1周目・第5話:救わない勇者たち
魔王城への最短ルートを突き進むパーティ(仮)。
その道中は、恵の《叡智の書》による「作業指示」と、それ以外のメンバーの「手抜き」によって、驚くほど順調に進んでいた。
「あ、恵。マニュアルだと次の分岐、右だけど、なんか左から煙上がってない?」
観月が猫のような好奇心で恵に尋ねる。
「……《叡智の書》を再確認します。……ノクス村。疫病が蔓延中。最短ルートからは外れています。よって、無視します」
「りょーかい」
恵が冷徹に告げ、パーティがそのまま右に進もうとした、その時。
「あ、あの……!」
それまで(ほぼ空気として)存在を消していた花音が、か細い声で手を挙げた。
「疫病……ということは、苦しんでいる人がいるのですよね? 私たち、助けなくていいのでしょうか……?」
中2らしい、純粋な善意。
だが、その言葉を聞いた恵は、まるで理解不能なノイズでも聞いたかのように、ゆっくりと振り返った。
「……聖乃さん。あなたの提案は、極めて非合理的です」
「え?」
「私たちの目的は『魔王討伐』と『即時帰還』です。『寄り道』はリソースの無駄。特に」
恵は、パーティの最後尾でフライパンを背負わされている結衣を、アゴでしゃくった。
「あの【フライパン様】のエリクサー生成能力を、最短ルートから外れた、見ず知らずの村に使うなど、論外です」
「で、でも……!」
食い下がる花音に、今度は舞が冷たい視線を送る。
「非効率だ。私たちは『勇者ごっこ』をしに来たわけじゃない。私たちの『完璧』な計画を乱すな」
「う……」
花音は「非効率」「完璧」という、このパーティにおける絶対正義を前に、口をつぐんだ。
その会話を、結衣は、フライパン置き場としてビクビクしながら聞いていた。
(もし、私が……【エリクサー調理】を使えば、あの人たちを助けられるかも……)
結衣は、フライパンの柄を握りしめる。 だが、恵と舞の冷たい視線が突き刺さる。ここで「付属品」の自分が口を開けば、何を言われるか。
(怖い、怒られる……。やっぱり私には、無理……)
結衣は、結局何も言い出せなかった。
「よし、異論は無いですね。行きますよ」
恵の号令のもと、パーティはノクス村に背を向け、無言で最短ルートの進軍を再開した。
こうして、2周目において、彼女たちが救うはずだったノクス村は、冷徹に見捨てられた。
◇◇◇
(…………え? 見捨てた?)
魔王城で観劇していたマリオニスは、あまりの展開にポップコーン(魔界産)を喉に詰らせた。
(いやいや、普通助けるでしょ! 勇者でしょ!? あのフライパンの子が『私が助けます!』とか言う場面でしょ!)
(……こいつら、マジで絆ゼロだ! ヤバすぎる!!)
(第5話 完)




