第三十四話:勝率ゼロ!?2周目の絶望!
「……っ! 全員、迎撃準備!」
シルヴィアの鋭い号令が、魔力共鳴音の残響を切り裂いた。 ライラの宣戦布告は、フォルトゥナ全域に響き渡っている。
「彼女が、最後の四天王……ライラ!」
舞は『複合装甲リベロスタイル』の感触を確かめながら、司令室の窓から平原に立つ人影を睨み据えた。
「街で戦うわけにはいかない! 私たちが出る!」
「恵、分析は!?」
「完了しています! 敵の魔力反応は単一。ですが、その総量は……これまでの四天王全員を足しても、遥かに上回る……!」
恵の顔に、初めて焦りの色が見える。
「それでも、やるしかないでしょ!」
観月が『スターライト・ポンポン』を打ち鳴らす。
「私たち5人が揃って、最終装備もあるんだから!」
「ええ。ドーリン、リューナ、シルヴィアさん。街の守りをお願いします!」
結衣の言葉に、三人が強く頷く。
「行こう、みんな! 私たちの『革命』を見せに!」
5人は司令室を飛び出し、フォルトゥナの城門を駆け抜けた。
都市を守るため、決戦の地となる西平原へ。ライラは、彼女たちが現れるのを当然のように待っていた。
「来ましたか、イレギュラーの皆様」
ライラは、無感情に杖を構えた。
「『1周目』のあなた方は、こんな装備は持っていなかった。ドーリンとリューナが手を組むなど、私の『知識』にはないイレギュラー。……ですが」
「どれほど装備を変えようと、あなた方の癖は変わらない。行動パターン、思考の癖……全て、既知です」
「ふざけるな!」
観月が叫ぶ。
「私たちは、あの頃とは違う! 連携開始!」
広い平原で、5人は即座に完璧な陣形を組む。マリオニスやゼノを打ち破り、グレイヴをも退けた、完成された連携だ。
「《力のダンス》!」
「《信念の歌》!」
観月と花音の支援がパーティ全体を包み込む。
「私が前に出る! 《ガードアップ》!」
最終装備を纏った舞が、ライラの前に立ちはだかる。
「無駄です」
ライラは淡々と呟いた。
「――パターン予測。『琴平舞』は、敵の詠唱を妨害するため、最短距離で踏み込む」
「なっ!?」
舞がまさに最短距離で突撃しようとした瞬間、彼女の進路上の地面が、予期していたかのように『泥沼』へと変化した。
「くっ……足が!」
完璧なタイミングで機動力を奪われる。
「次。『辰巳観月』は、前衛の危機を見て、陽動のために火属性魔法を放つ」
「(読まれてる!?) 《ファイア・ボール》!」
観月が咄嗟に放った炎を、ライラは詠唱すら省略した《アクア・ウォール》で容易く相殺する。
「次。『児島結衣』は、敵の大魔術に備え、防御ではなく回復の準備に入る」
(なんで!?)
結衣がまさに《ヒール》を構えようとしていた手元が、闇の魔力によって拘束される。
「そして、『咲良恵』」
ライラが、初めて恵を真っ直ぐに見た。
「あなたは……1周目とはまるで違う『変数』。あなたのその《応用科学》というスキルは、私の『知識』に存在しない」
「《サイレンス》!!」
恵は、ライラの詠唱そのものを封じるため、予測を裏切って《サイレンス》を発動させた。
「――遅い」
恵が《サイレンス》を発動するコンマ1秒前。
ライラはすでに「無詠唱」で、5人全員の足元に広範囲の重力魔法を発動させていた。
「きゃあっ!?」
「ぐっ……!」
凄まじい重圧が5人を襲い、全員が平原の地面に叩きつけられる。
「あなたたちの行動は、全て既知です」
ライラは冷ややかに告げた。
「1周目で収集したあなた方の戦闘データは、私の『知識』の中で完璧に解析・シミュレートされている。あなた方が勝てる確率は、ゼロです」
連携が、完全に封じられた。
自分たちの最強の動きが、まるで子供扱いされるかのように先読みされ、無力化されていく。
(ダメだ……。私たちの癖が、全部読まれてる……!)
舞が、重圧の中で歯噛みする。
(いいえ……!)
ただ一人、恵だけが、この絶望的な状況下で光明を見出していた。 地面に押さえつけられながら、恵はライラを睨み据えた。
(あなたの『知識』は、完璧じゃない……!)
恵は、隣で苦しむ観月に目配せした。
「(観月! あなたの『火』を貸して!)」
「(え!?)」
「(あなたの『過去の知識』に、私たちの『未来の発明』はインプットされていない!)」
恵は、地面に押さえつけられたまま、片手で魔力を練り上げた。
「《応用科学》、発動!」
(無駄な抵抗を)
ライラが、恵を黙らせるために次の魔法を構える。
「観月、今よ! 《ファイア・ボール》!」
観月が地面に這いつくばりながら、渾身の火球を放つ。
「恵! 《トルネード》!」
「(合体魔法? データにある連携……!)」 ライラは、1周目でも見た「風と火の融合」だと判断し、余裕を持って水系の防御魔法を展開しようとした。
「――遅いのは、あなたよ!」
恵が叫んだ。
「私の風は『酸素(O₂)』よ! 《応用科学》――燃焼効率最大化! 『ゲイル・バースト』!!」
ライラの予測とは全く異なる現象が起こった。
恵の《トルネード》は攻撃ではなく、観月の火球に高濃度の「酸素」を供給し、「圧力」を加えるためのブースターとして機能した。
「ゴオオオオッ!」
火球は「火炎放射器」へと変貌し、ライラの防御魔法ごと、その知的な顔を灼熱の奔流で呑み込んだ。
「(やったか!?)」
だが、炎が晴れた時。 そこに立っていたのは、半身のローブを焦がしながらも、無傷のライラだった。彼女は、自らの魔力を凝縮させた防御障壁で、即席の合体魔法を防ぎきっていた。
「……なるほど」
ライラは、初めて感情らしきもの――「驚き」と「不快感」――を露わにした。
「《応用科学》。1周目には存在しなかった、実に興味深い『変数』です。私の『知識』にない、未知の術式」
だが、次の瞬間。ライラの全身から、5人がこれまで経験したことのない、底知れない魔力が溢れ出した。
「ですが」
ライラは、恵の発明を、圧倒的な魔力量で上書きする。
「あなたの『革新』も、所詮はその場しのぎの児戯。私の膨大な『知識』の前では、何の意味もありません」
ライラの魔力量が、恵の《応用科学》による現象そのものを、力ずくでねじ伏せていく。
(そんな……! 私の発明が、魔力量だけで押し切られるなんて……!)
ライラが杖を掲げる。
「終わりです」
無詠唱で放たれた超巨大な重力球が、5人を飲み込んだ。
最終装備が軋みを上げ、意識が遠のいていく。
恵の「未来の革新」は、ライラの「過去の知識」と、それを裏付ける圧倒的な「魔力量」の前に、完膚なきまでに敗北した。
(第三十四話 終)




