1周目・第24話:ハッピーエンドの土台は…ブラックでした。
(あの中2どもに、自発的に絆を育むことなど不可能だ!)
急速に老いさらばえ、命の灯火が消えゆく中で、賢者アルドゥスは絶望していた。
世界を救う資質を持つ5人の少女たち。しかし、彼女たちの性格は、チームワークとは対極にあったからだ。
(ならば、わしが介入する! わしの命と引き換えに、奇跡を起こす!)
それは、賢者アルドゥスの最後の賭けであり、悲痛な叫びだった。
「今度こそ、真の絆を……。彼女たちが召喚される前に、岡山で出会い、互いを理解しあえますように……」
眩い光と共に、アルドゥスの意識は時間遡行の奔流に飲み込まれていく。
アストラディアの時間は巻き戻る。
真の魔王とマリオニスは、その強大で圧倒的な力ゆえに、時間の巻き戻りの影響を受けることはなかった。だが同時に「それ」に気づくことも出来なかった。
アルドゥスのその「小さすぎる願い」が、遠く離れた岡山の地にいる5人の少女たちの「縁」を、物理法則すらねじ曲げて強引に結びつけていたことに。
◇◇◇
――そして、時は流れ、二周目の世界線。
イオンモール岡山。日曜日の昼下がり。
人混みの中で、結衣は弟の優斗を見失い、血相を変えて叫んでいた。
「優斗! 優斗ーっ!」
(どうしよう……! 私がしっかり見ていなかったから……! 私のせいだ……!)
パニックに陥る結衣。
本来であれば、誰も気に留めない他人の不幸。しかし、本編の世界線では、アルドゥスの「願い」がここで奇跡を起こした。
「偶然」その場を通りかかった4人の少女――恵、観月、舞、花音。
彼女たちは、初対面のはずの結衣の絶望に、まるで磁石のように強く引き寄せられ、足を止めたのだ。
『迷子ですか? 状況を教えてください。効率的に動く必要があります』
冷静に情報を整理する恵。
『赤いキャップの子! さっき、あっちで見たよ!』
持ち前の視野の広さで活路を開く観月。
『危ない! 私が前を確保する。ついてこい』
先頭に立って人波を割る舞。
『大丈夫ですわ。深呼吸しましょう』
不安に寄り添い、心を支える花音。
アルドゥスの「介入」という奇跡が、彼女たちを出会わせた。
本編で語られる「真の絆」は、ここから美しく始まっていく――。
◇◇◇
――だが、もし。
もし、アルドゥスが時間遡行の際、命を懸けてあの「願い」を込めなかったとしたら?
もし、魔法による補正がない、彼女たちの「素の性格」だけが真実だったとしたら?
これは、そんなあり得たかもしれない、ブラックコメディIFエンドの記録である。
場所は同じ、イオンモール岡山。
結衣が弟を見失い、パニックになっている。
「優斗! 優斗ーっ!」
(どうしよう……! 私のせいだ……!)
そのすぐ横を、別々の中学に通う、見知らずの4人の少女たちが「偶然」通りかかる。
まず、恵が通りがかった。
彼女は足を止めない。
(……騒がしい。非合理的だわ)
恵は、人混みの中でヒステリックに叫ぶ結衣を一瞥し、即座に「移動の障害物」と認定した。
彼女はイヤホンのノイズキャンセリング機能をオンにし、舌打ちしながら巧みに避けて通り過ぎていく。
次に、舞が通りがかった。
彼女は冷ややかな視線を向けるだけだった。
(自己管理がなっていない。完璧じゃない)
舞は、弟を見失ったという結衣の「不完全さ」を軽蔑した。自分の身内ですらない無能な人間に割く時間は、彼女には1秒たりとも存在しない。
続いて、観月が通りがかった。
彼女はスマホを取り出した。
(うわ、マジ泣きじゃん。ウケる)
観月は、他人の不幸をエンターテインメントとして消費した。遠巻きに写メを撮り、友人のグループLINEに『イオンでヤバい奴いて草』と送信しながら、笑って通り過ぎる。
最後に、花音が通りがかった。
彼女は一瞬だけ足を止めたが、すぐに目を伏せた。
(かわいそう……でも、私が関わることでは……)
花音の「優しさ」は、自分に火の粉が降りかからない範囲でのみ発揮される。もし関わって、親が出てきたりして面倒事になったら? そのリスクを計算し、彼女は「気づかなかったフリ」をして、早足でその場を立ち去った。
――誰も、助けない。
4人は、結衣を冷たく無視して通り過ぎた。
アルドゥスの「介入」という奇跡がなければ、彼女たちは出会うことすらなかったのだ。
本編で描かれる温かい絆。
それは、1周目の絶望的な失敗と、賢者の命懸けの「介入」という、あまりにもブラックな土台の上に成り立っていたのである。
(1周目・完)




