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第三十五話:起死回生!轟け!ランド・オブ・サン・シャイン

フォルトゥナ郊外の平原は、絶対的な重力によって圧壊しつつあった。


ライラの無詠唱魔術によって地面に叩きつけられた5人は、完成したばかりの最終装備を軋ませながら、意識を失いかけていた。


「……終わりです」


ライラは、無慈悲に地面に這いつくばる5人を見下ろした。


「あなた方という『変数』が観測された以上、この都市フォルトゥナそのものを放置することは、私の『知識』が許さない。この世界マクロの秩序を維持するため、この非合理な抵抗拠点ミクロは、今ここで消去します」


ライラは、もはや5人を見ていなかった。


彼女は杖を天に掲げ、目の前に広がるフォルトゥナの空全域に意識を集中させた。 彼女の膨大な魔力が、天候そのものに干渉を始める。


「(ダメ……! 私たちじゃなくて、街を狙ってる!)」


重圧の中で、恵が金切り声を上げようとした。


「究極魔法――《天候操作:氷河期》」


その瞬間、アストラディアの空が、ありえない速度で鉛色に染まっていく。


真夏のような気候だったはずのフォルトゥナに、突如として極寒の吹雪が吹き荒れ始めた。


平原の草木が瞬時に凍りつき、遠くに見えるフォルトゥナの街路が凍結し、逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡る。


フォルトゥナが、丸ごと氷に閉ざされていく。


ライラが都市の無力化に集中したことで、5人を縛り付けていた重力魔法が解ける。


だが、誰も立ち上がれなかった。


先ほどまでの重圧とは比較にならない、絶対的な「死」が、じわじわと彼女たちの生命を奪い始めていた。


「さむ……い……。もう、ダメかも……」


結衣がか細い声を漏らす。吐く息は瞬時に白く凍りつき、唇は紫色に変わっていく。ドーリンとリューナが心血を注いだ最終装備が、急速に冷気を帯びていく。


(ダメ……思考が……凍る……!)


恵が《分析》を試みるが、脳の処理速度が極端に低下し、まともな思考がまとまらない。


自律型ドローン『ふにゃ』も、凍結して機能を停止していた。


「くっ……!」


舞は氷属性の使い手として、寒さには耐性があるはずだった。


だが、これは物理的な冷気だけではない。ライラの魔力が作り出した、生命そのものを停止させる呪いのような「絶対零度」。


《リベロスタイル》の金属部分が、脆性破壊の寸前まで冷やされ、軋みを上げる。


(歌が……!)


花音は、仲間を鼓舞しようと《信念の歌》を奏でようとした。だが、指がかじかんでリュートの弦をまともに弾けず、声も凍てつく空気の中で震え、意味のある旋律にならない。


じわり、じわりと、確実に死が迫る。 希望が、体温と共に奪われていく。


(こんな……こんなところで……!)


観月は、凍てつく指先で氷と化した地面を掻きむしった。感覚がなくなりかけている。


すぐ隣で、結衣が弱々しく震え、恵の呼吸が浅くなり、舞が必死に耐え、花音の歌が完全に途絶えた。


(あんなに強気でいたのに……。みんなが……凍えてるのに……。私は、何もできない……!)


(やっぱり……私は、お姉ちゃんみたいにはなれない……太陽なんかじゃない……偽物の……!)


劣等感(心の枷)が、極限の寒さの中で蘇り、観月の意識を闇へと引きずり込もうとした、その瞬間。


脳裏に、あの時の光景が、鮮明に蘇った。


ノクス村へ向かう道中、オークとゴブリンの群れに追い詰められ、誰もが諦めかけた、あの絶望的な瞬間。



◇◇◇



『もう……無理かも……』


結衣が、ぽつりと呟いた。


その絶望が、全員の心に伝播する。


(嫌だ……)


観月は、下を向きかけた仲間たちの顔を見た。


舞の苦悶、恵の焦燥、結衣と花音の絶望。


(みんなの顔が、暗くなってる。私がいるのに、みんなを励ます役目の私がいるのに、どうして!)


そうだ。私の役割は、敵を倒すことだけじゃない。仲間を鼓舞すること。希望を繋ぐこと。


「みんな!!」


観月は叫んだ。


「下を向かないで! 顔を上げて! 私が道を切り拓くから!」


観月は、オークの目の前に躍り出た。そして、踊り始めた。


命懸けの《力のダンス》。


仲間を奮い立たせたい。この絶望的な状況を、希望で塗り替えたい。


『うおおおおっ!!』


観月の踊りに呼応し、舞がオークを弾き返す。恵の風がゴブリンを切り裂き、結衣の光と花音の大地がオークを捉える。


『最後は私が決める! 今度こそ、絶対に外さない!』


仲間たちの希望を束ね、灼熱の光を放ちながら膨張した、凝縮された小さな太陽。


『いっけぇーーーーっ! 超・特・大! 《ファイア・ボール》!!』


オークの巨体を灼熱の砲弾と化し、後方のゴブリンごと森の奥へ吹き飛ばし、岩壁ごと消し飛ばした、あの瞬間。


そして、戦いが終わった後。 結衣が、キラキラした目で、自分の手を取って、興奮した様子で言ってくれた。


『観月ちゃん、まるで暗闇を一気に照らす太陽みたいだったよ!』


◇◇◇


(そうだ……!)


(結衣が、言ってくれたじゃない……!)


(私が、太陽だって……!)


(私は、偽物なんかじゃない! 誰が何と言おうが、私が! みんなの太陽になるんだ!)


「ふざ……ける……な……!」


観月が、凍りついた喉から、血を吐くような声を振り絞った。


指先に力を込める。凍傷のような痛みが走る。


それでも、氷の地面に爪を立て、震える腕で、少しずつ体を引き起こそうとする。


膝が震え、何度も崩れ落ちそうになる。だが、その度に結衣の言葉が、仲間たちの顔が、彼女を支えた。


「こんな寒さも……こんな絶望も……!」

観月は、ついに、震えながらも大地に両足で立った。


その体はボロボロで、今にも倒れそうだ。だが、その瞳だけは、燃えるような光を失っていなかった。


仲間たちの希望を一身に背負い、天を仰ぐ。そして、まるで太陽そのものを呼び寄せるかのように、両手を高く、高く掲げた。


「私のたいようで、晴らしてみせる!!」


彼女の火属性が、仲間への想いによって極致に達する。 掲げた両手に、凄まじいエネルギーが収束していく。


「私がいる限り、絶対に負けない!」


そして観月は、魂が閃いた神話級超魔法の名を叫んだ。


「これが私の太陽! 《ランド・オブ・サン・シャイン!》!!」


観月の叫びと共に、天が応えた。


ライラが作り出した鉛色の《氷河期》の雲が、まるで存在しなかったかのように強制的に消し飛ばされ、一瞬にして雲一つない「快晴」の空がフォルトゥナ全域に広がった。


「馬鹿な!? 私の究極魔法が、天候ごと打ち消されただと!?」


ライラが愕然とする。だが、観月の究極魔法は、それで終わりではなかった。


快晴の空の中心、真上に輝く太陽が、さらに常軌を逸した光量で輝き始めた。


空そのものが真っ白になったかと思った。次の瞬間。


それは無数の「熱線」となり、空全体から、流星群のように降り注ぎ始めた。


「(なんだ、この熱量は!? 私の知識を超える……!)」


ライラが展開していた数万の魔王軍、その前衛から中衛にかけての広大なエリアに、灼熱の「熱線の雨」が降り注いだ。


ズズズズズズ……!


大地が瞬時に沸騰し、蒸発する音。


オークやリザードマンの軍勢は、その光の雨に打たれた瞬間、悲鳴を上げる間もなく蒸発していく。それはもはや「雨」ではなく、広範囲を「面」で焼き尽くす太陽の裁きだった。


軍勢は一瞬で半壊していく。だが、ライラはすぐに気づいた。無差別に降り注ぐかに見えた「熱線の雨」が、明らかに自分ライラを標的にして密度を増し、収束し始めていることに。


「くっ……!」


ライラは全魔力を防御に集中させた。多重魔力障壁、空間歪曲フィールド、ありとあらゆる防御魔術を展開する。だが、太陽そのものを無数に分割したかのような「豪雨」の前では、それら全てが気休めにしかならない。


数千、数万の熱線が、ライラ一点を目掛けて殺到する。


バチバチバチッ! 障壁は瞬時に蒸発し、歪められた空間ごと、ライラの体が灼熱の「豪雨」に焼かれる。


「ぐ……あああああああああっ!!」


光の雨が止んだ後。そこには、広大な平原に穿たれた、無数の小さなクレーターと、すべてが蒸発した大地だけが残されていた。


観月は、全魔力を放出した反動で、その場に崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……」


熱線が集中した中心で、ライラはかろうじて立っていた。


全身は炭化寸前まで焼け爛れ、ローブは燃え尽き満身創痍。ほぼすべての魔力をを魔法防御に回したせいで足元も覚束ない。それでも、彼女はまだ倒れてはいなかった。


「……私の……知識を……超える、だと……!?」


ライラが、驚愕と屈辱に顔を歪めた。


「あなたの『知識データ』は、もう古いのよ!」


その隙を、恵が見逃すはずがなかった。


「私たちの可能性イノベーションは、あなたの予測シミュレートを常に超え続ける!」


恵の風属性が、観月の太陽がこじ開けた突破口に続くように荒れ狂う。


「これが、私の『発明』した、本当の嵐よ! 《テンペスト》!!」


平原に、局地的な大嵐が吹き荒れる。


ライラ一人に狙いを定め、観月の攻撃で乱れた魔術の「制御」そのものを破壊し、思考と詠唱を妨害するための、荒れ狂う風の刃だった。


「ぐっ……! 術式構築が……乱される……!」


ライラは、必死に体勢を立て直そうとするが、魔力が安定しない。


「知識は!」


嵐の中心で、ライラが憎悪を込めて魔力を練り上げるのを、結衣が睨み据えた。


「知識は、人を支配するためにあるんじゃない! 人を幸せにするためにあるんだ!」


結衣は、ライラの歪んだ哲学に、プリーストとしての魂で応える。


「その邪悪な知識ごと、浄化する!!」


結衣の光属性が、仲間の覚醒に応えて限界を超える。


「《セイクリッド・ノヴァ》!!」


神聖な光の大爆発が、ライラを包み込んだ。 それは、物理的なダメージだけではない。


恵の《テンペスト》によって魔力制御を乱され、観月の《ランド・オブ・サン・シャイン》によって防御力を削られたライラの、むき出しになった「魔力源」そのものを破壊する、浄化の究極スキルだった。


「ギャアアアアァァァァァ!?」


太陽が軍勢と防御を砕き、嵐が制御を奪い、聖なる光が魔力を滅する。 三つの属性究極スキルによる怒涛の連続覚醒が、ライラの「過去の知識」を、仲間たちの「未来への意志」で粉砕した。


(第三十五話 終)

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