四月一日の嘘の婚約破棄。超ヘタレな王子が『好き束』で本気のプロポーズ!?
「ふふ、お姉さん、今日の髪型もすっごく可愛いね。僕、そういうの、嫌いじゃないよ」
きらびやかな陽光が差し込む学園の中庭。
その中央で、第一王子であるメルトが、上級生の令嬢を相手にチャラチャラとした笑みを浮かべていた。
彼の周りには、いつも華やかな令嬢たちが何人も集まっている。
そんな様子を、校舎の窓から静かに見つめている少女がいた。
メルト王子の婚約者である、ユリア公爵令嬢だ。
ユリアはそっと胸元に手を当て、寂しげに瞳を伏せた。
(ああ、今日も別の令嬢とあんなに楽しそうに……。殿下はいつから、あんなにチャラくなってしまわれたのかしら)
かつてのメルト王子は、真面目で、無口で、誰に対しても紳士的な人だった。
それなのに、ユリアとの婚約が決まった時期を境にして、急に他の女の子へ声をかけるチャラ男へと変わってしまったのだ。
今日まで、ユリアは王子のそんな急変に何度も胸を痛めてきた。
どうにか自分に振り向いてもらおうと、公爵令嬢として完璧な淑女であり続けようと努力したこともあった。
けれど、王子が自分にまともな視線を向けてくれることは、ただの一度もなかった。
王子は令嬢たちに、いかにも付け焼き刃なウインクをしてみせたり、わざとらしく甘い声を真似てみせたりと、必死にチャラ男を演じていた。
けれど、ショックに打ちひしがれるユリアの目には、それが実に見事なチャラ男っぷりに映ってしまっていた。
(真面目だった殿下をあんな風に変えてしまったのは、きっと私に魅力がないせい……)
そう思い込むたびに、ユリアの心には冷たい氷のような諦めが積もっていった。
これ以上見ていたら、涙がこぼれてしまいそうだった。ユリアは静かに窓から離れ、中庭が見えない廊下の奥へと、重い足取りで去っていった。
◇
ユリアがその場を去った後の、中庭。一人の少年が、メルト王子の背後にスッと影のように現れた。
王子の側近だ。
側近は、いつもの冷静な目で中庭の令嬢たちを王子から少し引き離すように、何かを耳打ちした。
「殿下、本日の特訓メニューはここまでです」
「ふ、ふぅ……。お、お疲れ様、みんな。今日の僕の演技、どう、どうだった……? ちゃんとチャラそうに喋れてた、かな……っ?」
令嬢たちが一歩下がって王子を囲む輪を広げた瞬間、メルト王子はそれまでの余裕そうな態度を完全にかなぐり捨て、顔を真っ赤にしてゼェゼェと荒い息を吐き出した。
額からは滝のような冷や汗が流れている。
「完璧でしたわ、メルト殿下! 今日もすっごく女慣れしてる感じが出ていました!」
「ええ! これならきっと、本番でも緊張せずに喋れますわ!」
すぐそばで見守っていた令嬢たちは、まるで我が子の成長を喜ぶ母親のような、温かい笑顔で王子に拍手を送った。
「そ、そうかな……。で、でも、ユリアの前に立つと、どうしても心臓が口から出そうになって、頭が真っ白になって、何も喋れなくなっちゃうんだ……。だからもっと、女の子と喋る練習をして、耐性をつけないと……っ」
メルトは胸を押さえ、情けないほど挙動不審に視線を泳がせながら、ガタガタと震えていた。
チャラ男のフリをしていたのは、世界で一番大好きなユリアの前でだけ、極度の緊張のせいで一言も喋れなくなってしまう「ユリア限定の女性恐怖症」を克服するための、命がけの特訓だった。
そこに、書類を手にした側近がため息混じりの冷静な声を響かせる。
「殿下、のんきに震えている場合ではありません。大変な情報が入りました。……ユリア様が、本日四月一日の夜会にて、殿下に婚約破棄を申し出るつもりのようです」
「な、なんだってえええええ!?」
王子の絶望の悲鳴が、春の穏やかな中庭に虚しく響き渡るのだった。
◇
その日の夜。王宮の大夜会会場は、きらびやかなシャンデリアの光に包まれていた。
ユリアは公爵令嬢として恥じない、最高に美しいドレスを身にまとって会場の壁際に立っていた。
手には、あらかじめ用意してきた一通の手紙が握られている。
(もう今日で、終わりにしましょう。殿下の目に私という人間が映らないのなら、これ以上、お互いを縛り付ける必要はありませんわ)
意を決してメルト王子の姿を探そうとした、その時だった。
「ユ……ユユユ……ユリア公爵令嬢。わ……わわ私は、貴方との婚約を、は……破棄する!」
突然、会場の中央で声を張り上げたのは、メルト王子本人だった。
あまりのドモりっぷりに、周囲の貴族たちは何事かと困惑し、遠巻きに見つめている。
王子の隣には、なぜか祈るように両手を組んでハラハラと王子を見つめる、例の学園の令嬢たちの姿があった。
(頑張って……! 頑張ってメルト殿下……! 毎日私たちのところで『女の子と緊張せずに喋る特訓』をした成果を、今こそ見せるのです……!)
令嬢たちと、物陰に隠れた側近は心の中で、必死に王子にエールを送っていた。ユリアは静かに目を伏せ、胸の奥に冷たい諦めを完全に沈めた。
(ああ、やっぱり、あの方たちを選ぶのですね。私のことなんて、どうでもよかったのね)
これ以上、見苦しく縋るつもりはなかった。ユリアは完璧なカーテシーを見せ、毅然と、けれどどこか寂しげに声を返す。
「分かりました。婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ、メルト殿下」
「ひ、ひひっ……!?」
承諾された瞬間、メルトはまるで悲鳴のような声を上げ、ガタガタと膝を震わせた。その顔は恥ずかしさの限界を超えて真っ赤に染まっている。
「あ、あぁ……」
背後の令嬢たちが、一斉に頭を抱えて小さく絶望の声を漏らした。
メルトは挙動不審に視線を激しく泳がせ、涙目でユリアに一歩にじり寄る。
衣服の擦れる音に混じって、ドクドクと早鐘を打つ激しい心臓の音が、目の前のユリアにまで届いていた。
「ち、ち違う! つ、つ、つ……っ!」
「殿下……?」
「す、す、す……す、好き束ぁぁあああ!!」
メルトは叫ぶと同時に、ガタガタと激しく震える両手で、大きな布包みをユリアの目の前に突き出した。
リボンで不格好にぐるぐる巻きに束ねられているのは、薔薇の花束などではない。ユリアが大好物の【ユリの花】と【歴史書】と【激辛スパイス】の山だった。
あまりの光景に、ユリアは淑女の仮面を忘れて目を丸くする。
「……っ、え?」
「ひ、ひ、婚約破棄、というのは……! き、今日が四月一日、だから、で……! う、嘘、んだ……っ!」
メルトの顔は今にもはち切れそうなほど真っ赤だった。至近距離から、ドクドクと早鐘を打つ彼の激しい心臓の音が、ユリアの耳にまで容赦なく響いてくる。
王子は涙目になりながら、挙動不審に視線を激しく彷徨わせ、それでも必死にユリアを見つめた。
「ユ、ユリアが、ぼ、僕と、婚約破棄、しよ、しようとしてるって、側近から聞いて……っ。あ、焦って、先に嘘を、言えば、その、阻止できるって、言われて……っ!」
ユリアは息を呑んだ。
(……四月一日の、嘘? じゃあ、あの婚約破棄も、今までのチャラチャラした態度も、すべては私を失いたくなくて、必死に空回りしていただけ……!?)
背後にいる令嬢たちが、一斉にハンカチを握りしめて涙ぐんでいるのが見える。
(殿下、よく言ったわ……!)
「僕、ユ、ユリアが、す、す……好き、すぎて……っ! は、話すのも、緊張して、無理で……っ。後ろのみんなには、ど、どうすれば、ユリアと緊張せずに喋れるか、相談、してて……! 浮気じゃ、ないんだ……っ! ユリアの好きなもの、全部集めたんだ……っ!」
差し出された『好き束』が、王子の手の震えに合わせてカタカタと音を立てる。
(ああ、私の心がいま、溶けていく――)
ユリアの中にあった、「純粋」「無垢」そして公爵令嬢としての「威厳」。
それらすべてが、目の前で赤面して震えるメルト殿下の熱によって、跡形もなく溶けていく。
そこに残されたのは、殿下の愛に胸を衝かれ、ただ真っ赤になって立ち尽くす、一人の恋する女の子だけだった。
ユリアは呆れ、けれど愛しさが限界を突破して、思わずふっと微笑んだ。
「……殿下。そんなに私のことが好きなら、最初から普通にそう仰ればよろしいのに」
「う、うぅ……っ!」
「でも、分かりましたわ。四月一日の嘘の婚約破棄、しかと『本物のプロポーズ』で上書きしていただきましょう。……その不格好な好き束、喜んでお受けいたします」
◇
ユリアがそっと『好き束』を受け取ると、メルト王子はその場にヘナヘナと腰を抜かし、羞恥のあまり両手で顔を覆った。
その瞬間、背後の令嬢たちと、物陰から胃を押さえながら見守っていた側近が一斉に「やったあぁあ!」と大歓声を上げてガッツポーズを決めるのだった。
ユリアの心に積もっていた勘違いの氷は、もうどこにも残っていない。
世界で一番不器用な婚約者様と紡ぐ、新しくて、とても温かい物語の始まりだった。
(おしまい)
【制作メモ】
本作は、作者が考案したプロット、設定、言葉遊びをベースに、AI(人工知能)と二人三脚で本文の執筆・調整を行って完成させました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ユリアのために命がけでチャラ男の特訓をし、心臓を爆音で鳴らしながら『好き束』を差し出したメルト王子の純情はいかがでしたでしょうか?
二人の心が温かく溶け合う結末を楽しんでいただけていたら幸いです。
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【お知らせ】
本作のような一癖ある婚約破棄ざまぁやコメディ、追放やローファンタジー等の短編をギュッと1つに集めた連載をスタートしました!
作者名(またはページ下の『作者マイページ』)から、新連載『僕の愛した物語たちの宮殿』をぜひお気軽に覗いてみてください!




