第四十六話:祈りよ届け、世界を越えて
結衣の《神の恩寵》が、魔王の《黒い腐敗》を浄化し、同時に仲間たちの全リソースを回復させた。
5人全員が、全てのジョブ究極スキルに覚醒し、万全の状態で魔王と対峙する。
「あなたの『手術』は、終わり。……ここからは、私たちの『手当て』の時間だよ!」
結衣の言葉は、反撃の狼煙だった。
「馬鹿な……! 私の『マクロな正義』が、これほどまでの拒絶反応を……!」
魔王は、自らの魔力効率が《費用対効果 》によって破壊されたまま、5人の究極の「個」が再集結する様に戦慄した。
「計算完了!」
恵が叫んだ。彼女の瞳は、もはや魔王のハッキングに怯えていない。
「あなたの『連携切除』は、私たちの旧システムを切断したに過ぎない! 今、この瞬間に、私たちの絆で、最強のシステムを再構築する!」
恵の《応用科学》が、覚醒した仲間たちの究極スキルを「材料」に、新たな合体魔法の発明を始める。
「観月! 属性究極連携よ!」
「オッケー! 私の太陽と、恵の嵐、混ぜちゃえ!」
「《応用科学》発動! 二つの究極を融合させる!」
観月の《私が太陽!》によって極限まで高められた灼熱のオーラが、恵の呼び起こした《テンペスト》の暴風と融合する。
「「いっけぇーー! 《太陽風》!!」」
それは、もはや「嵐」や「炎」ではない。
全てを蒸発させる、灼熱の「太陽風」が、魔王の理知的な顔を真正面から呑み込んだ。
「ぐっ……がああああっ!?」
凄まじい熱量に、魔王のローブが燃え上がる。
だが、魔王は即座に魔力障壁を展開し、その中から反撃の魔弾を放とうとした。
「させません!」 その声は、花音。
「私の『盾』は、今、最強の『矛』となります!」
「《アースシールド》! 全基、射出!」
花音の周囲に浮かぶ、13個の迎撃用オーブが、魔王に向かって一斉に射出される。
「恵さん!」
「ロジック書き換え、完了! 《応用科学》! 自動迎撃を、自動追尾に!」
恵のスキルが、13個のオーブの「概念」を書き換えた。
オーブは魔王の魔力障壁をすり抜け、その内側でモーニングスターの連打のように暴れ回る。
「《十三使徒の厄災》!!」
「ごふっ……! 小賢しい……!」
魔王は、自らの内側で炸裂する厄災に、初めて膝をついた。
だが、彼はまだ倒れない。
「なぜだ……! なぜ、私の『マクロな正義』が……! この停滞した世界ごときに!」
「まだ分からないの!?」
結衣が叫んだ。
「私たちの『毎日』は、停滞なんかしてない! 昨日より今日、今日より明日、少しずつでも前に進んでる!」
「……」
「その小さな『毎日』の積み重ねこそが、あなたの言う『世界』なんでしょう!」
「……」
魔王が、結衣の言葉に一瞬、思考を停止した。
「フィナーレよ!」
恵が、その一瞬の隙を見逃さなかった。
「結衣!」
「うん!」
結衣はそっと目を閉じ、胸の前で手を組んだ。
それは、攻撃の構えではなく、ただ、ひたすらに純粋な「祈り」の姿だった。
(お願い……みんなの心を貸して……!)
結衣の《神の恩寵》が、今度は「願い」のために全霊解放される。
恵の《応用科学》が、その「願い」という名の非合理な概念を、物理的な「波」として構築する。
観月の《私が太陽!》が、その「波」を空高く運び、増幅させる「光の灯台」となる。
結衣の祈りは、思念の波となって、魔王城アビス・ゼニスの頂上から、世界中へと一斉に届けられた。
その「波」は、戦火に包まれた大陸の隅々にまで届いた。
ノクス村。
蘇った井戸の水を汲んでいた村人たちが、ふと、空を見上げた。
「……なんだろう、今」
「すごく……温かい。あの、旅のお嬢さんたちの……」
彼らは、魔王城の方角へ、そっと祈りを捧げた。
フォルトゥナ。
種族の垣根を超え、復興作業にあたっていた兵士たちが、同時に動きを止めた。
「……祈りが、聞こえる」
「ああ。我々が守り、我々を救ってくれた、あの少女たちの」
「今度は、我々が祈る番だ」
結衣の願いは世界をも跨いだ。
それは、岡山のファミレスで談笑する人々、さらには、世界中の名もなき街角で「日常」を生きる全ての人々の胸にも届いていた。
彼らが「生きたい」「明日も笑いたい」と願う、ささやかな、しかし無数にある「ミクロの光」。
それに応えるかのように。
世界中の人々の、魔王に「停滞」と切り捨てられた「思い」が、無数の光の粒子となって、地表から空へと昇り始めた。
魔王城アビス・ゼニス、頂上のオペレーションルーム。
「馬鹿な……なんだ、この光は……!?」
魔王が戦慄した。
世界中から集まった「思い」の奔流が、まるで天の川のように、オペレーションルームの天井を突き破って降り注ぐ。
その光は、一直線に、祈る結衣の元へと集束していく。
「集まってる……! 世界中の『ミクロ』が、結衣のところに!」
観月が叫ぶ。
「させません!」
光の奔流を妨げようとする魔王の動きを花音が牽制する。
花音は《鎮魂の歌》を歌い上げ、魔王の「意志」そのものを、ふたたび大地に縫い付ける。
「結衣は、絶対に守る!」
舞が《ガーディアンフィールド》を展開し、世界中の「思い」を受け止める「器」となった結衣を、魔王の最後の抵抗から守るための無敵の結界を張る。
「システム(回路)は開いた!」 恵が叫んだ。
「結衣! あなたが世界をまたいで受け止めた、その『全部乗せ』を、魔王に叩きつけて!」
結衣が、ゆっくりと目を開く。
彼女の目の前には、収束された光の魂がたたずんでいた。それは、世界中の人々の「明日」の輝きを宿していた。
「これが!」
恵が叫ぶ。
「私たちの『日常』の、全部乗せよ!」
「私たちの『生きる』輝きを!」
結衣が、世界中から集めた「光」を、魔王へと解き放った。
「「受けなさい!!」」
それは、もはや魔法ではなかった。
5人の女子高生が守りたかった「ささやかな日常」
その全てが、そして、世界中の人々「祈り」や「願い」が、純粋な「意志」の奔流となって、魔王に叩きつけられた。
「ああ……」
魔王は、迫り来る「光」の中に、絶望ではなく、無数の「笑顔」を見た。
ノクス村で蘇った井戸を囲む村人たちの笑顔。
フォルトゥナで、種族を超えて手を取り合う兵士たちの笑顔。
そして、岡山のファミレスで、他愛もない話に笑い転げる、5人の少女たちの笑顔。
「これが……『ミクロ』の……輝き……」
魔王は、自らが「停滞」と断じた世界が、これほどまでに眩しい「日常」を内包していたことを、最期に悟った。
「……私の、完敗だ」
光が、全てを包み込んだ。
(第四十六話 終)




