1周目・第12話:魔王(贋物)がテコ入れしても、視聴率の回復は難しいようです。
勇者パーティ(仮)の空気は、もはや野営地の焚き火(エリクサー調理)の煙と共に霧散した。
会話も絆もゼロ。
ただ《叡智の書》の指示だけに従い、最短ルートを突き進む、自動化された人形の集団。
「…………」
「…………」
「…………」
そのあまりにも静かな進軍を、魔王城のマリオニスは、ドン引きしながら観劇していた。
(うわぁ……。静かすぎる……)
マリオニスは、水晶玉に映る「無言で歩くだけの映像」に、本気で「視聴率」の心配をし始めていた。
(障害物ガン無視コントと、熊さんパンツ頭突きはミリオンヒット級だったが……このままでは盛り上がりに欠ける!)
(そうだ! 私が「テコ入れ」をして、彼女たちの本性を引き出して差し上げましょう!)
マリオニスは、舞台監督として、最初の「小細工」を仕掛けた。
◇◇◇
【マリオニス劇場①:『偽の救済イベント』】
「た、助けてくれぇ! 魔王軍に村が!」
最短ルートの道端で、マリオニスが操る「村人(人形)」が、血糊をべったりつけて倒れていた。 定番の救済イベント。ここで彼女たちの「優しさ」が試されるはずだった。
「……」
花音(第二の置物)は、虚無の目で空を眺めている。
「……《叡智の書》」
恵(インテリクソ眼鏡)がマニュアルを一瞥する。
「ルート外のノイズです。無視します」
「待て」
舞(完璧主義)が、珍しく恵を制止した。
(え? まさか助ける気?)
マリオニスが身を乗り出す。
「……非効率だ」
舞は、倒れている村人(人形)を、邪魔な障害物のように《不壊の盾》で道の端に突き飛ばした。
「最短ルートのど真ん中に寝転がるな」
「ヒャッハー! 舞、ナイス!」
観月が、その「クズムーブ」に爆笑する。
結衣は、ビクビクしながらその光景から目をそらした。
(アッハッハッハ! 助けないどころか突き飛ばした! 最高だこいつら!)
マリオニスは爆笑しつつも、エンタメとして「盛り上がらなかった」ため、即座に次の手を打った。
◇◇◇
【マリオニス劇場②:『強制イベント(チート妨害)』】
(むっ)
マニュアル通りに進んでいた恵が、足を止めた。
最短ルートであるはずの峡谷が、巨大な魔力の結界によって物理的に封鎖されていた。
マリオニスが仕掛けた「テコ入れ」である。
「なっ! マニュアルにない! エラーです!」
恵がパニックに陥る。
「あー、もうダルい! どかせばいいんでしょ!」
観月が《魔力無限の宝玉》を掲げ、最大火力の魔力砲を結界に叩き込んだ。
ズガガガガガーン!!!
凄まじい爆音。だが、結界はマリオニスの力で無傷だった。
「はぁ? なんで壊れないの!? チートなのに!」
観月がイラつく。
「チッ」
舞が、観月を冷ややかに睨みつけた。
「お前の火力が足りないからだ。非効率だ」
「はぁ!? 舞こそ、あの盾でどうにかしなよ!」
「私の盾は《不壊》だ。攻撃用ではない。マニュアルを読め」
(ああ! これこれ! このギスギス! それが見たかった!)
マリオニスは、水晶玉の前でポップコーン(魔界産)が止まらない。
結局、マニュアル信者の恵は、このマニュアル外の障害物を突破できず、パーティ(仮)は、遠回りとなる「獣道」へ進路変更を余儀なくされた。
◇◇◇
【マリオニス劇場③:『偽の仲間追加(そしてフラグ圧壊)』】
「(はぁ……はぁ……)た、助けてください……!」
遠回りさせられた獣道。
そこでパーティ(仮)が出会ったのは、ボロボロの服を纏い、岩陰に座り込む一人の美少年だった。
「魔王軍の野営地から、命からがら逃げてきました……! どうか、僕を一緒に連れて行ってください!」
(さあ、どうする? 絆ゼロの君たちに、この「異物」という名のスパイスを!)
マリオニスは、最高の化学反応を期待して水晶玉を凝視する。
「マニュアル外の異物は不要です。却下」
「非効率だ。足手まといが増える」
(うんうん、知ってた! そうでなくっちゃ!)
マリオニスが満足げに頷く。
「え……」
だが、その時。 パーティ(仮)の中で、唯一、反応が異なる者がいた。
結衣である。
(か、かっこいい……)
彼女の自己肯定感は、マリアナ海溝の最深部――月面到達よりも困難とされる、その最深部・チャレンジャー海淵にまで圧壊していた。
そんな彼女の魂へ、一筋の救助の光が差し込んだ。
今、目の前に!
この世界に来てから、「フライパン置き場」「タレット」「障害物」「道具」としか呼ばれてこなかった結衣。
そんな彼女の前に現れた、正統派の「イケメン」。 しかも、彼は結衣に向かって、優しく助けを求めている。
結衣の頬が、わずかにポッと赤らんだ。
彼女は、フライパン(本体)をギュッと胸に抱きしめ、おずおずと口を開こうとした。
「あ、あの……!」
「あー、もう、ウゼェ」
次の瞬間。
観月が、その光景にイラッとして、宝玉を掲げた。
(私より目立とうとすんな、イケメン。あと、結衣が反応してんのもムカつくな)
「え?」
美少年が顔を上げる。
「ゴメン、手が滑ったわ」
ズドォォォォン!!!
観月の、全く手加減していない魔力砲が、美少年の顔面に直撃した。
(……え?)
マリオニスが固まる。
(いやいやいや! 今の、典型的なご都合主義の救済イベントでしょ!? あのフライパンの子が、唯一反応したチャンスでしょ!? それを蒸発させる!? 手が滑った!?)
美少年は、悲鳴を上げる間もなく、文字通り「蒸発」した。
登場から、わずか5秒の出来事だった。
「あ……」
マリアナ海溝の底に差し込んだ一筋の光。
結衣の淡い初恋(?)も、仲間(?)の魔力砲によって、跡形もなく消え去り、その心は再び暗黒に沈んだ。
「……観月! 貴様!なんてことをするんだぁああああ!」
舞が、こちらに来てから、最も激怒した瞬間だった。
(え? 怒ってくれるの?)
マリオニスが期待した。
「今ので道が塞がった! 非効率だ!」
「あ、そ」
「そっちかよぉおおっ!!!」
マリオニスのツッコミという名の絶叫が、玉座の間に響き渡った。
◇◇◇
マリオニスの「テコ入れ(小細工)」は、全てが予想の斜め下で裏目に出た。
パーティ(仮)は、相も変わらず絆ゼロのまま、ただ「岡山に帰る」ためだけに、マニュアルが示す最後の目的地へと進軍する。
「魔王さえ倒せば、こんな奴らと縁が切れる」
5人は(結衣以外は)全く同じ思いを胸に、マリオニスが待つ「偽りの魔王城」へと突入した。
(第12話 / 第1部 完)




