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群馬県の祠についての報告書  作者: 九條葉月


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14/18

説明


 先日群馬に足を運んだばかりの幹也だが、次の休日にもまた群馬へと戻ってきていた。美代子の火傷が気になってしまったからだ。


 火傷直後でも病院にすら行こうとしなかった美代子の様子から、傷の処置をちゃんとやっているか不安でしょうがなかった。傷の痛みだけではなく感染症の心配もある。


「――先生。火傷の調子はどうですか?」


 事務所のドアを開けるなり確認する幹也だった。


「やぁ幹也君。思ったより早い再会だね。ご覧の通りちゃんと処置しているさ」


 ひらひらと右手を振ってみせる美代子。大きめの絆創膏を貼って傷口を処置しているみたいだ。


「痛みはどうです? 経過は? 治りが遅いならもう一度病院に行きましょう」


「キミは私のお母さんかな?」


「お母さんでもなんでもいいですから、ちゃんと答えてください。――手遅れになってからでは遅いんです」


「……水ぶくれが潰れたところは少し痛いが、毎日消毒をしているから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」


「いえ、問題ないならそれでいいのですが」


 一安心した幹也はソファに腰を下ろした。特に促されてはいないが、今さら遠慮するのも違うと思えたのだ。


 その後は少し雑談をするが、この前来たばかりなのでそれほどネタがあるわけではない。そもそも幹也は楽しく雑談できるような人間ではないし、美代子もどうやら同じタイプらしい。無駄なお喋りより沈黙を楽しむような二人なので、雑談はさっさと切り上げて『祠』の話題に移る。


「あのあと何か進展はありましたか?」


「具体的には何も進んでいないけど……思ったより強力な怨霊だったからね。予定は変更かな。成仏させるのは難しいし、ましてや破壊するのは不可能だろう。歴代が放置してきた理由も分かるというものだよ」


 やれやれと美代子が火傷をした指先を掲げる。


「ちょっと情報を抜き出そうとしただけでこれだ。もし本体に直接ケンカを売れば即死だよ即死。それはさすがに勘弁だ。私は幹也君と違って自殺願望はないのでね」


「……自分も別に自殺願望ではありませんが」


「そうかい? 私からはそうとしか見えないが」


「…………」


「というわけで、まず優先するべきは幹也君の命。これは準備が整い次第やってしまおう」


「はぁ」


 幹也としては死を覚悟しているので、優先も何もないのだが。


 と、そんな彼の感想は美代子にお見通しだったらしい。


「――ダメです。許しません」


 先日、火傷をした美代子に幹也がかけたのと同じ言葉。それを口調まで真似されては幹也としても反論できなくなってしまう。美代子の意思を無視して病院まで連れて行ったのが幹也なのだ。美代子の行動を止めるわけにもいかない。


「とりあえず、あの歴史家――伸一だっけ? 彼に借りたお札が燃えてしまったから謝りに行こうと思っているんだ」


「なら、俺が運転しましょう」


「え? でも」


「指をケガした状態でハンドルを握るつもりですか?」


「……それもそうだね」


 問答無用といった様子についつい了承してしまう美代子だった。幹也は案外押しが強く、逆に美代子は弱いらしい。


        ◇


「はぁ……? お札が燃えて火傷した? なんだそりゃ?」


 伸一の家に行き、お札を返せなくなったことを説明すると、伸一は眉間に皺を寄せていた。


「ほんとだよ? ほら、火傷火傷」


 美代子がわざわざ絆創膏を剥がして火傷痕を見せようとするので、それとなく押しとどめる幹也だった。


「なんだお前ら仲がいいな……。あー、よく分からないが、燃えたならしょうがない。こっちも『気味が悪い』と半分押しつけられたようなものだったからな」


「ほぅ、話が分かるじゃないか」


 悪びれた様子がない美代子。そんな彼女を見て伸一が不快そうに目を細める。


「……しょうがないが、資料がなくなったままなのは困る。というわけで、新しいお札をもらってきてくれ」


「なるほど道理だね。それで? どこに行けばいいのかな?」


「まだあのお札を作っている家だ。いわゆる旧家だな。――幹也ならよく知っているだろう」


「…………」


 伸一が何を言いたいのか察した幹也は思わず苦い顔をしてしまうのだった。



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