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転生の拾四 我が名は兎

「んー。あのさー、じーさん。スッゲ気になってるんだけどさー」

「ん?あー、あれか?ワシも些か気になると言うかうざったいんじゃが……こちらに何かしてくるって感じでもないしのぅ。対処のしようがない。あとじーさん言うな。見た目がジジイっぽいだけでワシだってお主ら同様ぴっちぴちのてぃーんえいじゃーなんじゃぞ」

「そーゆー言い方がジジ臭さ大爆発なんだけどー」


ワイバーン襲来や巨大ウサギ魔獣の間引きを経て、それなりの平穏な日々を送っている転生者であったが、未だにギルドマスターが転生してこない為、今日も今日とてヴィーブルダンセ平原にぽつんと建てられているギルドハウス(仮)の物見櫓では、当番の者が常時二名張り付いて周囲を監視しつつ、最後の転生者の出現を心待ちにしていた。

武具に用いる為の様々な素材を集めるために魔境と呼ばれる地域に少々遠征を行なっている者達や、狩った魔獣の有用な部位のうち、余剰分を売りさばきに出かけている者以外は、ギルドハウス(仮)で今後のことを考えての生産技能の実践等を行いつつ、お留守番と相成っていたわけであるが。

本日の見張り当番であるドワウフ男性のアマクニと兎種の獣人女性、ハクトの二人は揃って困惑していた。

何故ならば、ギルドハウス(仮)のあるヴィーブルダンセ平原のあちらこちらに、斥候じみた動きを見せる者達がやたらとうろつき回っているからである。


「なんなんだろーねー」

「なんなんじゃろうのぅ」


などと言いつつ、取り敢えず敵意は感じないために、アマクニは先日狩った巨大ウサギの革の加工を行い、ハクトの方はその製作過程をまじまじと見つめていた。


「こっちばっかり見とらんで周りをだな」

()で見てるから大丈夫ー」


作業を横からじっくりと見られる事に少々煩わしさを感じたのかアマクニがそう言うと、ハクトは長く白い耳をぴょこりんと動かして警戒はバッチリだとばかりに胸を張った。

確かに兎の獣人である彼女であれば、下手に目で見るよりもその長い耳の集音能力を利した鋭敏な聴覚でパッシブソナー的に全周囲を警戒しておけば間違いはないだろう。

むしろ工作の片手間に常時発動型の索敵スキル【気配察知(何奴っ!)】でのアマクニよりも、感知能力は広く精度も高いと思われる。


「それよりさー。ソレ(・・)あとどれくらいでできるの―?」


ハクトはアマクニが手にしている製作途中の品を、興味津々に覗きこんで尋ねた。

巨大ウサギの白い毛皮は丁寧に処理されており、そのふわふわのもこもこさ加減は見ているだけでもくすぐったくなってきそうだ。

そしてソレを掴んで加工を施している手はというと、無骨で太いドワーフの短い指である。

それが器用に細い針をつまみ、チクチクと運針してゆくさまは、見ていて嘸かし飽きないことだろう。


「あん?こいつはあと裏地を打つだけじゃから、もうじきに出来上がるが……」

「じゃあ次は私の奴!バニーコート作って!ねっ!お願い!」

「ダメじゃ。もうそろそろ冷え込んでくる頃合いじゃからな。皆の防寒着が優先じゃ。というか適当な服を着ておればそれでえーじゃろ。元が兎種なんじゃから」

「えー、やっぱタイとかカフスとかストッキングとかハイヒールとかが無いとさー。じゃあ私オーバーコート要らないからその代わりに作って―」

「ええかげんにせんかい。愛に悩んだり悪に苦しんだりする人々の叫びやら嘆きが聞こえるピンクの人の格好にしてやろうか?」

「あー……。それは勘弁―」

「だいたいどいつもこいつも『外套作るならインバネス型がいい』とか『トレンチにしてくれ』だの『だっふるだっふる』だの『モッズパーカ(M-51)でおながいします』とか『ロシア風の奴で(ドゥブリョンカ)』だの、わしゃかなわんよ」


文句を垂れ流しつつも作業を止めないアマクニに、ハクトはご苦労様ですと頭を下げた。

自分達の装備の製作を引き受けてくれているアマクニ率いる職人スキル持ちは、スキルが使えない素の状態では身体能力が高いだけの素人である。

転生して間無しの今の状態では、以前のような生産数は確保できないと言うことで、只今絶賛レベリング中である。

アマクニだけが中の人自身が職人だったために、スキルを使って作成・スタミナ消費→回復まで普通に手作業というエンドレス生産状態で拡大再生産的レベリングを行なっているのである。


「……全く。仕方がないのう、耳と尻尾は自前のでいいんじゃな?」

「あ……うん!ストッキングはシーム有りの奴で、ハイヒールは踵が9センチはほしいかなー」

「……変な所にこだわる奴じゃのう」


渋々ながらも請け負ってくれたアマクニに、ハクトは嬉々として自分の要望を伝えた。

その代わり、周囲の監視は自分に任せてくれと言って、アマクニに作業に集中してくれと自身の胸をドンと叩いた。



「っと、なんか来たよ、じーさん」

「なんじゃい」


先のやり取りから暫く、不意にハクトが声を上げ、アマクニを呼んだ。

索敵をするまでもなく、騎乗した騎士とその従騎士が真っ直ぐにこちらに向かってくる様子が目に入りました。


「ありゃあ、ゴール王国(この国)の騎士かのう?」

「みたいだね。なんか用かな」

「……んまあ大体察しはつくが、の」


アマクニは「見張りは任せる」と言い残し、物見櫓から身を翻した。

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