あるひ
あるひ
もりのなか
くまさんに
であった
はなさくもりのみち
くまさんにであった
*
ふと顔を上げるとそこには木々が立ち並んでいた。
先程まで私はケータイを見ながら電柱に寄り掛かって友人を待っていた…はずなのだが
そびえ立っていたビル群はいつの間にか背の高い木々へと姿を変えていた。
「なんなのよ…これ…」
思わず発した言葉は木々の囁きに掻き消されていった。
場所を確認しよう。そう思って手元に目を落とすと―――――ケータイはいつの間にか木片へと姿を変えていた。
「えっ!?…うそ…」
驚いた拍子に落としてしまったケータイであったはずのものは、カランカランと乾いた音をたてた。
ふと後ろを見てみると、電柱であったものは太い樹木へ変貌していた。
「何が…起こってるの…?」
そう声を出しても返事が返ってくるわけもなかった。
私の声はそのまま空へ消えた。
とりあえず…状況を整理しよう。
私は崎川陽
17歳でO型。今をときめく乙女座だ。
ごくごく平凡な公立高校である東高校の生徒である。
父さん、母さん、アニキと私の四人家族。
今日私は親友のチエ――藤宮智恵子と ちょっとした約束をしていて、駅前で待っていた。
――ねえヒナ!今度の日曜って暇?
――暇だよー!何々?なんかあるの!?
――そうなの!実は…いや やっぱお楽しみってことで!
「お楽しみって…まさかこのことじゃないわよね…」
というわけで今に至っている。
チエの言う『お楽しみ』をひそかに楽しみにしていた私は、がっくりと肩を落とした。
――――こんなの冗談でも笑えないよ…
心の中でチエに悪態をつきながら、寄り掛かっていた樹から身体を離した。
360° 周りを見てみたが、見渡す限りに森が広がっていた。
「まじないわ…」
ぶつぶつとつぶやきながら、私はしぶしぶ、森を探険することにした。
迷子になったらそこから動くなとかいうけど… これは迷子…なのかね?
なんとなくそう思いながら、私は歩みを進めた。