転生の九 ムシ出来ないのです
「ほうれ、出来たぞ。硬殻枝角蟲の外殻で拵えた鎧じゃ」
ドワウフの職人であるアマクニが、満面の笑みを浮かべて出来たばかりの装備を抱え、仲間たちの元へと姿を表した。
「おう、意外と早かったな。で、どんなもんだ?」
「あの蟲の殻じゃからな、これまで以上に軽くて硬い。まあ並の魔獣の牙なら通さんどころか牙のほうが欠けるだろうさ」
現在、元メンバーのアイガイオンと言う男が婿入りした、ブルディガラと言う地方都市で彼らが常宿としていた旅館の一棟を借りきって、仮の拠点としている。
彼らはその敷地の一角を借りて、小さな工房を建てたのである。
表向きは宿の上客である冒険者連中が無理を言って武器の修理に使うためにという理由で押し切られた、と言う形にしている。
実際、彼らが借り上げている分だけで他の宿泊客がおらずとも経営が成り立ってしまう状態なので、この程度はどうということはなかったりする。
仮とはいえ、設備の面でも不自由が無くなった彼らは、近隣や少々離れた地域にある魔境と呼ばれる、常人が足を踏み入れないような場所へと乗り込んでは活動費と装備の向上、そして自身の鍛錬のために日夜狩りを続けているのである。
そしてその成果がまた一つ生まれたわけであるが。
「おいアマクニのおっさんよぉ」
「なんじゃいトカゲ」
「だからトカゲじゃねえって……まあいい。で、コイツなんだがよ」
本来ならば宿に宿泊する者達が利用するラウンジとでも言うべき場所に置かれた大テーブルの上に、アマクニ謹製の新作鎧が一式、揃えて置かれていた。
通常手に入る硬殻枝角蟲の素材は、狩る際に出来る熱での変質や打撃などで劣化しているのだが、今回は自分達で確保した物はほぼ一撃で中枢神経を破壊している為、全てが高品質であった。
その素材を更に吟味した上で精錬し、高レベルの職人スキルを持つアマクニが加工し仕上げた鎧は、見るものが見れば正しく目を見張るような出来栄えで、文句のつけようもない品であることは間違いなかった。
ただ、そのデザインの元ネタを知る者以外には。
「どう見ても某聖なる戦士的にしか見えないんだが」
「そりゃそういう風に作ったからのう」
眉間にシワを寄せながら問うカレアシンに、アマクニはフフンと鼻を鳴らして更に「自信作じゃ」と言い張った。
「駄目だこいつ、早く何とかしないと」と脳裏で呟きつつテーブルへと向けられた視線の先に並べられた鎧は、どう見ても某昆虫をイメージしたロボット的な何かであった。
「ロールアウト一着目はドワウフ用でモチーフはドラ○ロじゃて。ほっほっほ」
「……ボツ」
「なんでじゃ!元ネタを忠実に再現しておるんじゃぞ!」
「こんなもん着てたらろくに動けんわ!それになんだこのオーラ○ンバーター的な背中のデッドウエイトは!これで空飛べるわけでもないのにわざわざ再現するとかアホだろ!」
「デッドウエイトじゃないわい……ほれ、蓋が付いとっての、荷物が入るようになっとるわけじゃ。ま、背嚢兼背面装甲じゃと思えば」
「ああ、うん、荷物も入っておまけに弓矢とかコレで防げるね。って、対魔獣戦闘が基本の俺らに弓矢気にする必要はないだろうが!むしろ俺ら的には避け重視だろうが!元ネタ避けまくりなのに重さで避けんの阻害されるってどうなんだよ!」
「そこは努力と根性じゃ!」
「別作品じゃねえか!しかもそっちは大概傷だらけでボッロボロだろうが!」
喧々諤々の竜人とドワーフの意見交換は、その後他のメンバーにも飛び火し、結果としてあまりにも趣味に走ったデザインは、流石に動きが阻害されすぎるので却下と相成った。
「いい出来じゃったのに」
「自重しろ」
それからと言うもの、デザインはあくまで質実剛健、せいぜい表面に細かな彫り物を刻む程度に抑えるということで合意した。
その彫り物が、後に『魔力伝導装甲』などという出鱈目なシロモノに発展してゆくことになるとは、この頃の彼らは夢にも思わぬことであった。