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群馬県の祠についての報告書  作者: 九條葉月


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6/16

旧友


 探偵事務所を辞したあと。


 幹也は崖道を下り、下鄕に降りた。東京まで帰るならそのまま駅へと向かうべきなのだが、少しだけ寄り道だ。


 墓参りをしたあとは地元に残った親友の家を訪ねる。それが幹也の習慣になっていたのだ。とはいえ、墓参りも親友の元を尋ねるのも数ヶ月前から始まったのであるが。


 何の変哲もない平屋建て。街の風景に溶け込み、知り合いの家でもなければ気に掛けることもない。それこそが幹也の幼なじみにして親友・伸一の住む家だった。


「よぉ、幹也。今月も来たんだな」


「あぁ、まぁな」


 呼び鈴を鳴らすと、どこか気だるげな顔をした伸一が出迎えてくれた。


 歴史の研究家兼小説家をしているらしく、不健康そうな顔をしている。しばらく人に会っていないのか無精髭は伸びっぱなしだし、睡眠時間が足りないのか目元には隈が浮かんでいる。


 しかし今さら「もう少し健康に気を使え」と注意するような間柄でもない。


 それに元野球部であるおかげか肉体自体は健康そうに見える。


 伸一は幹也の墓参りについても知っているはずだが、特に言及することなく居間に通してくれた。


 テーブルの上には大きなガラス製の灰皿が置かれ、吸い殻が乱雑に押し込まれていた。今どきこれほどのヘビースモーカーも珍しいだろう。


 そんな伸一が麦茶を持ってきてくれたので遠慮なくいただく。


 ……苦い。


 先ほど事務所で桃のフレーバーを飲んだばかりのせいか、麦茶の苦さが強調されていた。いや、伸一がテキトーな管理をしているせいで麦茶が傷んでいる可能性も十分にあるのだが。


 そんなことを考えたせいか、幹也は自然と一風変わった探偵事務所について語り始めていた。偶然見つけた崖道の途中の事務所。まだ若く美しい探偵。祠のことを調査するようになったことなど。


 ひとしきり語り終えてから伸一の様子を確認すると、彼は何とも微妙そうな顔をしていた。少なくとも美代子に好意的な感情は抱いていなさそうだ。


「美人が、協力を、ねぇ? お前それ騙されて――いや、なんでもない」


 ごほんと咳払いする伸一であった。


 そのまま少し考えるようなそぶりを見せる伸一。


「まぁいい。祠について調べるのか?」


「あぁ、そうなるな」


「……なら、俺からも調べておこう」


「いいのか?」


「これでも歴史を生業にしているからな。師匠ほど真剣にはやってないが、地元の古い伝承やらなんやらも集まってくるんだ」


 そういうことなら、と。協力をお願いした幹也であった。




       ◇




 伸一の家を辞去したあと。


 幹也は電車に揺られながら東京を目指していた。


 町並みが遠くなる。あの祠がある城跡も。幹也たちが通った学校も。青春時代と言うにはあまりにも悲劇的となった時を過ごしたあの街も。




 あぁ。


 日菜はいつ自分を呪い殺してくれるのだろうか?


 早くしないと祠に首を取られてしまうのに。




 そんなことを考える幹也であった。




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