アリのささいな絶望
何故こんなにも戻りが遅くなったのでしょう?
その理由はこうです。
アリは小さな脚をひしひしと、ばたつかせながら一町程歩いていました。あともう少し歩けば、仲間が居るお家が見えるという所でした。
その時です。アリは違和感に気が付きました。巣の方から、もくもくと狼煙が上がっているのです。
嫌な予感がしたアリは、脚を加速させて家へと急ぎました。
巣に到着した時、仲間とも兄弟ともいえる蟻が一匹、巣穴から顔を出しておりましたので、アリは心配そうな声で話しかけました。
「只今、戻りました。お姉さん、いったい何があったのですか? 巣から煙が上がっておりました」
アリのお姉さん──とはいっても働き蟻はたいていお姉さんか妹でしたので、間違えた時に失礼ならないよう、アリは全員にこう呼んでいました──は直ぐに答えませんでした。少し悲しそうにしているのが、アリには見えました。
口が開くまで待っているわけにはいかないので、アリはちょいと其の姉の横を抜けました。巣に入ったのです。
そしたらどうにも、煙臭くてたまりません。
狼煙を上げている者に訊けば、何が起こっているのか解るだろうと思いましたが、もう巣の中は白い霧のようなものに包まれていました。
そしたら、先ほど無口であった姉が云いました。随分と悲しそうでした。
「嗚呼、妹よ。その奥には行かないでおくれ。もう私らの巣は、無いんだ。何処にもありゃしないんだ」
「そんな…どういうことですか」
「二日前、ちょうどお前が此処を出た時、急に奴らがやってきた。彼処を見たまえ」
姉が指し示した先は、地の壁に埋もれていた虫の死骸でした。恐らく、兄弟で在るものと、もう一つは仲間と匂いが違う蟻でした。
姉は続けて云いました。
「直ぐ一晩のうちに、全滅だ。なんとまあ、酷いだろう。他の巣の蟻が遣って来たんだ」
──ということで御座います」
アリの説明を聞いた、たんぽぽ君はそうかいそうかいと言い、質問をしました。
「それでお前、これからどうするんだい?」
「家は姉に火葬されましたし、行く宛もありません。もう飢えて死にます」
「そうだな。そうすればいい。なにしろ、俺には関係のないことだからな。どっかに行っているが良い」
たんぽぽ君は一週間も待たされた挙句、さらには未亡人の様に帰ってきたアリを見ましたので、とても苛立っていたのでした。
「ですから、たんぽぽさん。最後にお願いがございます」
「何だい」
「彼処にある蠅の死骸を取ってくださいな」
「取ったらどうするんだい?」
「食べて、満足して、私は死にます」
たんぽぽ君はこの言葉を聞いて、心の奥がドキッとしました。
「難しいのでしたら、手を一寸ばかし動かしてくださいな。仲間はいないので、その場で食べ..」
たんぽぽ君はアリが言い切る前に、先の枯れた手でアリの口を覆いました。
そして云いました。
「そんなことを言うんじゃないよ。僕は唯のしがないたんぽぽさ。蠅など自分で掴めるはずがない、手を伸ばすこともできない。だけど...」
たんぽぽ君はまだ枯れ切っていないその手で、アリを包みました。そして、そっと地面に下ろしてあげました。
「君は違う。まだ歩いていける。きっと、生き残ることができる」
「たんぽぽさん…」
「だから、行け。まっすぐ行け」
「たんぽぽさん」
「さあ!」
たんぽぽ君は力強い声で言うのでした。
「たんぽぽさん、ありがとう」
そして、アリはその六本の足を目一杯に動かして、行きました。何処までもどこまでも行きました。
たんぽぽ君はその様子を見続けました。哀げな心で見続けました。
アリが見えなくなって暫くした後、たんぽぽ君はゆっくりと目を閉じました。
そして、心の中で歌いました。
僕はたんぽぽ ふふふふふ
若者の、背中押し
自分は朽ちる、たんぽぽさ。
僕はたんぽぽ ふふふふふ
きらきらと、輝いた
宝を護る、たんぽぽさ
ということで、此のたんぽぽ君は生涯を終えるのでした。
キラキラしたものは、若いことそのものであると最近ずっと考えておりました。私もまだ若いと言える年なので、後悔しないように日々生きていきたいです。
さて、今回書き綴った「たんぽぽ」は童話というジャンルで公開させて頂きましたが、改めて見返してみると、どうにも童話だと思えないのです。漢字が原因ですかね。一応ですが、難しい漢字はルビを振っておきました。なので、お赦しください。
余談ですが、又物語を綴るときはもっと自分自身の経験を豊かにしてからにします。もっといろんな作品に触れて、体験して、そんでもって悩んで、途方に暮れて、そんな中で溢れ出て来たものを文章で表現し、自分の作品にしていこうと思います。又直ぐ書くかもしれませんが...
ということで、有難う御座いました。




