第四十三話:時空を超えて
魔王の《オペレーション・カット》により、5人の絆は「力」としての連携を失った。
彼女たちは1周目と同じ、バラバラの「個」へと解体されてしまったのだ。
魔王は、無様に連携を乱す5人を見下ろした。
「どうした? 連携を切断されても、まだその目は死んでいないようだな」
魔王は、彼女たちの抵抗の意志がまだ折れていないことを見抜いた。
「ならば、その『希望』そのものを切除しよう。それが、君たちの無意味な抵抗を終わらせる、最も効率的な治療だ」
魔王は、あえて5人にとどめを刺さず、壁一面を覆う巨大な水晶を指し示した。
そこには、遥か遠く、フォルトゥナの城門前で待機する「対魔王連合戦線」の姿が映し出されていた。
シルヴィア、ドーリン、リューナ、そして彼女たちが救ったノクス村の人々の祈り。
「あれこそが、君たちが守ろうとする『日常』。停滞した世界の象徴だ」
魔王は、オペレーションルームから遠隔で、連合軍という名の日常を消し去るべく、片手を掲げた。
「この『病巣』を切除することで、君たちの無意味な抵抗も終わる」
「やめて!」
結衣が叫ぶ。
だが、連携を切断された5人に、魔王を止める術はない。
魔王の魔力が収束し、フォルトゥナの上空に、ライラの《氷河期》をも凌駕する、数十もの超巨大な暗黒の魔力槍が生成されていく。
あれが投下されれば、連合軍はおろか、フォルトゥナの街ごと消滅する。
「ああ……!」
「そんな……!」
観月も花音も、為す術なくその光景を見つめることしかできない。
(ダメだ……!)
舞は、目の前のモニターに映る絶望的な光景と、連携を失い動けない仲間たちを、同時に見ていた。
(私の……私の完璧な計画が……!)
1周目の彼女は、「マニュアル」こそが絶対だと信じていた。
だが、今、その「完璧」が崩壊する。
(1周目の私は、マニュアルこそが完璧だと思っていた。だが、今の私の「完璧」な計画では、あの距離は守れない! 仲間も守れない! 両方を守るプランがない!)
「完璧な計画」の限界。
それこそが、彼女の「心の枷」だった。
(1周目、私たちは連合軍にいる人たちを見捨てた)
(2周目、私は仲間を守るために《カバー》を覚えた)
(だが今、その「完璧」に固執したせいで、仲間も、あの世界も、同時に失おうとしている!)
(なら、どうする!)
(…決まっってる!)
舞は、自らの「完璧主義」という名の枷を、意志の力で粉砕した。
(完璧じゃなくても、連携できなくても、関係ない!)
(仲間も、世界も、私の守りたいもの全てを、この盾で守る!!)
リベロとしての哲学と、ナイトとしての哲学が、一つの究極の「意志」へと昇華した。
「失わせない!!」
舞が、オペレーションルームで叫んだ。
「仲間も、世界も、もう何も失わない!!」
彼女の叫びに呼応し、最終装備『ガーディアン・リベロスタイル』が、これまでにない神聖な輝きを放つ。
彼女のナイトとしての哲学の集大成。
「――《ガーディアンフィールド》!!」
舞の「全てを守る」という究極の意志が、空間を超え、時間さえも超越した「概念」そのものとなり――
◇◇◇
遥か遠く、フォルトゥナの連合軍の上空。
魔王の暗黒の魔力槍が降り注ぐ、まさにその寸前。
連合軍全体を包み込むように、巨大な、黄金の守護結界が出現した。
ズウウウウウウウウウン!!!
数十もの魔力槍が、一斉に結界に着弾する。
アストラディア全土を揺るがすほどの轟音が響き渡るが、黄金の結界は、傷一つなく、その全ての攻撃を「無効化」した。
「なっ……!?」
魔王が、初めて攻撃を防がれたことに驚愕し、モニターを睨みつけた。
そこには、無傷の連合軍と、黄金の光に守られたシルヴィアたちの姿が映っていた。
(やった……! 舞が、防いだ!)
恵が、そのありえない現象に戦慄する。
「……ほう。連携を切断された『個』が、意志の力だけで、私の戦略級魔術を遠隔で無効化した、か。興味深い」
魔王は、舞の覚醒を「新たな症例」として分析し、即座に次の手を打った。
「だが、その『個』の輝きも、所詮は刹那の花火。その大技を維持したまま、次の『執刀』に耐えられるかな?」
魔王は、さらに膨大な魔力を練り上げ、第二波を放とうとする。
(まずい! 舞は今、全神経をフォルトゥナの防御に集中させている! 無防備だ!)
恵の思考が加速する。
(魔王の狙いは、あの圧倒的な魔力による物量! あの非効率なやり方……!)
魔王の「マクロな正義」は、あまりにも多くの犠牲を払い、世界をリセットするという、不確定な成果を求める。
それは、恵の合理主義が、最も忌み嫌う「最悪の経営判断」だった。
(あんたの正義は、破綻してる!)
恵の「大賢者」としての魂が、魔王の非合理性を断罪する。
「あんたの正義は、費用対効果が最悪だ!!」
恵は、魔王本人に向かって、自らの哲学の集大成を叩きつけた。
「その術式、私が『非効率』の極みにしてあげる! ――《費用対効果 》!!」
それは、攻撃魔法でも防御魔法でもない。
「大賢者」としての合理性の集大成。
敵の行動の「価値」そのものを暴落させる、まさにデフレーション。
「コスト」だけを桁違いに跳ね上がらせる、究極のデバフ領域。
「ぐ……!?」
まさに第二波の魔術を放とうとしていた魔王が、初めて苦悶の表情を浮かべた。
彼の魔力そのものが、急速に「目減り」していく。
(これは……! 私の魔力消費率が……!)
魔王が魔法を使おうとすればするほど、恵のスキルがその「魔力コスト」を異常なまでに吊り上げ、魔王の消費MPが通常の10倍以上に跳ね上がっていく。
術式への魔力供給が進まない!
「ま、魔法が、発動できない!?」
魔王は、事象の生成を止められた事実に、初めて動揺の色を浮かべていた。
(第四十三話 終)




