第三十七話:緊急発進! 革命の翼「アース」
魔王が突きつけた、24時間という絶望的なタイムリミット。
陸路で500キロ。通常なら一週間かかる距離。観月の究極スキルも封じられた今、打つ手はないかに見えた。
「私のせいで……」
自責の念に駆られる観月に、舞が即座に否定の言葉をかけた。
「違う。お前の力が、魔王をここまで追い詰めた証拠だ。奴は焦っている」
「その通りです。そして、この絶望的な状況を打破するには、もはや常識的な手段では間に合わない」
恵は、『ふにゃ』が空中に投影したアストラディアの立体地図を指し示した。
「陸路は論外。通常の空路もリスクが高すぎる。ならば、私たちが取るべきは、『超高速・少数精鋭による電撃的斬首作戦』のみ。そして、それを実現するための……」
恵は、全員を見回し、力強く宣言した。
「第三の革命――『交通革命』を、今ここで起こします」
「交通革命だと?」
シルヴィアが目を見張る。
「ええ。今から、私たちが空を飛ぶための『乗り物』を発明します」
恵は、隣に立つ花音を見上げた。
「花音。あなたの究極スキル、《アースシールド》。あれを、私に再定義させて」
「私のアースシールドを?」
「ええ。あなたの13個のオーブは、超高硬度かつ鏡面反射という、航空機として理想的な素材特性を持っているわ。これを、《応用科学》と現代工学(流体力学)の知識で再構築するわ」
恵の脳内で、異世界の魔法と現代科学が融合していく。彼女は空中に光で設計図を描き出した。それは、プロペラのないヘリコプターのような、流線形の美しい機影だった。
「7個のオーブを連結・変形させ、5人乗りの筐体を形成。空気抵抗を極限まで減らします。そして、私の風属性魔力を推進力に変換すれば……時速250キロでの巡航が可能よ!」
「時速250キロ!?」
ドーリンが叫ぶ。
「それなら、1時間以内に魔王城へ到達できる!」
「さらに、残りの6個のオーブは、独立した『迎撃用ファンネル』として機能させる。自動迎撃と魔法反射の特性を活かせば、敵の妨害を受けずに最短ルートを強行突破できるはずです」
「だが、それだけの魔力をどうやって維持する!?」ドーリンが問う。「お前たちの魔力は有限だろう!」
「その点については、私に考えがありますわ」
花音が前に出た。その隣には、リューナが立っている。
「リューナさんから、エルフの精霊術について教えていただきました。大地の精霊、風の精霊……彼らの力を借りれば……」
花音は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして、歌い始める。それは、これまでの歌とは違う、世界そのものに語りかけるような、神秘的な旋律。
「――《精霊の歌》」
新たなスキルが閃いた瞬間、周囲の空気中の魔力が花音の歌声に呼応し、彼女の体へと流れ込み始めた。
「《分析》結果……驚異的です。私たち全員のMPが、徐々に回復しています!」恵が目を見張る。
「これで、永久機関は完成です」
恵は満足げに頷いた。
「私の《最適化》による燃費向上と、《精霊の歌》による魔力回復。理論上、無限航続が可能です!」
絶望的な状況が、たった一つのアイデアによって希望へと反転した。
「全軍に通達!」
シルヴィアが剣を抜き放った。
「これより、作戦プランを『電撃的斬首作戦』に移行する! 連合軍主力は陽動を開始! 敵主力を引きつけろ!」
シルヴィアの号令一下、連合軍は絶望を振り払い、最後の戦いへと動き出した。
「花音さん、構築を開始します!」
「はい!」
恵の指示の下、花音が《アースシールド》を発動させる。13個のオーブが出現し、恵の《応用科学》が描く設計図に従って、急速に変形・連結していく。
数分のうちに、それは完成した。
鏡のように磨き上げられた、流線形の美しい機体。その周囲を、6個のオーブが衛星のように旋回している。
高機動突撃艇「アースシールド・ストライカー」。略称「アース」。
「みんな、行こう! 私たちの革命で、未来を掴みに!」
結衣の叫びと共に、5人はアースに乗り込んだ。操縦席には恵が座る。
「アース、システム起動。《最適化》、全システムに適用。花音さん、動力維持を」
「了解ですわ」
恵が風の魔力を機体下部に噴射する。アースは、音もなく滑らかに浮上した。
「目標、魔王城アビス・ゼニス! 最大船速!」
恵が叫ぶと同時に、アースは後方に凄まじい風圧を放ち、矢のように加速した。
時速250キロ。その圧倒的な速度で、彼女たちは決戦の地へと飛び立った。
アストラディアの命運を賭けた、最後の24時間が始まった。
(第三十七話 終)




