不穏な影 11
コハクに指摘されてそれに気付き、イシュタルも思わず苦笑を漏らした。
「あぁ、でも……どうして幸せに出来ないと、そう思うのです?」
コハクの疑問に、イシュタルは少し困った表情を浮かべる。そのイシュタルの反応を見て、コハクは「お話出来ない事でしたら、無理には聞きませんわ」とすぐに言葉を付け加えた。
「私も同じでしたし。姉が王子を幸せに出来ないかもしれないこと、王子に理由は語れませんでした」
「そうだね……」
イシュタルのその言葉を境に、二人の間でしばし言葉は途切れる。
眼差しを伏せて思考しているらしいイシュタルの隣で、コハクは気づかう視線を向けながら黙ってイシュタルを見つめた。
しばしの沈黙の後、イシュタルはふと微笑を漏らしながら独り言のようにコハクへと言葉を告げる。
「たしかに私とフィニアは似ているのかもしれない。性格とか、好みとか、そういうところは全然似ていないかもしれないのだけど、もっと根本の部分が何か似ているのかもと思う」
「根本?」
「うーん……うまくは説明出来ないのだけども、考え方と言うか……表面上では現れない部分や境遇とか、かな?」
イシュタルが『フィニアが実は男である』なんて突飛な事実に気付いたわけではないが、それでも何か気づくことがあったのだろう。そんなことを微笑と共に呟き、それを聞いたコハクは少し不思議そうな顔で首を傾げた。
首をかしげていたコハクは、しかしすぐにハッとした顔で何かに気付いた様子となる。そしてこんなことを言って、イシュタルを困惑させた。
「お話を聞いていると、王子とお姉様はお互いに想い合いながらも障害の多い恋、って感じですわね。物語ならとても盛り上がるやつです」
「お、王女……どこでそういう発想を……」
「たまに流行りの恋愛小説を読みますの。だからつい……そうそう、王子は男性ですから読まないかもしれませんが、そういうのって結構面白いんですよ」
「そうなんだ」
「えぇ。ちなみにそういうお話は大概幸せな結末で終わりますわ。時々悲恋や悲劇もありますけど……でも、大衆に受けるのはやはりハッピーエンドです。めでたしめでたし……で締め括られますわ」
「幸せな結末、か……」
コハクの言う『幸せな結末』という言葉が、イシュタルの中で印象深く残る。イシュタルは小さく「そうなればいいな」と、そう呟いた。
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