1周目・第20話:え、投げちゃった!?
(あああああああ!)
結衣は、人生最大の窮地に立たされていた。
目の前では、偽りの魔王がこの世の終わりのような最大魔法を詠唱している。
背後では、仲間たちが自分を拘束し、「盾になれ」「付属品の役目を果たせ」と罵声を浴びせている。
(いやだ! 死にたくない! でも、仲間も怖い! 魔王も怖い!)
(なんで私がこんな目に!?)
結衣の脳裏に、この世界に来てからの屈辱的な記憶がフラッシュバックした。
『児島結衣さんは戦闘に不要です』
『フライパン様の魔力を…』
『道具に判断力を期待するな』
『障害物だ!』
(そうだ……)
結衣の絶望は、やがて怒りへと変わった。
(全部、こいつのせいだ!)
彼女の怒りが向かった先は、魔王でも、仲間たちでもなかった。
全ての元凶。自分を「付属品」の地位に貶めた、この忌まわしき調理器具。
(こんなものがあるから!)
結衣は、パニックの頂点で、拘束を振りほどくと、自分を守っていたフライパンを掴み、マリオニスに向かって全力で投げつけた。
「 フライパンがあるから、私は道具扱いされるんだ! うわあああん! 」
それは、戦闘技術などではない。
ただの中二の、理不尽な八つ当たりだった。
(え?)
最大魔法を詠唱中だったマリオニスは、目の前で盾にされていたはずの結衣が、突然、その盾を自分に向かって投擲するという、あまりにも意味不明な行動に、思考が一瞬停止した。
(投げる? なぜ? そのフライパンは【自動防御】の要では!?)
(それを捨てたら、あなたは私の魔法で死ぬんですよ!?)
マリオニスの「芸術」の脳が、結衣の「理不尽」な行動の理解を拒否した、コンマ1秒。
ヒュン――
フライパンは、何の魔力も宿さない、ただの鉄塊として回転しながら、マリオニスの薄くなっていた魔力障壁をすり抜けた。そして…
ゴィン!!
鈍い、乾いた音が玉座の間に響き渡った。
フライパンは、マリオニスの眉間に、ジャストミートした。
「……ぐ」
偽魔王は、白目を剥いた。
詠唱中だった最大魔法の魔力は行き場を失い、霧散する。
彼の体から、ゆっくりと力が抜けていく。
そして、偽りの魔王は、まるでスローモーションのように、玉座の前に仰向けに倒れた。
【即死】
「「「「……」」」」
玉座の間に、絶対的な静寂が訪れた。
仲間たち(舞、観月、恵、花音)は、自分たちを殺すはずだった最大魔法が消え、目の前の魔王が倒れているという現実が、理解できなかった。
「「「「……え?」」」」
結衣もまた、自分が何をしでかしたのか分からず、その場にへたり込んでいた。
(あ……)
(あ、フライパン様投げちゃった……)
誰もが理解不能な不条理な決着に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(第20話 終)




