表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/74

1周目・第21話:褒められたフライパン、スルーされた結衣

玉座の間に、シュールな静寂が満ちていた。


偽りの魔王マリオニスは、眉間にフライパンを突き立てられたまま、白目を剥いて完璧に沈黙している。


「「「「……え?」」」」


舞、観月、恵、花音は、自分たちを殺すはずだった最大魔法が消え、魔王が調理器具で絶命しているという現実が飲み込めない。 結衣もまた、放心状態だった。


(あ、フライパン様投げちゃった……)


この、あまりにも締まらない決着の静寂を破ったのは、勢いよく開かれた玉座の間の扉の音だった。


「おおおお! なんという眩い光じゃ! まさか、魔王を倒したのか!?」


賢者アルドゥスが、息を切らせて駆け込んできた。


彼は、玉座の前で倒れている魔王の姿と、その眉間に突き刺さるフライパンを見て、状況を理解した。


「よくやった! よくぞ魔王を倒した、勇者たちよ!」


アルドゥスが歓喜の声を上げる。


その言葉で、仲間たちも我に返った。


「……倒した?」


「え、マジ? あのフライパンで?」


「……合理的です」


恵が、即座に《叡智の書》を開き、戦闘ログの分析を開始した。


「《叡智の書》の解析によれば、魔王マリオニスは最大魔法の詠唱中、我々の投擲とうてきを一度は回避行動で見切った模様」


(え? 避けてないよ? 眉間に当たったよ?)


結衣が、そんな事実はないと口をパクパクさせるが、恵の分析は止まらない。


「ですが、フライパンは、持ち主の『八つ当たり』という名の強靭な殺意に反応し、エクストラスキル【投擲必中ホーミング】を発動。魔王の回避行動を上回り、後頭部を追尾し、脳幹を破壊した……と結論付けられます」


((後頭部!? 眉間じゃなくて!?))


アルドゥスと結衣の心の声がハモったが、4人の「勘違い」は止まらない。


「やった! やったじゃん!」


観月が、真っ先に駆け出した。舞も、花音も、安堵の表情で後に続く。


彼女たちは、泣き崩れている結衣を完全にスルーし、魔王のそばに落ちている本体フライパンの周りに集結した。


「フン。まさか、お前に【即死】や【自動防御】以外の、隠し機能(エクストラスキル)があったとは。……完璧だ」


慈しむようにフライパンを撫でる舞。


「てか、アンタ最強じゃん! 魔王、避けたのに追尾して殺すとか、マジリスペクト!」


仲間の肩を叩くような感覚で、フライパンの底面を叩く観月


「ああ、フライパン様……ありがとうございます……。これで帰れますわ……」


服が汚れることを厭わず、床に正座して、そのままフライパンに向かって両手を合わせて拝む花音。


4人は、魔王を倒した真の勇者フライパンを囲み、口々にその功績(?)を称賛した。


「……」


結衣は、その光景を、仲間たちの輪の外側から、呆然と見つめていた。


(私……フライパン投げたの、私……)


(ていうか、スキルとかじゃないし……八つ当たりだし……眉間だし……)


だが、その声は誰にも届かない。


恵は、この「世紀の勘違い」を、一字一句違わぬよう《叡智の書》に誤って記録している。


(私、フライパンを……!)


彼女は、最後まで「付属品」であり、「空気」だった。


「さあ、勇者たちと、フライパンよ!」


アルドゥスは眉間と後頭部の違いに悩みつつも、感動に打ち震えながら、「帰還の羅針盤」を起動させた。


神殿が眩い光に包まれ、玉座の間に、岡山へと繋がる黄金のゲートが出現する。


「これで、元の世界へ帰れるぞ!」


その瞬間だった。 さっきまでフライパンを称賛していた4人の表情が、スッと「無」に変わった。


彼女たちは、互いに目配せすると、次の瞬間には、我先にとゲートに向かって猛ダッシュしていた。


「押すな!」


「てめーが押すな!」


舞と花音が揉めてる間に、恵は無言で最短ルートを突っ切り、花音も優雅にゲートインする。


そこには、世界を救った仲間への感謝も、この世界への惜別も、微塵もなかった。


あるのはただ、「こんな奴らと一秒でも早く縁を切りたい」「岡山に帰りたい」という、中2女子の純粋な欲望だけだった。


「あ、待って! 私も!」


結衣は、慌てて彼女たちの後を追う。 彼女は、魔王のそばにあるフライパンを一瞬だけ振り返ったが


(もう、いらない!)


フライパンという名の過去くろれきしを捨て、仲間たちの背中を追いかけ、黄金の光の中へと飛び込んだ。


こうして、アストラディアは平和を取り戻し、5人の勇者たちは故郷へと凱旋した。


(第21話 終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ