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群馬県の祠についての報告書  作者: 九條葉月


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15/19

葛城清治郎

 


 伸一の家を辞去して車に乗り込む。もちろん幹也が運転手で、美代子が助手席だ。


「ところで、『旧家』とはどこのことなんだい? ずいぶんと意味深だったけど」


「……伸一の歴史研究家としての師匠。葛城清治郎さんの家ですね。江戸時代から庄屋をしていた家柄です」


「葛城というと、もしかして?」


「はい。十年前に自殺した葛城日菜の親爺さんです」


「……あの男、なかなか性格悪くないかい?」


「いえ、そろそろ自分でキリを付けろという意味なのだと思います。伸一はそういう男です」


「……キミ、甘いとか騙されやすいって言われないかい?」


「先生以外には言われないですね」


 そんなやり取りをしながら車を走らせ、葛城家を目指す。


 相変わらず車内に会話はない。二人とも雑談を得意とする人間ではないことも影響しているが……やはり、美代子としては重苦しい空気を感じてしまっていたのだ。自殺した葛城日菜。その原因だと自白する幹也。日菜の父親……。


 そんな雰囲気に包まれたまま20分ほど経っただろうか。車は田園風景を抜け、いかにも江戸とか明治時代から残っていそうな家に到着した。


 丁寧に手入れされた日本庭園。現代の一軒家を三つも四つも繋げたほどに大きな屋敷。錦鯉の泳ぐ池……。幹也では本来一生縁のないような豪邸だ。


 すでに『弟子』である伸一を通して連絡は行っているので、このまま呼び鈴を鳴らしても問題はない。が、どうしても行動に移せない幹也だった。


 そんな彼の心境を知ってか知らずか、美代子が容赦なく呼び鈴に手を伸ばす。


 豪邸には似つかわしくないように思える軽妙な機械音。しばらく待機していると、家の中からお手伝いさんの女性がやってきた。


「皆藤様ですね? お久しゅうございます。旦那様がお待ちですので、どうぞ中へ」


 深々と一礼をしてから踵を返し、幹也たちを先導する女性。


 すぐに追いかけるべきだとは分かっているのだが、幹也はどうしても一歩を踏み出すことができなかった。今さら、どの面下げてこの家に入り、顔を合わせればいいのだろうか。


「さ、幹也君。一緒に行こうか」


 美代子が幹也の腕を掴んで、


「……痛っ」


 小さく呻いた。火傷をした右手を使ったのだから当然だ。


 そんなどこかとぼけた美代子を心配しつつ、肩の力が抜けるのを感じる幹也。


「そうですね。行きましょうか」


 美代子の火傷していない左手を取り、幹也は覚悟を決めて一歩を踏み出した。



        ◇



 畳敷きの和室で待っていたのはこの家の主にして日菜の父・葛城清治郎であった。歴史研究家というよりは武道家とでも表現したくなる圧を持った人物だ。


 幹也が最後に会ってからもう十年になるが、特に老いは感じられなかった。少し白髪が増えたかな、程度のもので。


 畳二畳ほどはあろうかという巨大なテーブルを挟んで向かい合う清治郎と幹也、そして美代子。まずは幹也が深々と頭を下げた。


「葛城さん。お久しぶりです」


「……あぁ、久しぶりだね幹也君。キミとは日菜の葬儀以来だったか」


 眉間に皺を寄せているのか、あるいは元々そういう顔つきなのか。どちらなのか見極めにくい顔をする清治郎であった。


 愛娘の自殺の原因である幹也。そんな男が目の前にいるのだから殺人事件に発展してもおかしくはない。


 だというのに清治郎は何も行動を起こさず、口汚く罵ることすらしなかった。うん、うん、と。何度か頷いてから美代子に視線を移す。


「そしてキミは、もしかして朽木美代子君かな?」


「私のことをご存じなのですか?」


 まだ自己紹介をしていないのに名前を言い当てられ、驚きを顔に出してしまう美代子。


「あぁ。あの事務所の先代から、もしかしたらと教えられていたのだよ。自分と同じ銀髪の娘が後を継ぐかもしれないとな」


「……その可能性を検討していたのなら、もう少し『祠』についての資料を残しておいて欲しかったのですがね」


「資料を読んだだけで理解した気になるのを恐れたのだろう。あの祠はとにかく誤解されやすい」


「誤解ですか? ……どうやら清治郎殿は祠についても豊富な知識を有しておられるようで。ぜひご教授戴きたいのですが」


「ふむ。あのお札を求めるからには、祠のことを調べているのだろうな……」


 どうやら弟子である伸一から今日の訪問目的は伝えられていたらしい。


 ちらり、と横目で幹也を見る清治郎。その目にどんな感情が込められているのかは分からないが、清治郎はゆったりとした動きで立ち上がり、部屋から出て行った。






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