1周目・第3話:「立ってるだけでいい」
オークが白目を剥いて倒れてから、神殿には結衣の泣き声だけが響いていた。
他の4人とアルドゥスは、泣きじゃくる結衣には一切目を向けず、結衣が落とした御神体「粗品のフライパン(使用感あり)」を、神妙な面持ちで囲んでいた。
「……非合理的です」
最初に沈黙を破ったのは、恵だった。
彼女は《叡智の書》を高速でめくりながら、信じられないといった様子で呟く。
「マニュアルに記載がありません。あのオークは危険度B。私の《叡智の書》による最適解は、舞さんの《不壊の盾》で防御しつつ、観月さんの《魔力無限の宝玉》で削り切ることでした。……なぜ、フライパンの一撃で?」
(一撃ぃ!?かすっただけじゃん!!)
観月が、面白くなさそうにそっぽを向く。
「恵、その本を貸せ」
舞が《叡智の書》をひったくり、フライパンのページを無理やり開かせた。そこには、アルドゥスが面倒くさがって説明しなかった、フライパンの真の性能が記されていた。
【粗品のフライパン(使用感あり)】
【完全自動防御】: 持ち主の意志に関わらず、半径1m以内の全ての敵対行動を無効化する。
【当たれば即死】: 持ち主が振るった場合、ダメージ量に関わらず、対象に即死判定を付与する。
【エリクサー調理】: このフライパンで調理した食材は必ず美味な料理になる。さらに、食べればHP・MPを全回復させるエリクサー効果を発揮する。
「「「「…………」」」」
4人は、フライパンの性能と、いまだに隅で「ママあああ」と泣き続けている結衣を、交互に見比べた。
((((フライパン、マジ最強だ))))
(でもさ、【当たれば即死】とか言いながら、さっきのオーク、3秒くらいタイムラグあったよね!?)
自分の活躍を奪われた観月が、密かに恨みがましく、重箱の隅を突くようなツッコミを入れていた。
やがて、恵が冷静に、しかし冷酷に立ち上がった。
「最適解を提示します」
恵は、泣きじゃくる結衣の前に立つと、まるで戦略物資でも見るかのような目で、フライパンと彼女を分析した。
「児島結衣さん。あなたの戦闘能力はゼロです。いえ、パニックで号泣し、味方の指揮系統を乱すため、むしろマイナスです」
「ひっく……え?」
「ですが、そのフライパンはS級、いえ、戦略級の価値があります」
恵は、パーティ全員に聞こえるよう、冷ややかに宣言した。
「よって、これより児島結衣さんの役割を正式に決定します」
「あなたの役割は、【フライパン置き場 兼 エリクサー調理係】です」
「ふ、ふらいぱんおきば……?」
「はい。戦闘が始まったら、あなたは【フライパン様】を持って、『ただ立ってるだけでいい』。【完全自動防御】があなたを守ります。あなたは、敵を引きつける『自動防御タレット』です」
恵の言葉を聞いて、観月は体を小刻みに振るわせる。
「そして戦闘が終わったら、私たち全員分の食事を作ってください。それ以外の行動は、全て非合理的とみなし、禁止します」
あまりにも不条理な「戦力外」通告。
結衣は、自分が「戦力」としてではなく、「フライパンの付属品」としてパーティに組み込まれたことを理解し、泣き声すら出なくなった。
「異論は?」
恵が、舞と観月、花音を見る。
「合理的だ。足手まといが前に出ないなら、完璧な戦術が組める」
「ハハハハッ!ウケるぅ!フライパン置き場だって」
「(ああ、これで私が戦わなくても……)平穏ですね……」
満場一致。
こうして、主人公(仮)の児島結衣は、召喚二日目にして、パーティの「仲間」から「フライパン置き場兼料理係」へと降格した。
彼女の自己肯定感ダダ下がりライフは、まだ始まったばかりである。
(第3話 完)




