1周目・第4話:無双プレイ
「では、行きます」
オークが倒れた神殿で、咲良恵は《叡智の書》を片手に冷たく宣言した。
「《叡智の書》によれば、魔王城までの最短ルートは北西の街道。道中のイベントは全て非効率的な寄り道と判断、全ショートカットします」
「戦闘は時間の無駄です。各自、割り当てられたチート装備の性能を最大限に活用し、敵をゴリ押しで排除してください」
「異論は?」
「「「ない」」」
(ひっ……)
中2とは思えぬ冷徹な合意(と結衣の小さな悲鳴)と共に、人類史上最も絆のない勇者パーティ(仮)は、アストラディアの攻略(RTA)を開始した。
その道中は、もはや「冒険」とは呼べない、ただの「作業」だった。
「グルルル!」
「あ、雑魚。観月、よろしく」
「はいはい。こっちか!!」
観月が宝玉を掲げた瞬間、凄まじい威力の魔力砲が放たれ、魔物の群れが地形ごと消し飛んだ。
「ちょっと! 今の爆発で道が抉れた! 非効率よ!」
「えー、でもMP無限だし、いーじゃん?」
(ギロッ)
能天気な観月の発言に、思わず睨みつける舞。
ギスギスした空気の中、パーティは進む。
そして、その戦闘のど真ん中。
結衣は、恵の厳命通り、ただ一人ポツンと立ち尽くしていた。
(怖い……怖い……でも、立ってないと怒られる……!)
敵よりも、怖い味方とは一体…。
彼女の役割は【フライパン置き場】。
敵が彼女(というよりフライパン?)に気づいて攻撃してきても、【完全自動防御】がキンコンカンと甲高い音を立てて全てを弾き返す。
「あ、障害物だ。避けろ」
「チッ、邪魔だ」
敵からも味方からも「障害物」認定されながら、結衣はただ「立ってるだけでいい」という屈辱的な任務を、涙目で遂行していた。
彼女の自己肯定感は、温泉を掘り当てられる深さにまで達しようとしていた。
◇◇◇
その頃。
大陸の遥か彼方、魔王城。
玉座の間で、人形遣いのマリオニスは、魔法の水晶玉を覗き込み、腹を抱えて爆笑していた。
「アッハハハハ! 最高だ! なんだこのパーティは!」
水晶玉には、チート装備で敵をゴリ押しする4人と、その中心で「障害物」として立ち尽くす結衣の姿が、鮮明に映し出されていた。
「ギスギスしてる! 連携もなにもない! なのにチートで勝ててる! このアンバランス! まさに最高の人形劇だ!」
マリオニスは、涙を拭いながら、特に異彩を放つ結衣を指差した。
「ん?……んん?」
マリオニスは目を凝らす。
「あのフライパンの子……戦闘中、本当に一歩も動かず、ずっと立ってるだけ……?」
彼は、この世界の誰よりも狡猾な策略家である。その彼をもってしても、結衣の行動は理解の範疇を超えていた。
(まさか……あれは、敵の攻撃を全て引き受ける『挑発』の高等戦術……? いや、ただの『置き物』……?)
マリオニスは、生まれて初めて「分析不能」な戦術(?)を前に、混乱しながらも、腹の底から歓喜の声を上げた。
「斬新な戦術だ!(※編集部注:戦術ではない)ああ、早く会いたい! この最高の人形たちに!」
(第4話 完)




