表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/74

第四十四話:闇を切り裂くふたつの力

連携システムを切断されたはずの「個」が、立て続けに究極の覚醒を遂げた。


舞の《ガーディアンフィールド》 がフォルトゥナの連合軍を守り抜き、恵の《費用対効果 (デフレーション)》 が魔王の追撃を止めた。


「……なるほど」


魔王は、自らの魔術が発動できなかった 事実に直面し、初めてその理知的な表情を歪ませた。


「《オペレーション・カット》で神経系れんけいを切断しても、個々の細胞が意志を持ち、予期せぬ抗体スキルを生み出すか。実に厄介な『症例』だ」


彼は、外科手術オペレーションが失敗したことを悟った。


連携システムを切っても、意志こころが繋がっている。


魔力リソースを削ろうとしても、合理性ロジックがそれを上回る。


「ならば、もはや『切除』や『治療』ではない」


魔王は、その戦術を根本から切り替えた。


物理的な攻撃でも、魔術的な攻撃でもない。


彼女たちの強さの根源――「目の前の日常ミクロを守る」という、その意志・・そのものを破壊する。


「君たちの『ミクロな正義』は、所詮、この停滞した世界マクロが生み出した、取るに足らない感傷だ。その無力さを、骨の髄まで思い知るがいい」


魔王は剣を収め、ただ、両手を広げた。


その体から放たれたのは、魔力ではない。


純粋な「思想」の圧力。


1周目では彼女たちを屈服させ、2周目ではマリオニスがもてあそんだ「絶望」そのものだった。


「――《絶望のオーラ》」


オペレーションルーム全体が、目に見えない重圧に沈む。


それは、舞の《ガーディアンフィールド》 でも防げない、魂に直接作用する精神攻撃。


「あ……」


最初に反応したのは、花音だった。


彼女の脳裏に、恵まれた環境じぶんへの罪悪感・・・が、魔王の思想によって増幅されて蘇る。


(私たちの『ミクロな正義』は、いつだって、より大きな犠牲・・を生み出しているだけじゃない……!)


「やめ…て……」


花音の指から力が抜け、愛用のリュートが床に滑り落ちそうになる。


「花音ちゃん!」


結衣が叫ぶが、彼女自身もまた、オーラに苛まれていた。


そして、観月も。


1周目ではチートによってふたをされていた「心の枷」 が、今、こじ開けられる。


(なにこれ……最悪……。1周目の私なら、こんな時、《魔力無限》 で全部吹き飛ばしてた)


(でも、今の私には、チートなんかない!)


(チートがない私は……やっぱり、お姉ちゃんの劣化版にせもの なの……!?)


1周目で向き合う必要のなかった、本物の「劣等感」 が観月の心を直撃した。


「その通りだ」


魔王は、彼女たちの心のが再びきしみ始めたのを見逃さない。


「君たちの『ミクロな正義』は無力だ」


その言葉が、花音と観月の心を折る最後の一撃となった。


だが、その絶望の淵で、花音は、必死に魔王のオーラに抵抗している仲間たちの顔を見た。


(違う……! 私の歌は、仲間みんなの心を支えるためにある!)


花音は、震える手でリュートを拾い上げ、強く抱きしめた。


(その奥にある、いのちの輝きだけは、あなたなんかに、絶対に失わせない!)


吟遊詩人バードとしての魂の集大成。


「――《曙光の鎮魂歌アウローラ・レクイエム》!」


荘厳で、しかしどこまでも優しい聖歌が、オペレーションルームに響き渡った。


魔王が放った《絶望のオーラ》という名の「ノイズ」が、花音の歌声ハーモニーによって中和され、霧散していく。


「なっ……! 私の精神干渉を、鎮めただと!?」


魔王が、三度みたび、驚愕に目を見開いた。


「はぁ……はぁ……」


花音が膝をつく。オーラは消えた。


だが、ルーム内を支配する「絶望感」の残滓ざんしは、まだ消えていない。


パーティの士気は、依然として最低だった。観月の「劣等感」も、消えたわけではなく、ただ「ゼロ(鎮静状態)」に戻っただけだった。


(ダメだ……!)


その光景を見て、今度は観月が歯を食いしばった。


(花音ちゃんが、せっかく絶望マイナスをゼロに戻してくれたのに、みんなの心が死んだままじゃない!)


これじゃない。私が望むのは、これじゃない。


下を向かないで。顔を上げて。


(1周目の私は、魔力無限チート幻影おねえちゃん を吹き飛ばして「最強」 になったつもりでいた)


(でも、それは偽物・・だった)


(チートがないだからこそ、本当の私になれる!)


観月は、仲間たちの中心に躍り出た。


「みんな、聞いて! 絶望してる暇なんてないよ!」


(私は、お姉ちゃんの代わりなんかじゃない! 誰かの真似でもない!)


(私が、みんなを照らす! 私が、この世界の太陽になるんだ!)


踊り子(ダンサー)としての魅力と哲学の集大成。


花音が「鎮魂(マイナス→ゼロ)」を成したなら、私は「鼓舞(ゼロ→プラス)」を成す!


絶望を、希望で上書きする!


「――《私が太陽センター・オブ・ザ・ワールド!》!!」


観月が、チアダンスのフィニッシュのように、両手を天に突き上げた。


その瞬間、彼女の体から、魔王城の闇すら焼き尽くす、本物の太陽のような灼熱のオーラが溢れ出した。


「うおおおっ!?」


「なにこれ、体が……熱い!」


花音の《鎮魂の歌》で平穏に戻っていた仲間たちの魂が、観月の《私が太陽!》によって、今度は強制的に「最高潮」まで引き上げられる。


失っていた戦意が戻るどころではない。


魔力、体力、集中力、その全てが、これまでの限界値を遥かに超えて沸騰していく。


「これが……私たちの、太陽……!」


舞が、観月の光を浴びて立ち上がる。


連携システムが切られてる? 関係ない!」


恵が、オーラを浴びながら高速で分析を再開する。


「これだけの『個』の力があれば、新たな連携・・を今ここで構築ビルドできるわ!」


四人が覚醒した。残るは、一人。


魔王は、自らの精神攻撃さえも力に変えた少女たちを前に、初めて、その理知的な表情を「怒り」に近いものに歪ませていた。

(第四十四話 終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ