1周目・第11話:キズナ・ゼロ
主人公(仮)の結衣は、ラノベ史上、誰もなしえなかったであろう快挙を成し遂げた。
主人公(仮)であるにもかかわらず、味方(仲間)からも敵からも、等しく「障害物」としてガン無視されるという、屈辱のコンボを達成したのだ。
これにより、結衣には「報われない主人公」という意味不明な称号とヘイトマイナス100という、これまた意味不明なステータスアップ(ダウン?)がついてしまったのだが、当の本人が、それを知る術はない。
あの件により、パーティ(仮)の空気は、もはや「邪悪で澱んだもの」という表現すら生ぬるい、氷点下の「無」と化していた。
◇◇◇
その日の夜、野営地。
焚き火の周りには、誰一人近寄らない。
恵、舞、観月、花音は、それぞれが半径5メートル以上の距離を保ち、まるで汚物でも見るかのような、あるいは一切視界に入れないような形で陣取っている。
このギスギスした集団の中で、唯一の「仕事」を与えられている者がいた。
児島結衣である。
(……くっ……!)
結衣は、パーティの中心(?)で、一人歯を食いしばりながらフライパンをかき混ぜていた。
彼女の役割は【エリクサー調理係】。
(なんで私が、こんな奴らのために……!)
(もう我慢できない。絶対にまずくしてやる……!)
彼女の「自己無価値感」は、怒りへと変わっていた。
結衣は、そこらで採れた毒々しい紫色のキノコ、見るからに危険なトカゲの尻尾、挙句の果てには泥や枯れ葉を、憎しみを込めてフライパンに叩き込んだ。
(まずくなれ! お腹を壊せ! どうせ【エリクサー調理】なんて言っても、限度があるはず……!)
結衣が憎しみを込めてかき混ぜている鍋の中身は、常人なら致死量の毒物が混ざり合った「呪いのシチュー(仮)」のはずだった。
だが、フライパンのチート能力【エリクサー調理】が発動する。
フライパンが黄金色に輝いた瞬間、致死量の毒物は、完璧な匂いと見た目を持つ、黄金色のシチューへと強制的に変換されてしまった。
(なんでよぉ! 毒殺すらできないじゃない!)
結衣の姑息な抵抗は、チート能力によって無慈悲に打ち砕かれた。
やがて、シチューが完成した。
その匂いを嗅ぎつけ、4人が無言で立ち上がる。
だが、無言で皿を差し出す……かと思いきや、最初に口を開いたのは恵だった。
「待ちなさい」
恵は、黄金色のシチューを一瞥すると、冷ややかに告げた。
「《叡智の書》によれば、今日の戦闘における最適解(私のプラン)では、消費カロリーに対し、このシチュー(リソース)は炭水化物が過剰です。非合理的です」
「は? 炭水化物? 何言ってんの?」
観月が、恵の言葉を鼻で笑う。
「今日一番MP使って敵倒したの、私なんですけど? 魔力回復が最優先でしょ。当然、私が最初に貰うから」
「待て、脳天気」
今度は舞が、観月を睨みつける。
「お前のフレンドリーファイアのせいで、私の完璧な盾が汚れた。そのメンテナンス(精神的負荷)は、お前の魔力消費より重い。よって、完璧な筋肉を維持するため、タンパク質が最も多そうな『中心部』は、私が貰う」
「はぁ!? 意味わかんないし!」
「非効率だ」
「私のプランが絶対です」
「「「……」」」
(……え? 私の作った(できてしまった)料理で、なんでこいつら喧嘩してるの?)
結衣がドン引きする中、3人の低レベルなエゴが衝突する。
「ああ、もう、ダルい!」
観月が、恵の《叡智の書》をひったくろうとする。
「マニュアルばっか読んでないで、私に――」
「寄るな! 私の完璧な距離を乱すな!」
舞が、観月を盾で突き飛ばす。
「きゃっ!?」
ガッシャーン!!
突き飛ばされた観月の体が、結衣が抱えていたフライパンに直撃した。
黄金色のシチューは宙を舞い、その全てが地面の泥と混ざり合った。
「「「「…………あ」」」」
野営地は、再び静寂に包まれた。
4人は、泥にまみれた完璧なエリクサー(だったもの)を一瞥すると、
「……チッ。非効率の極みだ」
「……最悪。もう寝る」
「……(無言で背を向ける)」
「(ああ、平穏が……)」
それぞれ、自分の寝床に戻っていった。
「……」
結衣は、自分が心(ただし、憎しみが9割)を込めて作り、仲間がエゴで奪い合い、結果として誰の口にも入らなかったシチューの残骸を、呆然と見つめていた。
(戦闘にも加えてもらえず、料理もひっくり返される、私の存在意義っていったい…?)
このカオスな仲間たちの「巻き添え」になった結衣。
度重なる不条理と屈辱、そして空腹で、彼女は泣くことしかできなかった。
◇◇◇
「…………」
魔王城で、その夕食(という名の地獄)を観劇していたマリオニスは、ドン引きしていた。
(うわぁ……。なんだこの空気は……)
(静かすぎるのも盛り下がりますが、仲間同士でエゴをぶつけ合って、唯一の食事を台無しにするとか……!)
(これ、私の舞台、盛り下がってない!? というか、芸術として成立してなくないですか!?)
マリオニスは、「読者からのいいね!」が得られないこととは別に、芸術家としての「プライド」が傷つけられるのを感じていた。
(第11話 完)




