1周目・第16話:心が強すぎるというか、ただの思考停止なんだが。
舞と観月という、心が空っぽの人形が二体続いたことで、マリオニスのストレスは頂点に達していた。
(なんなんですか! この不良品どもは! 壊そうにも心が無いじゃないですか!)
彼は、パーティの司令塔(?)である恵にターゲットを切り替えた。
(三人目は咲良恵。心の枷は『完璧な合理主義者でなければならない』というプレッシャー……フフフ、これですよ!)
マリオニスは、観劇していた時の「あの事件」を思い出し、悪趣味な笑みを浮かべた。
(あの『ポンコツ』の屈辱を、今ここで再現して差し上げましょう!)
「あなたの番です、咲良恵!」
マリオニスは、玉座の間で《叡智の書》を読んでいた恵の意識を、精神世界へと引きずり込んだ。
「……!?」
恵が飛ばされた先は、あのとき彼女が転倒した、平坦な地面だった。
そして、目の前には、観月と舞の幻影が立っている。
「アハハハ! マジウケる! 『ふにゃ』って何!?」
「非効率だ。自己管理がなっていない」
(さあ、思い出しましたよ! あなたの屈辱の瞬間です!)
マリオニスは、恵の脳内に直接語りかける。
「 見ろ、咲良恵! これがお前の本性だ! 合理的でも何でもない、ただのポンコツだ! 」
マリオニスは、恵が「そんなことはない!」と取り乱し、絶望する姿を期待した。
しかし、一周目の恵は、その幻影を前にしても、一切の表情を変えなかった。
彼女は、目の前で自分を嘲笑う仲間の幻影たちを、まるで道端の石ころでも見るかのように一瞥しただけだった。
「……」
彼女は、自分が転んだという「幻術」そのものを、冷静に《分析》しようとした。
だが、すぐに分析をやめ、ふっと息を吐いた。
「理解不能な事象。《叡智の書》に、私が転ぶという記述はない」
(あれは、地面の傾斜角と私の靴底の摩擦係数に0.001%の誤差が生じただけの、再現性のない単なるバグ、エラーだ)
「よって、この幻術はバグであり、私の本質とは無関係。考慮に値しない」
「……は?」
マリオニスの声が裏返った。
恵は、目の前で繰り広げられる悪夢を完全に無視 し、幻術の世界の中で、おもむろに《叡智の書》を取り出し、次のページをめくり始めた。
(魔王の行動パターン、B-4。幻術による精神攻撃。対処法は……「無視し、最短ルートで核を攻撃する」。はい、了解)
(え? え? 無視!? 一番恥ずかしい失敗の再現ですよ!?)
マリオニスは、自分の最高傑作が「考慮に値しない」と一蹴されたことに、プライドが砕け散るのを感じた。
(こいつ、自分のプライドを守るために、現実の方を『バグ』として処理しやがった!)
(心が強すぎるというか、思考停止してるだけだ!)
(もういい! このマニュアル女も後回しです!)
マリオニスは、三度敗北し、現実の玉座の間でハンカチを噛みしめた。
(第16話 終)




