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転生の拾五 接客なら任せろー(バリバリ) やめて!

ギルドハウス(仮)に迫る騎士達は、この平原の北に位置する都市、ブルディガラを首府とするアクィタニア公爵領の手の者である。

アクィタニア公爵は、エウローペー亜大陸の西部に位置するゴール王国の、西南部一帯を占める地域を領地とする大貴族で、その所領も南方に聳え立つピューレーナエイー山脈から滔々と流れるジロンド川と言う大河が、一帯を肥沃な地に育て上げているために、実り豊かな耕作地を抱える王国随一の食料庫として揺るぎない存在として重要視されていた。

当然このヴィーブルダンセ平原もその所領の一部という事になるのだが、ワイバーンの餌場となっていたために、主な街道や集落などを見回り、魔獣や盗賊などが根城を築かぬように治安維持に務めている部隊が、片手間に様子を覗く程度の扱いであった。

今回この地に訪れたのも、そのいつもの見回りの一貫であったはずなのだが、少々事情が違っている。

と言うのも、ワイバーンの繁殖周期だと想定されている時期だというのに、これと言った目撃報告、被害報告が無かったため、より強力な魔獣が件の平原を棲家としてしまっていて、ワイバーンが他の地を餌場としているのではないか?という噂が流れたからである。

ワイバーンよりも質の悪い魔獣が住み着くのも厄介だが、そのワイバーンが他に流れたのであれば、新たな被害が発生しているやもしれない。

であるならば、事実を確認して対処せねばならない為に常よりも詳細な見回りを、と言う命令がくだされた。

そういった次第で、彼らは先ず斥候役を平原に送り込み、状況の確認を行い、次いで部隊の主力である騎士たちが進出、その分割された地域を検分するうちに、目についたギルドハウス(仮)へと馬首を巡らせたのである。

……ワイバーンよりも物騒な連中が住み着いているのは、未だ彼らの預かり知らぬところである。


「我が名はギルバート・ギルバルト!ゴール王国騎士である!訪ねたき儀があり申す。貴様らの(おさ)は誰か!」


そうしてギルドハウス(仮)を訪れた騎士の、最初に放った言葉がコレであった。

早々に彼ら騎士達の来訪を察した者幾人かギルドハウス(仮)の前に姿を現してはいたが、彼らはどう言ってよいやらと首を傾げた。

ギルドとしてならば、代表者であるギルマスは未だこの世界に存在しておらず、現状では呉羽が皆を代行として率いていたが、彼女もまた素材集めの遠征に出かけているために不在。

そういった状況のため、本来ならば声をかけられた者が現在ここでの指図を行なっているアマクニを呼ぶべきだったのだろうが、どう返してよいものやらと思案してしまった為に返答が遅れた。

そのため、最初に言葉を返したのは、ギルドハウス(仮)の奥で台所仕事をしていた彼女となってしまったのだ。


「は~い、今行きま~す。ちょっと待ってね~」


やたらと呑気な声が聞こえ、ガチャリと開かれた扉から現れた人物に、騎士達は目を疑った。


「なっ、なんと破廉恥な!ここは娼家の類いか!?」

「あらあら、また脱いじゃってるわ。ごめんなさいねぇ、お見苦しいもの見せちゃって」


転生者ツィナー・ジャコビニは水棲人である。

本来の生息域である水中に於いて行動を阻害する衣服を本能的に厭う傾向が強く、それ故に本人の意志とは関係なく無意識に肌を晒す事になるのである。

実にけしからん、まったくもってけしからん事情である。

身体にフィットした、ボディーラインがそのまま丸わかりの、やもすれば素っ裸と見間違える色合いの、転生したての時点から着ている薄い上下のシャツとスパッツ。

そんな姿の、どこから見ても女性的な部分が女性としてご立派な女性が現れたのであるから、騎士であるギルバート・ギルバルトにとっては驚天動地の出来事であったのだ。


「ギルバルト卿、落ち着いてくだされ。見たところ彼女は水の民、彼の者達は衣服を身に着けぬが本来の姿とか」


顔を真赤にして憤っている若い騎士に比べ、比較的落ち着いた対応で窘める意見を出してるのは、少々年季の入った鎧を身に付けた、壮年の男であった。

その男は自分よりも年若い騎士にへりくだるように懇切丁寧に読み取った状況を説明し、落ち着かせる事に何とか成功したようである。

その一部始終を見ていた転生者は、「ああ、お馬鹿な上官と苦労する副官はココでも存在するのか」と感慨深かったという。



「いや、これは美味い。美味い茶ですな」

「まあ、お上手ですこと。こちらのお茶うけもいかが?」

「いただこう。いやしかし、ザダムント卿の舌は確かですからなぁ。それにしてもこの鼻腔を通る清々しい香りは筆舌に尽くしがたい」


櫓から格好をつけて飛び降りたアマクニであったが、着地の衝撃で足がしびれてしまい、暫くの間某未来少年の様に全身を震わせて耐えていたために、おっとり刀で駆けつける事となってしまった。

そんな彼が見たのは、ギルドハウス(仮)内でツィナーに香草茶を振舞われている二人の騎士の姿であった。


「なんじゃ、騒動にはなっとらんのか」

「騒動になって欲しかったん?」


ポツリと漏らしたアマクニの言葉に突っ込んだのは、ツィナーと騎士らの様子を伺っていた牛種の獣人女性であるマイアである。

牛種獣人の彼女は、濃い茶髪をショートカットにしており、その髪側頭部から一対のツノを生やしたバインバインな体型をしている。

生産系のスキルは基礎的な物しか持っていないため職人というわけではないのだが、戦闘スタイル的に現状では狩りに向かないため居残り組の人物である。

他の面子は、と言うと、騎士の応対をツィナーに任せて作業に戻っていたりする。

そのため手の空いている彼女が見張り役というか、何か揉めた時の仲裁(物理)役として見守っているのである。


「何事もないのならそれが一番じゃがな」

「まあそれには激しく同意するわね」


和気藹々とした三名の様子にアマクニも胸をなでおろし、気を取り直して彼らの元へと歩みを進めた。


「お初にお目にかかります、騎士殿。現在ここを任されているアマクニと申す。以後お見知りおきを」


堂々とした名乗りとともに進みでたアマクニに、騎士の二人はかけていた椅子から立ち上がり、こちらも堂に入った名乗りを上げた。


「ゴール王国が騎士、ギルバルト・ギルバートと申す。この度はアクィタニア公より、ここ、ヴィーブルダンセ平原の現状確認の命を受け、領軍に同行して動いておる次第。よろしく頼む」

「アクィタニア公が騎士、ズマナ・ザダムントだ。ギルバルト卿同様の任務に付いている」


お互いの名乗りの後、ツィナーに席を譲られたアマクニは、二人の騎士からの話に耳を傾けていた。


「ふむ、なるほどの」


ワイバーンの餌場である事、その餌である巨大ウサギが棲家としている事、そして来るはずのワイバーンが来ず、大量に繁殖しているはずの巨大ウサギが想定よりも遥かに少ない数しかいない事が語られた。

その為、今の状態でワイバーンが来た場合、獲物を求めて近隣の集落を襲う可能性が有るのではと。

半ば想像していた通りの内容に、アマクニはさてどう言い繕えばよいかと思案した。

が、下手な駆け引きを行なって変に悪影響が出てはいかんかと、簡潔に説明をすることに決めた。


「ワイバーンならワシ等が倒した。巨大ウサギは増え過ぎるとこの平原が丸裸になりそうじゃったので適当に狩っといた」

「―――は?」

「……アマクニさん、もうちょっとオブラートに包んでくださいな」


あまりにもあんまりな言葉に、騎士らは絶句し、アマクニの座る椅子の背後に控えていたツィナーまでもが額に手を当て呆れを隠そうともしない。

そもそも彼はこう言った説明が不得手であった。

前世ではソレが原因で仕事先とトラブルを起こした事もあったと言う。

まあ同様に、それゆえに職人としては信頼されていた部分もあったと言う話だから、一概に悪いとは言えないのかもしれないが、少なくとも交渉事を任せるのに向いているとはお世辞にも言えなかった。

もうちょっと交渉事の上手な人が残っていてくれればと内心嘆息したツィナーであった。

とは言え今はこの場にいる者達だけでなんとかしなければいけない。

自身も接客こそ出来はするものの、あまり交渉には向いていないと考えている。

精々が前世においての料理人というお仕事的に、食材の値段や仕入れの数をどれだけ安く、いかに店として効率よく確保できるか、といった程度にすぎない。

それに関しても、自身のこだわりから割高になる国産品を多用しては赤字に苦しむという、経営能力の無いオーナーシェフであったため、本人的には素人に毛が生えた程度だと思っている。

さて、どういう方向に話を持って行けば穏便にすむのかしらと悩む心の内側を欠片ほども外には出さず、ツィナーはテーブルのポットへと手を伸ばした。


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