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転生の四 当たらなければどうということはないのです

ズバンッ!と、巨大な剣が空を切り、周囲に旋風を巻き起こす。

その煽りで体勢が崩れたのは、体長がおよそ十キュビトゥス(五メートル)ほどの太く鋭い角を鼻先に持つ、サイのような体型の甲殻を身に纏った魔獣。

鈍重そうな見かけによらずその動きは素早く、突進してくる姿はまるでダンプカーかトラックのようである


「ちっ、真っ直ぐ突っ込んできやがるのかと思えば飛んだり跳ねたりちょこまかと!」

「そりゃ相手も命がけだし?」

(ベア)子!てめえも見てないで手伝え!」

「じーちゃん、無理言ってくれちゃうなぁ。ウチの通常攻撃があんなのに通るわけ無いじゃん。ウチは対人戦闘特化だっちゅうの」


小ぶりのナイフと小さな弓、およそ熊子が持てる武器はその程度が関の山である。

筋力云々と言うより、体格的に大きな獲物(武器)が振るえないというのもあるが、熊子の戦闘スタイル的に対大型魔獣戦は現状任せきりにならずにおれない。


「関節技もこのサイズ差じゃつかえないし。無理無理」

「石ころでもぶん投げて気を引くとか!そういうのをやれって言ってんだよ!」


木の上に上ってまさしく高みの見物な姿に苛立つように叫ぶカレアシンだが、当の熊子は任せたと言わんばかりに放置プレイ中だ。


「ええい、くそがっ!」


今度こそ、真正面からせまり来る魔獣を、避け得うるぎりぎりのタイミングを狙い、大上段から切り下ろした。



「ココんとこ割と戦い慣れたつもりだが、俺の思う所を聞いて欲しい」

「うむ、言ってみい」

「私もそれなりに慣れて来たけれど、他の人たちとの感じ方の違いって言うのは聞いておきたいわね」


竜人カレアシンが、珍しく神妙な顔つきで『見張り小屋』改め『ギルドハウス(仮)(カッコカリ)』に戻って来たギルド幹部に声をかけた。

何やらこの世界に転生してからこれまで、戦闘やら何やらの際に色々と試してきた感想というか考察を照らし合わせてみたい、と言う事らしい。


「あー、口べたなんで説明がわかりにくいかもしれねえが、聞いてくれ。実はだな」


カレアシン曰く、魔獣などとの戦闘時、明らかに自分よりも弱い相手に、苦戦する事が少なからずあったと言うのだ。

ゲームだった頃であれば間違いなく必中である一撃必殺の攻撃を避けられたり、その逆に低ダメージとはいえまず当たらなかった相手の攻撃を食らってしまったり、と言う事だった。


「そうね、残念だけど、私にも似たような経験はあるわ。前の時なら間違いなく当たるはずの攻撃が外れての逆撃、ね」

「何じゃそんな事か」

「何かと思ったら今更な事を言うねぇ。流石じーちゃん。ていうか、角ねーちんもか」


カレアシンと呉羽の意見に、今頃何言ってるんだとばかりに返したのはアマクニと熊子であった。


「…真面目な話なんだがなぁ?」

「真面目に聞いてるよ?」

「そうじゃな、熊子にしては非常に真面目に聞いておるとワシも思える」

「ふふーん」

「普段がどんだけ不真面目なんだって話だが、まあそれは良い。で、お前ら俺の話が今更ってのはどういう意味だ?」


高いはずの肉体のスペックに、相対する敵は何処をどう見ても確実に弱い部類の所謂雑魚(MOB)である魔獣。

苦戦する要素など無いと言うのに、どうなっているのか。

それを話し合おうと言うのに、アマクニと熊子は「何を今更」と言う。


「て事は、だ。お前さんらはそんな事とうに判ってて、対策してるってこったな?おい教えろ、何がどう駄目なんだ?」


ずいっと迫る竜人に、熊子は両手を肩の高さに上げて、「ハッ」と笑う。


「…なんだ?」

「教えて下さい、熊子様。って言ったら教えたげる」

「……」


熊子の言い草にかちんと来たカレアシンは、ゆらりと立ち上がるや、くるりと後ろを向いて声を上げた。


「ヘスペリスーーー!」

「え?ちょ!?」


いきなりココにいない黒エルフの名を呼んだカレアシンに、熊子が慌てて立ち上がるが、その次の瞬間には、熊子の横に、しなやかで優美なラインを魅せる女ダークエルフ、ヘスペリスがするりとした姿勢で立ちふさがっていた。

「呼びましたか?」

淡々とした声色で自分を呼んだカレアシンに首を傾げて問いかける。

「…そこのちみっちゃいの、うっとおしいからちょっと教育しなおしてくれ。無理ならちょいと扱き使ってくれていいからココから暫く持ってっといてくれ」

「判りました。では洗濯でもさせておきましょう。熊子?」

「黒ねーちん呼ぶとか卑怯な。っていつの間にウチの襟首掴むかな?って何でウチより素早さ低いはずのくせに毎回毎回こんなに簡単にウチを捕まえれるのー———…」


「さて、静かになった所で、だ」

「ふむ、判らんか?」

「あら、何がかしら?」


三人で車座になって座りなおし、さっきの続きとばかりに話だしたカレアシンだったが、再び逆に問いかけられてしまった。

呉羽も要領を得ないようで、首を傾げたままだ。


「簡単に言えば、じゃ。おぬしらは若葉マークを付けたスーパーカーなんじゃよ」

「は?」

「…ああ、なるほど。そういうこと、ね」


さらりと言い切ったアマクニの言葉に、カレアシンは困惑を深めたが、呉羽は即座に理解したようである。


「もうちょっと噛み砕いてくれ。って言うか、あれか?車の性能はいいけど運転手が駄目って……ああ、そういう意味か」


更なる説明を求めてきたカレアシンだったが、自分の言葉で勝手に理解し、納得していた。


「判ったかの?」

「ええ、実に単純な事」


くすりと笑いながら、呉羽が続けた。

この世界に転生したばかりの自分達は、乗りなれない高性能車輌を走らせている初心者ドライバーのようなものだったと。

いかに高出力高性能の車だとしても、運転手が悪ければ条件次第で軽自動車にすら負けるだろう。

入り組んだ裏道などでは、それこそ自転車にすら負ける。

ゲームにおいてのいわゆるプレイヤースキルの差と言うやつだったわけだが、実際に自身の肉体とかしているこのハイスペックボディを過信してしまい、そのあたりが疎かになっていということなのだろう。


「状況に応じた闘い方すら出来てなかったってことか」


一旦理解すれば、そこはすんなりと納得が出来た。


「とすれば、熊子がいってたのもあながち間違いじゃないわけだ。まさかリアルに機体の性能の差が戦力の決定的差でないことを教えられるとは」


繰り返すが熊子の戦闘能力は、基本的に対人戦の接近短打に特化されている。

組打ちや関節技が通用しない相手では、不利に過ぎるのである。

無論、それなりの闘い方はあるのだろうが、以前のようにアイテムを潤沢に使用出来ない現状では難しいのだろう。


「いや、熊子のは只のめんどくさがりじゃろ。よっぽどの防御力(打撃無効)を持ってなければ、あやつの浸透剄は通用するはずじゃ」

「んな技持ってんのかよ、熊子の野郎」


脳裏に舌を出した熊子の姿が浮かぶが、さほど怒りは感じていなかった。


「まあ、熊子も貴方を放ったらかしにしていた訳じゃないんでしょう?」

「…ああ、どうやら俺が下手打たないように見物してるふりしてたってところか」

「熊子も変なところで恥ずかしがりやさんだから。いい子なのよ?あの子」


戦闘経験は、只実戦を重ねるだけでは積み重ねる事が出来ない。

より深いところまで意識と肉体の操作を極めた上で、その時その時で状況を判断して随時対処する事が必要となってくる。

のんべんだらりと闘っているだけでは、それこそこの世界の多くの住人のように成長の頭打ちを迎える羽目になるかもしれない。


「次に街に出る機会にゃなんかおごるか」


すこしすっきりした顔つきになった竜人たちを、うむうむと頷きながら感慨深そうに見ているアマクニは、実に楽しそうであった。



「だからなんでスキルも使わずにウチを捕まえられるんよ!?」

「人間鍛えればバネになるのです。引きこもりのニートだった貴方と、日々の暮らしが肉体を美しく維持する事に直結していた私とを、比べる方がおこがましいと言うものです」


必死にヘスペリスの手から逃れようとする熊子だったが、そのたびにヘスペリスに捕まり、皆の汚れ物を洗わされる羽目になるのであった。


「ちきしょー!」

「五月蠅いですよ、見苦しい」

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