転生の拾壱 ガッ
「ふん、ありがちな話だな。しかしそいつら気にくわねぇ」
「怪我も無く助けてあげられたんならまあ良かった部類じゃないの~?」
「言わせてもろたらあれやけど、今時用心棒もおらんサービス業っつーのが信じられへん」
詳しい話を俺から聞いた三人は、三人三様の感想を述べた。
獣人女性のセイバーは、漢らしく乱暴を働こうとした連中に腹を立て、水棲人女性のツィナーは結果オーライなんだからいいじゃないと楽観的だ。
翼人のナスカだけが、その店の防犯体制というか危険に対する警戒意識が低いと危惧していた。
生粋の関西人であるナスカとしては、飲食店にそういった類の客が来るのは仕方の無い事で、対策を講じていて当たり前だと言うのだ。
「前世の地元やと、基本的に危なそうな奴が来たら嫌やから、そういう系統の知り合い作っとくのもしゃあない事やったしなぁ…」
いわゆるミカジメ料を払ってでも、と言うことであろうか。
「この世界、警察みたいなモンはおっても、基本的にそこまで目が行き届かへんしなぁ」
城の衛兵や街の守備隊、町の自警団などは居る事は居るが、今回のような事例には時間的にも対処できなかっただろう。
だから、多少気のきいた店では、それなりの腕っ節を持つものや、そういった方面に顔がきく人物に庇護を求めるのが通例なのだが。
「……」
三人の声を背に、俺は足を止めずに歩き続けた。
そして―――。
「この宿に、『黒の大地』って傭兵団が泊まってると思うんだが、いるか?」
新市街の端にある、場末の宿のカウンターで、俺は奴らが居るかどうかを問い合わせた。
聞かずとも、ロビーに転がる酔っ払いの男や、申し訳程度の広さしかない宿の食堂で繰り広げられる饗宴に、答えは押して知るべし、である。
視線だけで俺に答えを返す宿の男には、「迷惑料だ。足りなきゃこいつらから取り立ててくれ」と言って、金貨を指ではじいてやった。
「あっ!てめえは!」
どこに隠れていたのか、酒場で俺が顔をふんずけてやったやつを筆頭に、全員が雁首そろえて二階へと続く階段から姿を現したのだ。
「なんだあ!?今更謝りにきたってのかぁ?ふん?」
いきなり襲ってこないのは、もしかすると酒が抜けて落ち着いたのかそれとも……。
「変わりにそのねえちゃんどもを差し上げますから許してくださいってかぁ!?」
そう言いながらげらげらと笑う傭兵ども。
どうも変な勘違いをしたようである。
俺の横を通り、背後に居る三人娘に近づいてゆく。
「おじょおちゃん、俺達がかわいがってあげまちゅからね~。あんな優男より、気持ちよくしてやるぜブラッ?!」
調子に乗って、彼女らのうちの最も女性的な部分が女性的な女性であるツィナーの女性的なところに手を延ばした男は、案の定その隣に立つ獣人女性のセイバーに軽い一撃を食らって膝から崩れ落ちていた。
とはいえ、普通の人間から見たらふらふらと近寄っていった男がいきなりひっくり返ったとしか見えないだろう。
それほどに獣人の動きは速い。
ツィナーへと男の手が伸びた瞬間、横に立っているセイバーの片手が閃き、顎先を指で弾いた、ただそれだけなのだが、それだけでも気を失わせるには十二分の威力はあったようである。
「何だ、弱えぇじゃねえか」
嘆息するようなセイバーの言葉に、ようやく周りの男達も供物として連れてこられた女性ではないと理解したのか、一気に色めき立ち腰の物を身につけている者は抜き放ち、そうでない者は手近な物を手にしてこちらを囲もうとじりじりと移動を始めていた。
そんな中俺はパン!と手を打ち、周囲の意識をこちらに集めた。
「俺は一言警告に来ただけだ、あの店に手を出すなってな」
スキル重複起動【劇場型空間支配】・【影分身】。
俺と3人娘の背後に白地に赤く燃える日輪のしるしが棚引くように浮かび上がり、そして。
『世のため人のため、悪党どもを打ち砕く冒険者ギルド!この日輪の輝きを恐れぬのならば、かかって来い!!』
「ええいこしゃくな!かかれえ!」
スキルによる思考誘導の口上が終わると共に、傭兵団『黒の大地』のご一同が、いっせいに襲い掛かってくるようにしむけたのだ。
俺の姿目掛けて全力で振られた剣が、槍が、全てがすり抜けて獲物を振った連中はたたらを踏む。
影分身による俺たちの残像に襲いかかった奴らは、更に後から押し寄せる傭兵団の面子により、バランスを崩した彼らはそのまま絡み合うように倒れ、やけに滑りの良い床のせいで、そのまま宿の外へと押し出されてゆく。
「たったコレだけ垂らすだけで、アレだけ滑りまくるのかぁ。便利だねぇ、液体操作は」
おどける様にそういって笑うセイバーに、俺は笑みを返す。
種族特性は便利だが、その分水気の無い所では活動が制限される。
言ってみれば、活動範囲が狭められている水棲人への神様からの贈り物だ。
別に行動範囲が狭いのはコードが付いてるからって訳ではなく、水気が少ないと水棲人は疲れやすくなる。
尋常ではなく、だ。
俗に言う河童と同じような状態にもなると思ってくれていい。
いや、別に皿の水が無くなったら干物状態になる訳じゃないが、極端に弱る。
だがしかし、この街は程近くに大河が流れ、後背湿地を持つ、山間部における沖積平野という地形だ。
豊富な水源を有し、そこかしこに井戸も設けられている。
これほどまでに水棲人に力を与えてくれる内陸の土地など、そうそう無いとも言える。
その力を用いて、酒場で貰った酒瓶から垂らした酒を操作し、平滑作用を高めてやった。
要するに滑りやすくしまくってやったわけだ。
想定通りにくんずほぐれつしながら宿の外まで団子になって滑っていった奴らを、俺たち四人は準備万端でお迎えした。
単にひっくり返っただけで、たいした怪我人はいない。
それに、まだ宿の奥にも何人か残っている。
俺の横では三人の女性陣が今や遅しと力の解放を待ち望んでいる。
「4対40くらいかしらぁ?」
「はっ!相手になるか怪しいもんさ」
「セイバーは獣人化禁止ね」
「えー?ナスカぁ、そりゃねえよ」
「殺しちゃうのは拙いんだってさ」
ぐだぐだ言い合う女性陣。
そんな会話を聞いて、傭兵団員らは色めき立つ。
たかが四人に舐められていると、そう思っているのだろう。
「アンタらなんざ、僕一人、この棒切れ一本で相手出来る程度なんだけどね」
起き上がってこっそり背後に回ったつもりの一人を、後ろも見ずに杖を手のひらの中で滑らせて後ろへ伸ばす。
下から上へと手首だけで叩き上げ、股間を潰す。
「性根を入れ替えても駄目っぽそうだから、とりあえず叩きのめさせていただきます」
そう宣言した俺は、他の三人が嬉々としてぶん殴り始めた中を、杖一本を手に、進んだ。
杖術…その昔は棒術と呼びならわしたそうである。
俺が持つのは腰程の高さの只の木の棒であり、正しく棒術であった。
突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀 そう呼びならわされる程に、汎用性が高く、なおかつ手加減がしやすい為に対人においてはこの上なく重宝する。
そして、何よりも、安くつくのが良いと、俺は思う。
思う存分にぶちのめした所で、全員を拘束して引きずって行く。
水を使えば引きずるにもらくちんだ。
「さて、知る人ぞ知る我ら冒険者の地獄、何処まで耐えられるか味わってもらおうかな」
身動きの取れないままの傭兵達を、俺たちは引きずって行く。
彼等のその後は、ようとして知れない。
☆
ドカン、と蹴られた扉は、開けられたと言うのもおこがましい状態でその場に砕け散った。
凄まじい膂力の持ち主として知られる竜人の男が、それを成したのだと理解した次の瞬間、今にもブレスを吐くかのような勢いで口腔を震わせ叫んだ。
「ここの責任者は誰だぁ!」
その言葉と共に叩き付けられたのは、傭兵ギルドが交付するギルド所属の傭兵団である事を示す会員証とも言うべき紋章が描かれた旗。
傭兵ギルドの紋章である、交わる剣と矛の間に、各傭兵団の印が縫い込まれる旗である。
剣と矛の間に描かれているのは、漆黒の盾とヘルム。
傭兵団『黒の大地』のシンボルマークであったそれが、今ここ、傭兵ギルドの交易都市ルグドゥヌム支部で泥まみれになり受付カウンターに広げられていた。
「私どもが旅をしておりました所、とある街道で襲撃に遭いましたの。辛うじて撃退はしたのですが、その際打ち倒した相手の所持していた物の中からこれが」
扉を蹴り飛ばした竜人の横から、頭部に角を生やした魔人の女性が姿を現し、そう説明した。
傭兵ギルドの旗は、容易く偽造出来ないように、傭兵ギルド本部に所属する魔法使いが魔力を込めた糸で編まれた逸品である。
そして、持ち込まれた旗は、紛う事無く傭兵ギルドより傭兵団『黒の大地』へと受け渡されていた物であった。
受付前で睨みつける竜人と、交渉役であろう魔人女性を前に、傭兵ギルドルグドゥムヌ支部の面々は、多いに戸惑っていた。
傭兵団『黒の大地』に関しては、確かに良い噂は聞かないが、よもや盗賊行為にまで手を染めていたとは、と言う困惑と、それを否定しきれない彼等の行動がその背景にあった。
食い詰めた傭兵が盗賊行為を行うと言う話はよく有るが、精々流れ者や与太者の類いが徒党を組んで、と言うのがほとんどだったのである。
それが、たとえ普段の行動はどうあれ、曲がりなりにも一端の傭兵団として名を連ねている者がそのような行為を働くとは———。
「と言う訳で、こちらに所属する傭兵団と言う事を調べさせていただいた次第ですの」
支部の奥、この支部を統括する責任者である中年男性が、脂汗を盛大に垂らしながら、魔人女性———呉羽———の言葉を平身低頭に聞いていた。
彼女の背後には、竜人カレアシン、ダークエルフのヘスペリス、ドワーフのアマクニ、ホビットの熊子と、水棲人のジューヌが並び、一様に無言を貫いてはいたが、その存在感と圧倒的な実力差を垣間見せる立ち振る舞いに、傭兵ギルド支部を取り仕切る、いつもであれば大傭兵団と言われるような組織の長にすら威圧的な態度を取るようなその男———ピエール・デザルグも、自身の命の灯火が正しく雷雨のまっただ中に放り出されているかのように感じていた。
「その、私ども傭兵ギルドと致しましてはですね、あくまでも各傭兵団に仕事を斡旋しているだけでありまして…」
言い訳がましい建前を言う男に、冒険者と名乗った者達は、一様に表情一つ変えず、あくまでも無言。
「では、傭兵団が独自で行動した結果であり、傭兵ギルドは一切関知しない、そう仰る訳ですわね?」
「は、誠に如何ともし難い事柄でありまして」
何とかこの場は誤摩化せそうだと一瞬安堵したピエールは、次の瞬間総毛立った。
目の前の魔人女性のみならず、その背後を固める5人からも同様の気配が醸し出されていたのだ。
「判りました。それでは私ども冒険者は、その旗を持つ者全てを、傭兵団『黒の大地』と繋がる者として今後対応させていただきます」
「は?どうしてそうなるのですか!」
淡々とした言葉で告げられた言葉に、ピエールは慌てて声を荒げた。
「私どもは、この旗を、傭兵ギルドに所属している傭兵団の証と伺っておりました。そしてギルドに所属している傭兵団は、その後ろ盾として傭兵ギルドを前面に出して交渉ごとを行うとも」
そこで呉羽は一旦区切るかのように口を閉じ、視線を落とす。
再び口を開いた時、その口調は一変していた。
「口で言って判らぬならば、我らは剣を取り肉を裂き骨を割る。貴様ら傭兵ギルドが、所属している輩の手綱を取れぬと言うならば、我らが根こそぎ始末を付けよう。争い?違う、我らが行うは戦争よ。よろしいか?地を這い泥を啜り我らは生きて来た。今更再びその境遇に戻る事に些かの逡巡も無い。貴様らが輩を御せぬならば、我らは我らで死を纏う。良いか?火をつけたのは貴様らだ。我らは火が燃え移らぬように忠言を届けに来たのだ。それを振り払うのは貴様らだ。火は普く大地を満たす。心せよ、おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。貴様らが悪の淵にいる事を、心せよ」
言うだけ言って、呉羽は立ち上がる。
そのまま部屋を後にしようとして、すっと姿勢を正した。
推し量ったようなタイミングで、その背後の扉が開き、飛び込んで来たのはこの交易都市のみならず、ゴール王国にその人ありと名高い、ジョセフ・ジョフル将軍であった。
☆
「と言う訳でぇ、傭兵どもからの干渉はもう無いと思うから、安心してくれていいわ〜」
「け…剣戟のジョフルが出てくるとか、どこの英雄譚?」
件の酒場で、店の看板娘相手に三人娘が事の成り行きの一部始終を話し、件の傭兵団の壊滅と、傭兵ギルドへの説得も終了したとして、営業妨害もしくはそれに類する障害は今後無いであろうと言う事が告げられていた。
一通り話し終えたあと、三人娘は各々好き勝手に飲む事にしたらしく、ジューヌと同じ水棲人であるツィナーは、その豊満な肉体を惜しげも無くさらしながら、店のカウンターでセラ相手にグラスを傾けているが、他の二人、セイバーとナスカは店内のテーブル席で、他の客と混じってジョッキ片手に飲み比べを行っていたりと賑やかこの上無い状況であった。
「で、あの、じゅ、ジューヌ、さん、でしたっけ?あの方は?」
セラは、カウンターの中で、酒樽を転がしながらツィナーに自分を助けてくれた張本人の所在を尋ねた。
「ああ、ジューヌ?あいつったらねぇ、余計な事した〜とか言って、さっさとこの街を出る気らしいわよ〜。もう暫くここを拠点にお仕事するつもりだったのにねぇ…って。あら?」
言っている最中に、先ほどまでそこに居たセラの姿が見えなくなっていた。
ツィナーは当然彼女が慌てて店を出て行ったのに気付いていたが、視界の端で見送っただけで、それ以上の事は何もしはしなかった。
「若いって良いわねぇ。…さて」
ひょい、とカウンターを飛び越えて、そこに並ぶ酒を一通り見回したツィナーは、主の消えた店で暫く酒を提供する役目を担う事にしたのだった。
あてなど無いままに走り出した彼女は、夕闇に染まる街をひたすらに一人の人物を求めて駆け巡っていた。
先ほどの女性の言い方では、もう既にこの街から出たのかもしれない。
でもまだ居るかもしれない。
そう思うと無駄とも思える行為に身を投じる事に、一切の躊躇は無かった。
「エクスキューズミー、ちょいとそこのお姉さん」
「…は?」
一生懸命に走っているはずの自分の横を、自分よりも遥かに背の低い少女が息一つ切らさずに並走しているのに気付いた。
「うーわ、糞、超別嬪さんじゃん。あんにゃろ何考えてやがる」
「え、と?」
思わず走る速度が落ち、そのまま足を止めてしまう。
「はじめまして、あっち向いてホイ!そしてさようなら」
「え?あっ!あら?」
目の前でいきなり指差された先に目を向けると、目当ての男性が歩み去って行くその背中が見えた。
そして先ほどの少女に礼を言おうと視線を戻すが、既にそこにはその姿は見えず。
妖精に悪戯されたかのような感覚のまま、再び彼女は走り始め、そのまま目的の人物へと体当たりをぶちかました。
「うえ!?」
「きゃっ!」
セラは、当然自分に気付いているだろうと思い、全力で追いかけたのだが、まさか全く反応しないとまでは思っておらず、そのまま全力でぶつかってしまったのだ。
「あいたた、って、セラさん!?」
「す、すいません…あら?私自己紹介しましたっ…け…」
もみ合うようにして倒れた二人であったが、ジューヌが下になっているため、セラには傷一つ付かなかった。
そして倒れたジューヌに圧し掛かるような体勢のセラは、ジューヌの美貌を目の前にして、思わず頬を染め固まった。
自身の名を知らぬはずの男性が、自分の危機を救ってくれた上に、実は名前を知っていて、などというシチュエーションで、しかも自分はその彼を追いかけて追いついてしかも押し倒して抱きついているのである。
コレが真っ赤にならずしてどうなると言うのだろうか。
そして未だ陽の落ちきっていない繁華街の大通り、それを秘匿するには些か人の目が多すぎた。
「おお、お熱いねぇ」
「ねーお母さんなんであの人たち転んだまま動かないの?」
「セラちゃんじゃないの?あれ」
「相手の男?いや女?どっちだ?」
などと言う囁き声というにはかなり大きな声が周囲から聞こえ始め、二人は思わずいっせいに立ち上がり、ジューヌが手を引く形でその場を足早に立ち去った。
徐々に闇に染まり始める街並みの中を、二人は肩を並べて歩いていた。
どちらからも声をかけると言う事はなく、それで居て離れると言う事はなかった。
が、セラの方がふと何かに気付いたように立ち止まり、一歩前に進んでいたジューヌが若干遅れて身体を半分振り向かせて立ち止まる。
「あの、お店、着いちゃいました」
上目遣いに見上げてくる少女に、ジューヌは内心(うわ何この萌えキャラ何俺死ぬの?)と戸惑っていたが、表情に変化はなかった。
「あの、お礼、ちゃんと、あの、お礼に、ウチ酒場ですから!お酒しかないですけど!」
セラ嬢の支離滅裂な懇願の言葉と視線を受けて、ジューヌは仕方がないかと嘆息し、自分の優柔不断さを笑いながら言った。
「ああ、じゃあ、一杯戴こう」
二人して店の扉を開くと、そこは既に喧騒どころの騒ぎではなく、まさにお祭り状態と言っても過言ではない状況であった。
「おっ!でかしたセラちゃん!未来の旦那様捕まえてきたね!?」
「ほらアンタも飲みな!お祝いだよお祝い!何のお祝いかは知らないけどさ!」
「セラちゃんも、かけつけ三杯とか言うんだってさ、虎の獣人セイバーさんが教えてくれたんだけどさー」
店内はごった返す中にも秩序ある状態と言う、訳のわからない状態であった。
どうやらカウンターの中に居る、ツィナーの仕業らしく、酔い潰れない程度に色々と液体操作を行っているようである。
そんな種族特性のやり方俺は知らん、と唖然とするジューヌだが、状況を見るに恐らくは間違っていないのだろう。
そんなジューヌにカウンターの中からツィナーの視線が突き刺さる。
にっこり笑う彼女に引きつった笑みを返し、ジューヌはセラから差し出されたジョッキを受け取ると、もう一方の手に持っていたセラ自身が飲むためのジョッキにコツンと打ち合わせ、杯を掲げた。
「君の瞳に乾杯」
「ぎっぷりゃあああああああ!」
空気を読んで店に突入しなかった熊子が、思わずそう叫んでしまったのは、店内に居るものが気付く事はなかった。
そして本編37話へ




