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第四十五話:最終覚醒!《神の恩寵》

絶望は、希望によって上書きされた。


花音の《曙光の鎮魂歌》が魔王の精神攻撃マイナスを鎮め、観月の《私が太陽!》が仲間たちの士気を最高潮プラスへと引き上げた。


連携システムを切断され、絶望の淵にいたはずの5人は、今や4人が「ジョブ究極スキル」に覚醒し、魔力も気力も完全に回復した状態で、魔王の前に立ちはだかっていた。


「……素晴らしい」


魔王は、自らの戦術がことごとく打ち破られたにもかかわらず、その理知的な表情を崩さなかった。


いや、むしろ、その瞳の奥には初めて「歓喜」に似た光が宿っていた。


「舞の『絶対守護』、恵の『コスト破壊』、花音の『精神中和』、観月の『絶対鼓舞』……」


魔王は、まるで美しい症例ケースを前にした医師のように、恍惚こうこつと呟いた。


「君たちの『ミクロな正義』は、私の想定を遥かに超える、強烈な免疫反応・・・・だ。この停滞した世界かんじゃが、まだこれほどの『生きたい』という意志ちからを残していたとは!」


魔王は、ゆっくりと両手を広げた。


「だが、治療オペは続行する」


「まだやる気!?」


「当然だ」


魔王は、覚醒した4人を、そして唯一まだ究極に至っていない結衣・・を、冷徹に見据えた。


「強すぎる免疫反応は、時として、患者マクロ自身を殺す」


「君たちのその強すぎる『個』の輝きが、この世界かんじゃにとっての『アレルギー』に過ぎないことを、今ここで証明しよう」


魔王は、もはや剣を構えなかった。 彼は、オペレーションルームの床に手を置き、自らの魔力を、アストラディアの「大地」そのものに流し込み始めた。


「君たちが守ろうとした『日常』そのものを、病巣・・として切除する」


「最後の治療だ。――《黒い腐敗ワールド・コラプション》」


「!?」


それは、アルドゥスが最初に口にした、この世界を滅ぼすという災厄の名。


その瞬間、オペレーションルームの壁一面を覆う巨大な水晶モニターが、一斉に赤黒く染まった。


「あ……!」


結衣が息を呑む。


モニターには、遥か遠く、フォルトゥナの連合軍が映し出されている。 舞の《ガーディアンフィールド》が消えた今、彼らの足元の地面から、黒い瘴気しょうきが、まるで石油のように噴き出し始めたのだ。


「シルヴィアさんたちが!」


瘴気は、触れた兵士たちを瞬時に蝕み、その生命力を奪っていく。


「《黒い腐敗》……! ノクス村の呪いとは比較にならない! あれは、この星の生命力そのものを『反転』させる、究極の呪詛じゅそです!」


恵が戦慄の分析結果を叫ぶ。


「やめて!」


結衣は、モニターに向かって手を伸ばす。だが、彼女たちに、遠く離れた世界マクロを救う術はない。


舞の盾も、観月の太陽も、花音の歌も、恵の論理も、すでに発動してしまった「世界規模の現象」の前には無力だった。


「これが現実だ」


魔王は、自らが引き起こした惨状オペを、静かに見つめている。


「君たちの『ミクロな正義(にちじょう)』は、私の『マクロな正義(ちつじょ)』の前では、こうも無力だ。君たちは、仲間パーティという小さな世界ミクロは守れても、本当の世界マクロは何も救えない」


「……」


結衣は、震えていた。 モニターに映る、黒い腐敗に飲み込まれていく兵士たち。


脳裏に蘇る、1周目の自分たち。 そして、魔王の言葉が突き刺さる。


(そう、かも……しれない)


(私たちは、結局、1周目と同じ)


(目の前の仲間ミクロは守れても、世界マクロは……見捨てるしか、ない……?)


彼女の「自己無価値感」という最後の「心の枷」が、魔王の絶対的な論理によって、再び彼女の心を縛り付けようとした。


(違う……)


結衣は、強く、強くかぶりを振った。


(違う!)


彼女は、魔王を、そして黒い腐敗に沈む世界モニターを、涙の滲む目で睨み据えた。


(魔王、あなたは、根本的に間違ってる!)


世界マクロ……?」


結衣は、震える声で、


「『世界マクロを救う』ですって……?」


しかし、確かな意志を持って言葉を紡いだ。


「あなたは、世界マクロを救うとか、治療するとか、そんな大きなことばかり言ってるけど……!」


結衣は、黒い腐敗の中で必死に仲間を助けようとしているシルヴィアの姿を、指差した。


「今、あそこで苦しんでいる『一人』が見えてない!」


「ノクス村で、弟(優斗)と同じように苦しんでた、あの『男の子』が見えてなかった!」


「目の前の、たった一人のミクロすら救おうとしないで、世界マクロなんて救えるわけない!!」


結衣の魂が、叫んだ。


聖職者プリーストとしての、彼女の哲学の集大成。


(私が守りたいのは、世界マクロじゃない!)


(私が守りたいのは、今、目の前で苦しんでいる、人間ひとりひとり(ミクロ)なの!)


「自己無価値感」という最後の「心の枷」が、音を立てて砕け散った。


彼女の存在意義は、無価値などではない。


「世界」という大きすぎる主語から、「目の前の命」という最小にして最強の主語を取り戻した瞬間、彼女の魂は黄金の輝きを放った。


「私が、みんなを、世界を……絶対に救う!」


「――《神の恩寵ディヴァイン・グレイス》!!」


結衣から放たれた光は、もはや《ヒール》のような温かさではなかった。 それは、世界のことわりそのものを書き換える、神聖にして絶対的な「浄化」の波動。


光は、究極スキルを使い消耗していた舞、恵、観月、花音を包み込み、その魔力と疲労を瞬時に全回復・・・させた。


「なっ……!?」


「魔力が……全快してる!?」


そして、その光はオペレーションルームに留まらず、壁面の水晶モニターを通過し、アストラディア全土へと「概念」として拡散した。


遥か遠く、フォルトゥナ。


黒い腐敗に飲み込まれかけていたシルヴィアたちが、天から降り注いだ黄金の光に包まれる。


「これは……!」


次の瞬間、シルヴィアたちの足元から、黒い腐敗がまるで洗い流されるかのように消滅し、大地に清浄な光が戻っていった。


「馬鹿な……!?」


魔王が、自らの最終奥義が「治療」された事実に、初めて動揺の声を上げた。


「私の《黒い腐敗》が……『浄化』されただと……!?」


結衣の「ミクロな正義」の集大成は、魔王の「マクロな正義」の集大成を、完全に凌駕した。


5人全員が、ジョブ究極スキルに覚醒した。


魔力は全快。 絆は最高潮。


「魔王」


全快した5人の中心で、結衣が、アストラディアの未来を賭けた最後の戦いを宣告した。


「あなたの『手術』は、終わり。……ここからは、私たちの『手当て』の時間だよ!」


(第四十五話 終)

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