不穏な影 16
「そうだロットー、なんかあやしーいことで思い出したんだけどさ」
「あやしーいこと?」
フィニアの謎の発言にロットーが怪訝な顔をすると、フィニアは「コハクが襲われたことだよ」と言葉を付け足す。そうして彼女はこう続けた。
「俺、ロットーに話そうとしてたことがあったんだよね……なんかすっごーく色々とあって、すっかり話そうって思ってたことを忘れてたんだけど」
そう、本当に最近は毎日がイベントのような勢いで色々なことがありすぎた……と、フィニアは思わず遠い目をしながらここ数日の忙しさを思い出す。
「あぁ、まぁ王女は色々と考えることも多くて忙しかったでしょうね」
「そうそう……ほんと色々とあって……今回の衝撃的な出来事で思い出せてよかった」
「そうですか。で、話そうと思っていたこととは一体なんです?」
「あ、えっとねぇ……なんかさ、コハクが襲われる前からちょっとヘンなことがあったんだよね」
「へんなこと?」
怪訝そうに眉根を寄せるロットーに、フィニアは「そう」と少し真面目な表情で頷いた。
「なんかさ、俺の部屋が荒らされていたような……そんな形跡があったんだよ。引き出しの中とかが妙に散らかってたの」
「王女の部屋が常日頃わりと散らかってるのは、王女自身が散らかしてるからじゃないんですか?」
「おい、俺が珍しく真面目に話してるってのに!」
怒るフィニアにロットーは「すみません」とあまり悪びれた様子も無く謝り、彼女に話の続きを催促した。
「それで、荒らされてたっていうのは本当ですか? 王女の勘違いじゃなく?」
わりとドジなフィニアなので自分で散らかしたのを勘違いしている可能性はやはり捨てきれないと、ロットーはそう思いながら一応彼女へと確認する。
ロットーのその言葉に対してフィニアはまた少しムッとした表情をしたが、しかし確かに勘違いの可能性もあるかも……と、少し考えた。
「うーん……いや、勘違いじゃないと思うけど……よく覚えてないけど、なんか荒らされた感じだった……」
考えながらそう答えるフィニアは、「そもそも、散らかした場合と荒らされた場合じゃやっぱり違うよ」と言葉を続ける。
「散らかした場合は俺がそれをやったんだから、後から散らかした場所を見てもどこに何があるかがそれなりになんとなーくわかるんだよ。でも荒らされた場合は違和感を感じるんだよね」
「そ、そういうものですか……?」
「そうそう、そういうものだよ。ロットーも部屋とか散らかしてみればわかるって!」
「それはお断りしますけども」
フィニアの迷惑なアドバイスを全力で拒否し、ロットーは「そうですか」と若干険しい表情となって呟いた。
「まぁ……普段ならば王女の勘違い説が濃厚な話ですが、しかし実際にコハク王女が何者かに襲われていますからね。王女の部屋が荒らされていたというのも、勘違いではないかもしれませんね」
「だから勘違いじゃないってば!」
「いや、信じてますよ。信じてますってば」
「ぶー」
子供みたいに膨れたフィニアに内心で苦笑しつつ、ロットーはまた険しい表情で「他に何かおかしいこと、ありましたか?」とフィニアに問う。
フィニアは膨れたまま少し考えたが、首を横に振った。
「いや、それだけかな……荒らされた引き出しも、そのあとは魔法で鍵かけたし」
「何か盗まれてたりしました?」
「うーん……盗まれたものはなかったかも……」
「窃盗が目的ではないということですね。なら、目的は……」
考えるロットーの表情がますます険しく変わる。それを見て、フィニアは怯えた。
「ロットー顔が怖い……俺を殺そうとしてた時と同じ顔してる……」
「王女を殺そうとなんてしてませんよ」
「したじゃん、さっき!」
「先ほどは王女を黙らそうとしましたけど……それより窃盗が目的じゃないなら、部屋を荒らした犯人は王女か、王女の何かが目的だったのかもしれませんね」
「へぇ?」