撃を受けとめたことにフィニアは目を丸くして驚いた。


「おぉー、レジィすごい! かっこいい!」


 フィニアが素直な感想を声援として送ると、レジィは「ひいぃーまぐれですっ!」と返しながらもまんざらでもなさそうな笑顔を見せる。だがすぐにロットーが振りかぶった一撃を続けざまに打ち込むと、余裕の笑顔は情けない悲鳴と共にまた蒼白な顔色に変わった。


「うわあぁあぁっ! ロットーさん怖いです!」


「怖いって、そりゃ試合なんだから仕方ないでしょう?!」


 容赦なく攻めるロットーの攻撃を、レジィは涙目で叫びながらも再度受け流す。

 次々に襲いかかるロットーの攻撃をレジィが受ける度に激しい剣撃音とレジィの悲鳴が周囲に響き渡り、果たして剣の稽古試合とはこんな賑やかなものだったかな……と、二人の様子を見守るフィニアは思った。


「ひえぇぇ~!」


 ロットーが攻撃する度にレジィが悲鳴を上げるので、ロットーとレジィの試合はほとんど一方的にロットーが攻めているだけのように見える。

 しかししばらく二人の様子を眺めていると、フィニアにも気付くことがあった。


 元々自信があっただけあってロットーの剣の腕前は、剣については全くの素人のフィニアから見ても手練であると理解出来た。

 ロットーの剣技は踏み込む速度や振るう一撃の速度は並に思えたが、的確に相手の隙を見極めて攻める判断力とその一撃の重さは素人目からでも凄いものだと思えるものだ。

 しかし一方でそのロットーの攻撃を一撃も貰わずに受け流すレジィも、それはそれで凄いのではとフィニアは気付く。

 一見するとただ防戦一方で翻弄されているように見えるレジィだが、ロットーの攻撃に対して反応する速度は速い。また攻撃を受ける時の判断も的確で、ロットーの攻撃を受け止めきれない一撃であると理解している彼は、攻撃を上手く受け流しているのだ。


「レジィすごい、頑張って!」


 フィニアがそう再び声援を送ると、レジィは「はい~!」と返事を返す。常にいっぱいいっぱいに見えて、返事を返せるだけの余裕が彼にはあるようであった。

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