1周目・第19話:過去イチ「クズい」パーティなんだが!
玉座の間で、マリオニスはついに膝から崩れ落ちていた。
(ダメだ……こいつら、心が無さすぎて壊せない……!)
4人連続の幻術不発。そして、唯一壊せそうだった結衣も、仲間たちのリアルなギスギスによって、マリオニスの芸術が介入する隙間すらない。
このままでは、埒が明かない。いや、それ以上に、この不快な空間に、マリオニス自身が耐えられなかった。
(もういい! もういいです!)
マリオニスは、脚本も芸術も全て投げ捨て、力ずくでこの不快な人形劇を終わらせることに決めた。
「もういい! 全員まとめて消し去ってやる!」
マリオニスは偽の魔王としての威厳を取り戻し、玉座の間に立ち上がった。
「私の幻術が効かぬというのなら、この城ごと、あなたたちを塵にして差し上げましょう!」
マリオニスが両手を掲げると、玉座の間全体が凄まじい魔力で振動し始めた。
天井が崩れ落ち、空間そのものが裂けるかのような、圧倒的な破壊の予兆。
彼が詠唱し始めたのは、この偽りの魔王城を丸ごと自爆させる、最大最後の魔法だった。
「なっ!?」
その瞬間、恵の《叡智の書》が、初めて激しい警告を発した。
「《叡智の書》より緊急警告! 魔力量、測定不能」
恵が、マニュアルから顔を上げた。その顔は、初めて「想定外」の事態に直面し、恐怖に引きつっていた。
「舞! あなたの《不壊の盾》でも防げません! 観月の《魔力無限》も、花音の《絶対魅了》も、この規模の術式の前では無意味です!」
「はあ!? なによそれ!」
「つまり……私たちは、詰んだと?」
仲間たちが、初めて「死」を実感し、青ざめる。
(詰んだ……? いや、待て)
恵の脳が、極限状態で最適解を探す。
(防げない。逃げ場もない。だが、たった一つだけ……『無敵』の存在がこの場にある)
恵の視線が、フライパンを抱えてガタガタ震えている結衣に突き刺さった。
(……【自動防御】)
恵は、即座に仲間たちに指示を飛ばした。
「最適解を提示します。舞さん、観月さん、花音さん。……結衣さんを盾にします」
「「「!?」」」 三人が、一瞬だけ恵の非道な提案に目を見開く。
「合理的です」
恵は、非情な論理を続けた。
「彼女のフライパンの【自動防御】だけが、この攻撃を無効化できる唯一の可能性です。私たちが生き残るには、彼女に全ての攻撃を受けさせ、時間を稼ぐしかありません」
その結論に、観月がニヤリと笑い、舞が頷き、花音がそっと目を伏せた。
絆ゼロの彼女たちに、仲間を見捨てることへのためらいなどあるはずもなかった。
「結衣!」
舞が、逃げ惑う結衣の腕を掴んだ。
「え?」
「お前の自動防御で時間を稼げ!」
「えええええ!?」
結衣は、舞と観月によって両腕を拘束され、詠唱を続けるマリオニスの目の前に、文字通り「盾」として突き出された。
「い、いや! いやああ! 死にたくない!」
「我慢しろ、付属品!」
「あんたが役に立つ、唯一のチャンスじゃん!」
(適材適所です、安らかにお眠りください…)
押し出されるようにして、じりじりと自分に近づいてくる結衣。
(……は?)
最大魔法を詠唱していたマリオニスは、目の前で繰り広げられた光景に、詠唱を中断しそうになった。
「……仲間を、盾にした?」
(このガキども、私の想像を遥かに超えたクズだ!)
マリオニスの芸術的な悪意が、彼女たちの本物の悪意に完敗した瞬間だった。
「もう知らん! お前ら全員消えろぉぉぉ!」
マリオニスが叫び、最大魔法が、結衣めがけて放たれた。
(第19話 終)




