不穏な影 19
もう何回目かもわからないが相変わらずなロットーの自己保身魂に、フィニアは悲しいを通り越して呆れながら非難を叫んだ。
そしてロットーはと言うと、どこまで本気だったのかわからない笑顔でフィニアの非難を誤魔化しながら「怪我も困りますけどね」と呟いた。
「ええぇ~?」
「怪我も含めて、王女に何かあったら困るのはホントーです。俺が無職になるからってのもありますけど、それ抜きにしてもちゃーんと王女のことは心配していますよ」
「ロットーは真面目に俺を心配してくれているのか、そうでないのか……その言葉を素直に信用していいのかな……」
フィニアが疑わしそうな視線をロットーへ向けると、ロットーは苦笑を彼女へと返した。フィニアはそんなロットーの苦笑を眺めつつ、流れのままに思わず感じた不安を口にする。
「そもそも、だよ?! 俺とかコハクを狙う何者かがこの城に忍び込んでるかもしれないとして……ロットーは本当に俺を守ってくれるのか?! コハクを助けたマリサナみたいに、だよ?!」
「守りますよー、給料もらってる分くらいはちゃーんと働きます」
ロットーは心外だというふうに不満げに目を細めて、「普段だって王女のことを色々助けてるでしょう」と言う。それに対してフィニアは首を横に振ってからこう言葉を返した。
「そうじゃなくて、ロットーって本当に強いのかなって……俺が襲われてても助けられるほどの力があるのかな?」
「ちょっと、急に俺の実力を疑わないでくださいよ」
唐突にフィニアが疑心を抱くので、ロットーは思わず呆れた表情で言葉を返す。しかしフィニアはやはり疑う表情でロットーを見返した。
「いや、俺真面目にロットーが戦ってるのって見たことないし、普段も剣の稽古してる雰囲気無いし……父さんが認めた剣の腕ってのは知ってるけどさ、ここ最近は全然剣使ってないから腕とか鈍ってるんじゃない?」
ロットーがフィニアの護衛となってだいぶ経つが、その間に彼が腰に携帯した剣を使うような機会が訪れたことは無い。フィニアがロットーの腕前を疑うのも仕方が無いと言えた。
しかしロットーはよほど自分の剣の腕前に自信があるのか、何故か根拠も無くこう言い切る。
「失礼な……俺ほどの実力者になればそんなすぐに腕が鈍ったりはしないんです」
「その自信は一体どこからくるんだよ」
フィニアのもっともな疑問に、しかしロットーは「自分のことだからわかるんです」と答えになってない答えを返した。
「うーん……」
いざ自分の身が危険かもしれないという状況になると、フィニアは自分の護衛が強いのかが心配となる。
フィニアも自分の身は自分で守れるくらいの力はあるのだが、自分の身どころか大陸を滅ぼすくらいに力が有り余りすぎているので封印されている為に、普段はか弱い女の子でしかない。なので大真面目にフィニアにとってはロットーだけが頼りなのだ。しかしその肝心のロットーは、普段は頼りになる相談役ではあるけれども、戦いとなると実力をあまり見たことが無いので……
「不安だ!」
急にロットーの実力が心底不安になったフィニアは、そう声を上げるや否や真剣な表情でロットーの肩を掴む。そして困惑するロットーに彼女はこう言った。
「そうだロットー! ロットーの実力を見る為に、ちょっとした試合をしよう!」
「はぁ? 何ですか、急に……」
もうお見合いの終了までそんなに時間も無いのだ、そんな暢気なことしている余裕は無いんじゃないかとロットーは言おうとするが、それより先にフィニアは「よーし、そうと決まれば」と勝手に話をすすめた。
「誰か相手を見つけないと!」
「おい、勝手に話をすすめないでくださいよ」
「誰かいい相手はいないかな~。剣を使える人じゃないと試合にならないよね、多分。マリサナは、さすがに今日はコハクの傍にいなきゃだから試合とかしてる場合じゃないかな~」
「もしも~し?! 話を聞けって、アホ王女!」
「あ、イシュとかどうかな? ちょっと聞いてこよーっと!」
「おい、待てー!」
話を聞かないフィニアはブツブツと独り言を言いながら、ロットーの制止を無視して部屋を出て行く。ロットーは大きな溜息を一つ吐き、フィニアの後を追った。
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