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1周目・第9話:私の芸術(シナリオ)が、理解不能なバグで汚染されていく

「(ピラッ)……次の交差点、リソースが出現します。マニュアル42ページ、パターンB(ゴブリン亜種)に準拠」


恵は、土埃で汚れた《叡智の書》を狂信的に抱きしめ、早口で指示を飛ばす。


「最適解は、舞が《不壊の盾》でヘイト管理。観月が後方から魔力砲で殲滅。結衣タレットと花音(置物)は、戦闘座標(10, 5)から半径1メートル以上、絶対に動かないこと。いいですね!」


「……合理的だ」


舞は、恵の指示マニュアルこそが、この世界における唯一の「完璧」だと信じていた。


(あー、また作業かよ。ダル……)


観月は、あくびをしながら宝玉を磨いている。


「グルルルル!」


指示通り、ゴブリンの亜種が数体出現した。


舞がマニュアル通りに盾を構え、完璧な陣形で敵の攻撃を待つ。


だが、敵がマニュアルどおりに動くかどうかは別である。


リッパーたちは、目の前で完璧に構えている舞の《不壊の盾》を完全に無視した。


そして、最も殺しやすそうな獲物――その後ろで、ブツブツとマニュアルを読み上げている恵に向かって、一直線に襲いかかった。


「なっ!? パターンが違う! マニュアルにない行動です!」


恵がパニックに陥る。


「舞! 迎撃! 早く!」


「……」


舞は動かない。 彼女は、自分の《不壊の盾》で自分自身を完璧に守っていた。だが、彼女に仲間を守る《カバー》(2周目スキル)はない。


「非効率だ。あなたのポジショニングが、マニュアルから逸脱している」


「(そんな!? 私はマニュアル通りに……)ふにゃっ!?」


恵は、迫りくるリッパーの爪を前に、あのクマさんパンツの悪夢が蘇る。


完璧な司令官(インテリクソメガネ)の仮面は一瞬で剥がれ落ち、無様に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


ギシャーーッ!


リッパーの爪が、恵の喉元に迫る。


キィィィィン!!!!


甲高い金属音が響き渡った。


リッパーの爪は、突如として出現した「粗品のフライパン(使用感あり)」によって、完璧に受け止められていた。


「え……?」


恵が横を見ると、そこにはマニュアルの指示通り「戦闘座標(10, 5)」で「立ってるだけ」だった結衣がいた。


恵が腰を抜かした結果、偶然・・、結衣の【完全自動防御】(半径1m)の範囲内に入っただけだった。


ビクッ! ビクッ!


結衣は、目の前でリッパーがフライパンをガンガン攻撃している恐怖に、白目を剥いて震えている。


「あ、タレットが機能してる。じゃ、私も仕事しよ」


観月が、そのシュールな光景に飽きたように宝玉を掲げ、リッパーたちを魔力砲で、結衣のフライパンごと吹き飛ばした。


「……はぁ……はぁ……」


恵は、命が助かった安堵よりも、マニュアルが破綻した絶望と、意図せずフライパンの付属品(ゆ い)に助けられた屈辱に、地面に座り込んだまま震えていた。


その時。 スッ、と影が差した。


舞が、無表情で恵を見下していた。


2周目であれば、ここで舞は「完璧じゃなくてもいい」と気づき、絆が生まれるはずだった。


だが、ここは1周目(じごく)である。


「恵」


「……は、はい」


舞から放たれたのは、謝罪ではなく、理不尽な「叱責」だった。


「あなたが最適解マニュアルから逸脱し、敵に狙われるという非効率な行動エラーを起こしたせいで、結衣タレットが想定外の防御を強いられた」


「私の完璧な戦術プランを乱すな!」


「ご、ごめんなさ……」


恵は、もはや泣くことしかできなかった。


◇◇◇


ところ変わって魔王城。


「…………」


マリオニスは、口に含んでいた魔界産高級ワインを、盛大に噴き出すでもなく、かといって飲み込むこともできず、ただ口元で固まらせていた。


(…………は?)


彼は、目の前の水晶玉に映る光景が、どうしても理解できなかった。


(盾役が、本来助けるべき司令官に謝罪どころか『完璧じゃない』と説教している……?)


(そして司令官は、盾役の怠慢による被害者なのに、なぜか泣いて謝罪している……?)


「…わからない」


マリオニスの、ピエロの仮面の下で完璧に保たれていたはずの口角が、カタカタと痙攣を始めた。


(わからない! なぜ!? 「ごめんなさい」と「ありがとう」はどこいった!?)


(フライパンの子に『助けてくれてありがとう』は!? 『盾のくせになぜ庇わなかった』という仲間割れは!?)


彼は、芸術家アーティストだった。人間の「絶望」や「トラウマ」を脚本シナリオ通りに演出し、その美しさを愛でることを至上の喜びとしていた。


だが、今、目の前で起きていることは、「絶望」でも「悲劇」でもない。


それは、彼の理解と常識と芸術ロジックを、根底から破壊する「不条理アブサード」そのものだった。


(こいつら……人として狂ってる……!)


マリオニスは、この理解不能な人形パーティを前に、芸術家としてのプライドが音を立てて崩壊していくのを感じていた。


彼もまた、この不条理劇に巻き込まれた、いち「被害者」だった。


(私の……私の美しい脚本せかいが、あのポンコツ(ちゅうに)どものバグで汚染されていく……!)


マリオニスは、涙目ガチで水晶玉を睨みつけていた。


(第9話 完)


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