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群馬県の国人にまつわる昔話
その男は、領主の息子として生まれた。
男の父は厳格な人物であった。
偉ぶるな、と父は男に教えを授けた。
領主とはあくまで民の代表。民の中で一番力があったからこそ選ばれたにすぎないのだと。
力なき民を守れ。
民が困っていたなら力になれ。
約定を違えるな。
悪を許すな。
幼い頃から何度も繰り返された父の教えは、彼の魂にまで刻み込まれている。
だからこそ、彼は動いた。
領地を奪われたとか、首を刎ねられたとかは関係ない。
民が困っているのだ。助けなければならない。
約定が交わされたのだ。守らなければならない。
悪が蔓延っているのだ。誅さねばならない。
飢饉が起これば、飢饉を何とかした。
領主が悪政を敷いたなら、これを断じた。
悪が裁かれぬのなら、自分が代わりに裁いた。
そうして、彼は。
一人の少女と交わした約定を、果たさなければならなかった。




