不穏な影 18
少し冷静に考えればロットーの言うとおりで、異変が起きたタイミングを考えると今回のお見合いが何か関係あるようにも思える。
しかしウィスタリアから来た人間が一体何を目的で自分やコハクを狙うのかと考えると、フィニアには理由が思いつかずに疑問であった。
「……ウィスタリアの人間が何か目的があってコハクを襲ったりしたとして……どうしてそんなことをするんだ?」
フィニアにはそれは疑問でしかないが、ロットーは即座にこう答える。
「イシュタル王子とフィニア王女が結婚したら困る第三者がいて、その為にフィニア王女の情報を収集したりコハク王女を襲ってトラブルを起こしたりしているのかもしれません」
「な、なるほど……?」
ロットーの推測に思わず『なるほど』とは言ったフィニアだが、しかし実際はいまいち理解出来ていない。
フィニアのその理解力の無さはロットーもよくわかっているので、彼は補足を続けた。
「えーっと、犯人の目的が本当に結婚の妨害かはわかりませんが、仮にそうだとしたらトラブルが起こったらお見合いどころじゃなくなるでしょう? それを狙って王女たちにちょっかい出してるのかも……」
「おぉ、なるほど……確かにお見合いどころじゃなくなるかもしれないね!」
フィニアは理解が出来ると、今度は困った表情を浮かべる。感情がそのまま顔に出るために、怯えたり怒ったり困ったりと表情のよくかわる彼女は、ロットーに「でも、それは困る」とまさに表情通りのことを言った。
「だって俺はイシュと結婚したい! ……あ、いや、お友達からのお付き合いでも勿論いいんだけど……でもでも、やっぱり……」
「はいはい、気持ち悪いので顔を赤らめて照れないで」
「気持ち悪く無いだろー! 純粋な恋心に対して失礼だぞ!」
「とにかく! 王女はトラブルが起きると困るんですよね」
どうにも自分たちの会話が脱線しやすいことに苦い顔を浮かべつつ、ロットーはフィニアにそう確認する。まだ何か文句を言いたげだったフィニアは、文句の代わりに「困る」と素直に頷いた。
「すっごい困る……何かトラブルがあると、今回のことを穏便に終わらせたいって言ってたイシュも困ると思うし……」
「そうですよね、俺も困ります」
「ロットーも困るよなぁ」
「えぇ。でもトラブルでお見合いがどうこうも困るんですけど、それよりも俺はフィニア王女の身に何かあったら……」
ロットーはひどく真剣な表情でそう言いながらフィニアを見つめる。護衛らしく真剣にフィニアを心配する様子を見せるロットーに、フィニアは若干戸惑いながらも喜んだ。
「え、ロットー、そんな真剣な顔をして真面目に俺の心配をしてくれてるの? ちょっとそのガチ真面目な表情は引くけど、でも嬉し……」
「フィニア王女に何かあって王女が死んじゃうと、恐ろしいことに俺は無職になってしまう……めちゃめちゃ困るんですよね、それ……」
「またそれかよ! しかも毎回何故か俺が死ぬ前提だし! せめて怪我とかにしといてよ~!」