1周目・第13話:私、一応ラスボスなんスけど?
魔王城(偽)の最上階。
玉座の間へと続く巨大な扉を、5人は何の躊躇もなく蹴破った。
もはやノックや警戒といった、仲間を信頼し合うパーティに必要な手順は、彼女たちの辞書にはない。
「「「「「……」」」」」
薄暗く、だだっ広い玉座の間。
その奥、巨大な黒曜石の玉座に、一人の男が芝居がかった様子で座っていた。
魔王軍四天王、"人形遣い"マリオニス。彼は、この日のために用意した禍々しい「偽の魔王」の衣装を身に纏い、完璧なタイミングで立ち上がった。
(来た! 来ましたよ! 私の最高傑作が!)
マリオニスは、高揚する心を抑え、練習通りの、最も絶望的で、最もカリスマ的な声色で話し始めた。
「ククク……。よくぞ来たな、異界の勇者ども。わしが魔王マリオニスであ――」
「あ、いた」
観月が、マリオニスの口上を遮り、スマホ(圏外)をポケットにしまった。
「……は?」
マリオニスの完璧なイントネーションが、わずかに乱れた。
「《叡智の書》と一致。あれが最終ボスです」
恵が、マニュアルを指差しながら無感情に告げる。
「フン。ようやく終わりか」
舞が《不壊の盾》を構える。
「……早く、帰りたいですわ」
花音が、この陰気な城の空気にうんざりした顔で呟く。
(か、帰る……?)
結衣だけが、フライパンを抱きしめて震えている。
5人は、マリオニスの存在など意にも介さず、淡々と戦闘準備を始めた。
まるで、目の前にいるのが魔王ではなく、ただの「障害物」であるかのように。
(え? え? 私、喋ってましたけど? 登場シーン、カットです!?)
マリオニスは、人生最良の舞台で観客にガン無視されるという、想定外の事態に激しく動揺した。
「ま、待ちなさい!」
マリオニスは慌てて、最大の切り札を叫んだ!
「無駄ですよ! あなた方のチート装備は、この私が観劇の成果に基づき、全て分析済みです!」
これで絶望するはずだ。マリオニスは確信していた。 だが、5人の反応は、彼の予想の斜め下を行っていた。
「分析済み?……それがどうした?私の《不壊の盾》は無敵だが?」
「分析? MP無限の私に、なんか関係あんの?」
「こちらには《叡智の書》がありますが?」
「早く帰りたいですわ……」
(ひぃぃ! こっち見てる! フライパンごと分析されてる!)
5人の反応は薄かった。
チート装備に依存しきった彼女たちにとって、「分析された」という脅しは、何の脅威にもなっていなかったのだ。
(え? え? なんで絶望しないんですか!?)
マリオニスは、観客の反応が薄い舞台で、まるで一人で勝手にスベっているピエロのような心境だった。
「もういいです!」
キレたマリオニスは、脚本を放棄した。
「こうなれば、私の十八番! あなた方の脆い『心の枷』を、直接叩き壊して差し上げます!」
マリオニスは、まず最初のターゲットとして、最も強固な「盾」である舞に狙いを定めた。
(第13話 終)




