不穏な影 4
「どうした?」
姿を現した二人の魔人は、そろって同じ問いをフィニアへと向ける。フィニアはひどく真剣な……思いつめたようにも思える表情で二人の魔人を見つめていた。
「ねぇセーレ……セーレは……」
何か口を開きかけ、しかしその先の言葉を失ったようにフィニアの魔人への問いかけは途切れる。
何かを悩むような彼女のその表情は、自身が思ったことに対する魔人への質問すらに慎重になっているようであった。
「……その……」
『それ』を口にしていいのか、それを悩むフィニアに対して、セーレはおもむろに口を開く。
「我らが叶えられる奇跡は、お前がそれを願うのであればお前を対象としなくても実行可能だ」
「!?」
まるで悩む自分の心を読んだかのようなセーレのその言葉に、フィニアは驚いた表情で顔を上げる。そして彼女はセーレへと、今度こそ問いを向けた。
「イシュを……男性にすることも?」
「そうだな。お前を女にしたのだから、それくらいならば可能だ」
セーレは淡々と、フィニアの問いかけにそう答えた。それを聞いたフィニアは一瞬目を見開き、そしてまた僅かに目を伏せる。
「俺……俺は、イシュと一緒になりたい……彼女が好きで、彼女と幸せになりたい……だけど、俺たちは……」
彼女と自分が幸せになるには障害が大きすぎた。
たとえば自分が王族でも無く、彼女もまた王家のしがらみに囚われる出生でなければ、出会う奇跡が起これば共に恋をし結ばれることも出来たかもしれない。
「俺たちは生まれる性別が反対だったんだ……ただそれだけなのに、こんなにも苦しくて辛くて……好きな人とも一緒になれない……」
「……ならば、結ばれる為に彼女を男へと変えるか?」
「……」
セーレの言葉を聞き、フィニアはまた顔を上げた。その表情は今にも泣き出しそうな、そんな辛さを堪える表情。
セーレはそんなフィニアを見下ろしながら、問いかけを続けた。
「彼女はそれを願うか? 彼女は男となってお前を愛してくれるのか? お前は男の彼女を愛せるか?」
「わからない……わからないよ……イシュが何を思うかなんてことは、俺には一つもわからない……」
セーレの問いかけに答える言葉は、頭では考えずに自然とフィニアの口から出たものだった。
そう、わからない。彼女が自分をどう思うかはわからない。でも一つだけ、セーレの問いかけにはっきりと答えられる答えがあった。
「でも、俺は彼女が何者であろうと彼女が好きだっ!」
叫ぶようにそうセーレへと告げたその言葉、それだけがフィニアにわかるただ一つのことで、そして絶対に揺るがない自分の想いだった。
一方でセーレはフィニアのその情熱的とも思える真っすぐな想いを聞き、珍しく驚いたように目を見開く。
そんなセーレの反応に気付き、フィニアは急に恥ずかしくなったのか顔を赤くして慌てた。
「あ、いや……だ、だって本当のことだし……」
「いや、驚いた。しかし……人とはたまに付きあうとなかなかに面白い。その情熱、感情のエネルギーは一体どこから生まれるものなのか……」