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転生の弐 三番目の転生者 

「異世界に、転生か、転移、ですか…」


その日、私はいつもと違うわくわく感を持って、ゲームを始めようとしていました。

いつもと違う、と言うのは、新たに購入したVR機器を使用してのログインだったという点でしょうか。


「はい、私は三柱の大神が一柱“聖なる混沌(コウライール)”が使徒、“星鏤め(ちりばめ)たる”そ…」

「では転生で」


所定の装置を身につけて起動を行うと、目の前に浮かんだのは真っ白な空間と、3つの選択肢。

そこに居た一人の男?でしょうか。神の使徒とやらが、何か言いかけていましたが、肝心な事は既に聞き理解し決定しました。


「あ、あの」

「転生で」

「あ、はいわかりました」


きっぱりと言い切って、やっと頷く使徒と自称するお方。

神様の使徒と(そんな風に)称するならば、せめてもう少し臨機応変に行動してもらいたいものです。

細かい事はどうでもいいのでとっとと転生させなさい、すぐに。

そうして私をこの忌まわしい肉体から解き放ちなさい。

どう足掻いても、生物として女にはなれないこの身体から!


「早くっ!」

「ひゃいっ!?」



「と言う事があったのです」

「…そりゃお疲れさん」


私と大して変わらないタイミングで転生したとおぼしき、黒鱗の竜人男性。

私よりも頭二つは高く、倍以上太い肉体となっているが、以前と申しますか前世においては寝たきり老人であった、今世においてはカレアシンと名乗っている私と立場を同じくする転生者であります。


「あの何とか言う神の使徒とやらが、さくさく動いていれば真っ先に転生してたのは私だったかと」

「別に良いじゃねえか、早かろうが遅かろうが」

「一番最初に転生しておいて、真っ先にギルマスを出迎えてあげるのは私の責務です」

「いやその考え方はおかし……くも無いか。お前さんら、やけにあの嬢ちゃんに肩入れしてるしなぁ」

「最先鋒の貴方に言われたくは有りませんが」

「うーん、お前さんらとはちょいと感覚が違うんだがなぁ」


仰りたい事は概ね理解していますが、納得は出来ません。

本人としては子や孫を見ているような気分なのでしょうが、前世においてはともかく、今世においてはそれはまかり通らなくなるからです、肉体年齢的に考えて。

とはいえ、私どもの見解は、恐らく一致しているでしょう。


「あのコが来るとして、どれくらいかかると思われますか?」

「来るってこと自体は確信してんだがなぁ…。何やらかんやらあるからなぁ、あの娘も。そのへん考えるとどうもなぁ。例の縛りプレイの件に関しちゃ、累積レベル自体はカンストまでもう少しとか言ってたけどよ」

「はい、スキルもコンプリートしていたはずです。…ギルド設立の理由の半分が、ギルマス権限のスキル取得したかったから、というのには当初呆れましたが」


そんな他愛も無いことを話しながら、私達は自分達の肉体を矯めつ眇めつ確認しておりました。

望んだとおりの褐色の、健康そうなダークエルフ女性の身体。

細くしなやかな指には桜色の形の良い爪が綺麗に生えそろい、当然の事ながら指毛など生えておりません。

腕は細いながらも張りのある、無駄な肉など一切付いていない、二の腕のお肉?何それ美味しいの?と今なら胸を張って言える靭やかさ。

胸元を見れば予想以上に巨大な、女性的な女性の女性たる象徴が深い谷間を形成しております。

天然自然のそれに指先を添わせ、手の平で持ち上げ、両の手でたぷんたぷんと揺らして見ますと、その動きは前世でのコヒーシブシリコンバッグを入れた胸に比べたら月とスッポンどころの騒ぎではありません。

なんでしょう、このなんとも言いがたい柔らかでいて適度な弾力を保つ物体は。

コレが夢にまで見た……おまけに先っちょの……うん、ここはあとで一人になってからじっくりと確認いたしましょう。

胸元を見ていたら、ふと垂れ下がってくる頭髪に気がつきます。

細く柔らかな銀の髪。

褐色の肌に銀髪は、私的にある種完璧な組み合わせなのです。

人によっては白い肌に黒髪、あるいは金髪、中にはピンクの髪などという方もいらっしゃるでしょうが、個人的には譲れません。

さらりと頬を撫でる髪に手をやると、予想以上の心地よい指どおりが感じられました。

長い銀髪は腰まで届き、その細くくびれた腰のラインは自画自賛なるでしょうが、一つの究極体型ではないかと思えるほどです。

安産型と言えばいいのでしょうか、丸みを帯びた桃尻に手を当てると、胸とはまた違う絶妙の肉感的反発力。

そのまま太腿へと滑るように伸びる自身の手の動きを止められないほどの感動が私を突き動かします。

ひらめ筋も美しいと思えるほどの伸びやかさをもって踝へと続き、かかとのすべらかな感触などもうたまりませんでした。

当然の如くかかとの皺など無く、スネ毛など微塵も存在しません。

つま先にまで、微塵の手抜きも無く形作られたこの姿。

小指の爪の形状までもが愛らしく、いとおしい。

夢にまで見た女性の肉体、何処にもメス一つ入っていない自然の身体。

私の本懐、ここに極まれりと言えるでしょう。

目の前の雄々しい竜人も、私と似たような事をしつつ、軽く屈伸などをしながら肉体のスペックを計ろうとしているようです。

私も軽く身体を動かしたのですが、思った以上の出鱈目な身体能力に、あっけに取られたといいますか、笑いが止まらないほどでした。

ゲーム時代と比べれば、スペック的には下がっているのでしょうが、前世の肉体と比較したならば、というよりも比較する方が間違っているのでしょう。


「…オリンピックのメダルでオセロが出来る、と言うレベルの身体能力が現実になるとは思いも寄りませんでした」

「俺なんざ戦車とでも喧嘩できそうなんだが…」


軽くラジヲ体操を行ってみたりしたのですが、大きく振っただけの腕が空気を引き裂く音を発したり、その場で軽くジャンプなどをした時には自分の身長を楽に越えて跳び上がっていました。

お互い自身の能力を些か笑えないレベルだと実感できたのか、若干頬が引きつっているような気がしないでもありません。


「さて、これからどうするか…」

「どうすべきでしょうか。個人的には早急に転移して来ているはずの仲間(ギルドメンバー)を探すのが一番リスクも少なく有益に思えますが」


それは彼も考えていたのでしょう、私の言葉に頷きながら、視線を彼方に向けて進む方向を思案しているように思えました。

と、その時でした。

一人の真っ白な少女がいきなり目の前に姿を現したのは。


その少女は肩幅ほどに開いた両足でしっかりと大地を踏みしめ、閉じていた目を開くと右手を前方に軽く握りこんだ状態で突き出し、ゆっくりと下ろしてゆき、こう言いました。


「転…生…!」


そう言うや、右手と左手を交互に左右に掻き分ける様に振り、右手は腰に、左手は握り拳を作って斜め前に突き出しました。

気のせいか、目から火花が飛び散っている気がします。


「私は死んだ旦那の嫁!ウイングリバー・ブラック!RX!!」


両の手を交互に前方で振りつつ、ピキーーン、と奇妙なサウンド・エフェクトが流れたような気がしますが、まあ気のせいか誰かのスキルでしょう。

というか、ご挨拶的自己紹介乙であります。


「まだかかりそうですか?」

「いま少し…って別に姿変わるわけじゃないですから。えと、ヘスペリス?」

「ええ、こちらは寝たきり爺さん(カレアシン)です」

「お前な、もうちょい言い方ってもんがだな」

「じゃあトカゲで」

「お前な…」

「まだ私で三人目ですか?結構他の皆さんゆっくりなんですねぇ」


私達の掛け合いを歯牙にもかけず、ウイングリバー・ブラックRX―――通称黒子さんはさくっと会話を進め始めました。


「ヘスもお爺ちゃんも、やっぱりさっくり決めちゃいましたか。うんうん」


納得納得と頷く彼女に、私も爺さんも小首を傾げて何か言いたそうに眉間にしわを寄せた。


「ああ、私の場合はですね、ほら、旦那死んじゃってるじゃないですか。せめて子供でも居れば違ったんでしょうけど、残念ながら恵まれなかったですし、もう生きててもしょうがないなーって思ってる矢先でしたから」


結構重い理由をさらりと言ってのける黒子に、私達二人は若干引き気味になるほどでした。


「ヘスもお爺ちゃんも、こう言ったらアレだけど、渡りに船だったでしょ?」

「まあ……否定はしません」

「そうだな……、その通りだ」


頷く私たちに、黒子はにっこりと微笑みつつ、ぴょこんと頭から飛び出しているネコ耳を左右別々に器用に動かしながら、同じリズムで尻尾も左右にふりふりして、こう言いました。


「とりあえず、何か食べるもの探しましょ。そろそろおなか空かない?」

「ああ、腹減ったって程じゃねえが、どっちにしても考えなきゃだわな」

「ですが、見渡すかぎり人家は無さそうですが…。食べられそうな物、有るでしょうか」


当たり前のことを言い出した黒子さんに私は内心首を傾げました。

この方は、こう言ってはなんですが、非常に面白がり屋な人物です。

面白ければそれで良く、面白くないのならば出直してきなさいという方針で生活(プレイ)なさっておいででした。

それがこのような当たり前のことを言い出すというのは少々不可解なのです。


「あーん、ヘスってば何その眉間の皺は。別に取って食うだけの話じゃない」


取って食うというわけじゃない、という用例ではないのですか。

いえ、確かに間違ってはいないのですがなにやら釈然としません。


「適当に食べられそうな物探してね。あ、鑑定スキルで毒の有無とか調べられるから。二人は持ってる?」

「残念ながら」

「俺は一応持ってはいるが?商人プレイは伊達じゃねえ」


私は戦闘に関してならば近接から遠距離、範囲攻撃等々、全てにおいて熟練の域に達していますが、そういった系統のラインナップからはかなり遠ざかっていました。

だって、魔法ぶっ放してすっきりしたいじゃないですか。

ちまちまと採取とか製造とか、そのあたりはそういうのがお好きな方に丸無げしておりましたから、持っているのは精々初期のソロプレイ時に仕方なく取っていたポーション作成スキルの【リ・ゲイン(24時間働けますか)】程度。

ですが、とりあえず何でもいいから狩って来いと言うのならば問題はありません―――。


そう思っていた時期が私にもありました。


「無理」

「って、諦めはえーな。高々ウサギっぽい何かじゃねえか。別にアレくらいなんとも無いだろうに」

「いえ、無理です。流石にちょっと…」


あれから、何か狩ったらココに集合、と言って目印になりそうな大木に印を打って黒子と別れました。

鑑定スキル【目利き(千利休)】を持ってる黒子と【金剛石の瞳(正体見たり)】のカレアシンのどちらについて行くかで葛藤しましたが、黒子から「あ、私は一人の方が動きやすいので」と言われ、カレアシンと行動しています。

見渡す限り、何も居そうになかったのですが、少々落ち着いてくると、そこかしこに何かが居るのがわかるようになってきました。

常時発動の気配察知スキルの賜物のようです。

大木の枝には小鳥が、岩陰には甲虫的な何かが、そして、地面にところどころ盛り上がった部分あり、そこは何かが穴を掘った盛り土で、その奥に何かが潜んでいるのだと理解できる程度には。

私達二人は、ゆっくりと静かにその穴に近寄っていきました。

すると、ぴょこりと二本の薄く長い何かが飛び出してぴくぴくと動き、あたりを警戒しているのだということがわかりました。

その仕草には記憶があります。

体高約1.5mのウサギ。みたいな魔獣。

この世界…というかゲーム時代には、初心者の討伐対象でありました、グレート“ありがと”ラビットと言う魔獣です。

でかいです。

地面に開いた穴から頭だけ出して周囲を伺ってから姿を現したのですが、見た目はそのままウサギなのに、大きさが前世のウサギの域を越えています。

なんでしょう…猫だと思って近づいたら、虎サイズを超えてライガーレベルでした、という感じでしょうか。

いえゲーム内でも自分のキャラクターと大きさを比較してウサギにしては大きいなとは思っていましたが、現実に見てみると違和感どころの話ではありません。


「…流石にこのサイズはリアルでは気後れしますね」

「仕方ねえなぁ…。うりゃ!」


少々躊躇っている間に、カレアシンが一気に巨大ウサギに駆け寄り、まったく反応する暇を与えずに首を手刀で切り飛ばしていました。


「さて、血抜き血抜き」

「ウサギを首切りで一撃必殺とか…。ある意味逆のような気がしないでもありません」


カレアシンは、飛ばした頭を私に投げ渡すと、狩ったグレートありがとラビットの足を掴み、引きずるようにして黒子と合流するために元居た目印の木に向かいました。

木の根元に着くと、木に絡み付いている蔦を引きちぎり、何本か編み束ね、次に抜き手を足へと突き込み、深く切り込みを入れそこに先ほどの紐を通して持ち上げ切れないか確かめた後、適当な枝振りを探して足を上にして吊るし、血抜きを始めました。

しばらくそのまま放置している間に、黒子が手を振り振りこちらへと戻ってくるのが見えました。


「やー、大漁大漁。そっちも大物だねぇ。こっちはコレとコレとコレとー」


黒子は一つ一つ指差して言いながら、肩に担いだ物や両手に溢れるような収穫物を降ろしていきます。

腕ほどありそうな大きな魚が数匹、エラやはらわたまで抜かれて綺麗に処理された状態で、木の皮のような物で編まれた紐で括られています。

また、プリンスメロンほどの大きさの胡桃のような実がいくつかをお手玉するように片手で持ち、一抱えほどある巨大な…卵?でしょうか、それが肩に担がれていました。


「これねー、中身は無かったのよね。どうもここんとこから中身だけ飲んじゃったみたいで」


指差す先には手の平サイズの穴。

どうやら黒子が訪れる前に、他の捕食者が殻を割って中身をいただいてしまった後だったようです。


「いやまあ、好都合といえば好都合だったんだけどねー」


そして殻を足元にそっと置くと、手にしていた巨大胡桃を両手で掴み、「ふんっ」と気合を入れて綺麗に真っ二つに断ち割りました。

中には申し訳程度の白い仁が納まっていたがそれは黒子によって投げ捨てられました。


「あれ、食べると下痢するみたい」


じゃあなぜ持ち帰ったのかと聞く前に、黒子はその実の殻を卵の穴に突っ込み、すぐ取り出しました。


「はい、のど渇いてたでしょ?」


ああ、卵の殻を水筒に、胡桃の殻をコップ代わりにと用意したのだと理解した私は、どれだけ察しが悪いのかと自分が情けなくなりました。


「ちゃんと卵の殻は洗ってるからねー」


そう言いながらカレアシンにも同様に水を汲み差し出しているのを見るにつけ、本当に女性だと言えるのはアレくらいの気が利く人の事を言うのだろうかと内心不安になったりもしました。

その件に関しましては、後々「アレは特別」と言われた事により、無理はしないように気をつける事となりましたが、黒子に関しては本当に彼女が居て助かったと思います。

その後も黒子無双は続きました。


彼女はココから地平線の向こうにそびえる山の麓まで走り、そこにあった森で探索を行ったらしいのですが、距離にしておよそ20kmを半時間あまりで走破したのだそうです。


「往復で一時間ほどかな。金メダル楽勝だよね」


などと、彼女はやけに良い笑顔で言ってのけます。

その後、何度か私も同行して彼女の狩りに付き合いましたが、森の民である補正を加味しても、猫種の獣人である彼女の方が森の中では上手であったのは言うまでもありません。


「早く製造業のスキル豊富な人転生してこないかなー」


川原で拾った黒い石を割って作った石器ナイフ片手に、木の枝を削って箸や匙を作り出す彼女は、前世ではいったいどのような主婦だったのでしょうか。

色々興味は尽きません。


コレまでシアばかりを追いかけていた私でしたが、コレからが色々と他の方々の楽しいところを探して生きたいと思います。


「ヘスー、誰か転生して来たっぽいよー」


……この感触、奴か(サブマス)?!

コレは是非丁重にお出迎えして差し上げなければいけません。

それでは皆様、今日のところはこの辺で失礼させていただきます。


「今行きます、黒子」


転生して、良かったです。

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