不穏な影 13
「……?」
何かが動いた気配がして、周囲を見渡す。気配がしたのは見張りの兵であろうかと思うと同時に、考え事をして歩いていた為に自分が裏庭を歩いていたとたった今気付いた。
昼間でもあまり人気の無い裏庭は、夜は明かりも少ないためにいっそう暗く静かな場所に感じる。深夜にわざわざ一人で居たい場所では無かった。
元々城の兵は多く無いので、見張りのルートではあれど、こんな場所を常時見張っている兵はいないだろう。だから僅かに感じた人の気配は、ちょうど通りかかった見張りの兵なのかもしれない。コハクはそう思いながら、とりあえず来た道を戻ろうと踵を返した。
その時だった。
「……っ!」
体を抑えつけられるような軽い衝撃の後、コハクの視界が漆黒に包まれる。
目隠しか何かだろうか? と、悲鳴を上げようと思えば、口を塞がれていることに気付く。
「っ……!」
一体何が起こったのかと……混乱するコハクだったが、急にまた体が自由になる。直後に自分の名を呼ぶよく知った声が聞こえて、視界も元に戻る。
「コハク様っ! 大丈夫ですか?!」
「……マリ、サナ……」
自分を助けてくれた人物は、護衛のマリサナだった。
自分が彼女に抱えられるようにして支えられやっと立っている状態だと、コハクはまだ気付かないほどに恐怖と混乱を感じていた。
「お怪我は……?」
コハクを心配する声に重なりながら、何者かが駆けて去っていく音が遠くに聞こえる。
「……だ、だいじょうぶ……大丈夫です……それより……」
「すみません、もう逃げてしまったようです……」
コハクが何かを言いかけるより先に、コハクを支えるマリサナが申し訳なさそうにコハクへと答える。
「本来ならば追いかけるべきだったのでしょうが……申し訳ありません」
「……いいえ、私のことを気にかけてくださった、からですね……」
襲われた恐怖でまだ足が震える。まともに立っているのも難しい自分を心配し、マリサナは襲撃犯を追うよりも自分を傍で保護することを選んだのだろうとコハクは理解した。
マリサナはコハクの顔を心配そうに覗き込み、彼女に問いかける。
「コハク様、お怪我はありませんか?」
「えぇ……あなたが助けてくれなかったら、どうなっていたかわからないけども……助けてもらったので、大丈夫です……」
「それならばよかった。今回は本当に偶然に、コハク様をお見かけしたから助けられたのですが……」
マリサナがコハクを助けられたのは、彼女自身が言うとおり本当にたまたまの偶然だった。
夜の庭先で一人剣の訓練を行っているマリサナが訓練を終えて部屋に戻ろうとした時、コハクと彼女を襲う人物の影を見かけて急いで助けに向かったのだ。
「一体何者がコハク様を襲ったのか、相手が黒い服装と顔を隠していた為によく見えませんでしたが……あまり背丈は大きく無かったように思います」
「そうですか……」