表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/35

第三十二話:応用科学(アルケミー)!アブソリュート・ボルテックス

「なっ……馬鹿な! 私の子供たちが!」


"腐界"のゼノは、自らが支配する森の奥で、信じられない光景に戦慄していた。


花音を中心に高速旋回する13個のオーブ。


それらは、彼女の意志とは無関係に、近づくアンデッドや蟲の群れを次々と粉砕していく。


物理攻撃は自動で迎撃され、毒のブレスや魔法攻撃は鏡面のオーブに反射され、味方であるはずの召喚獣たちを逆に蝕んでいく。


《アースシールド》。


それは、花音の「平穏を愛する心」が、それを乱す者への「静かなる怒り」に転化したことで生まれた、絶対防御結界だった。


ゼノの物量作戦は、花音というたった一つの「想定外」によって、完全に破綻した。


「今よ! 花音ちゃんが時間を稼いでくれた!」


「あそこへ合流する!」


ゼノの意識が花音に集中した一瞬の隙。


泥壁によって分断されていた舞、恵、結衣、観月が壁を強引に突破し、花音の元へと駆けつけた。


「ヒヒッ……集まったか、ネズミども!」


ゼノは、花音の《アースシールド》を攻めあぐねていた召喚獣の群れを、今度は再集結した5人へと差し向けた。


「あの小娘の『殻』が硬いなら、お前たちから喰らい尽くしてやる!」


(花音さんは無事。だが、敵の数は依然として多すぎる……!)


恵は、押し寄せる第二波を冷静に分析する。


(このまま個別に迎撃するのは非効率的。敵の『流れ』を一箇所に集め、制御し、一網打尽にする……!)


脳裏に、ヴァルカンでドワーフたちを指揮した「ライン生産方式」のイメージがよぎる。


(《ウィンド・カッター》は『点』。《サイレンス》は『無』。違う。今必要なのは、戦場全体をかき乱す『渦』よ!)


「新しい『発明』を思いついたわ!」 恵は、迫る敵の群れを前に、不敵に笑った。 「観月! 私と舞の魔力ブーストを!」


「オッケー! テンションMAXで行くよ! 《力のダンス》!」


観月の情熱的な踊りが、二人の魔力を底上げする。


「この戦場の『流れ』、私が制御する! 閃け! 《トルネード》!」


恵が両手を突き出すと、彼女の風属性魔力が新たな形を成した。 それはもはや刃ではなく、圧縮された空気の渦。


発生した「小さな竜巻」は、ゼノの召喚獣たちを強引に吸い寄せ、身動きの取れない一つの巨大な塊へと変貌させた。


「なっ!? 動きが……!」


ゼノが目を見張る。


(計算通り!)


恵は即座に叫んだ。


「舞! あの渦の中心に、あなたの冷気を叩き込んで!」


「任せて! 《フリーズ・ストリーム》!」


舞がガントレットから、修行で得た冷気の奔流を放つ。


「仕上げよ! 《応用科学アルケミー》発動!」


恵は、自らが起こした竜巻の「目」が低圧であることを利用する。


(渦の中心、低圧化! 断熱膨張による超冷却を開始!)


舞の冷気が、恵の竜巻の中心で急激に膨張し、その温度は《ダイヤモンド・ダスト》に匹敵する「絶対零度」の嵐へと変貌した。


風が冷気を運び、冷気が風を凍らせる。


「これが私たちの最適解よ!」


「「アブソリュート・ボルテックス!!」」


凄まじい轟音と共に、竜巻そのものが一つの巨大な氷の柱と化し、その内部に囚われていた召喚獣の群れは、一瞬にして凍結・粉砕された。


「……っ!?」


ゼノは、自らの軍勢が一瞬で消滅した事実に、言葉を失う。


「終わりよ、ゼノ!」


結衣が叫ぶ。


「あなたの歪んだ摂理で、命を弄ぶのは!」


「この森を汚した罪、浄化しますわ!」


《アースシールド》を解いた花音が、リュートを構える。


ゼノが最後の抵抗を試みようとした瞬間、結衣の《ホーリー・アロー》 と花音の《アースバインド》 が同時に放たれ、その魔力源を貫き、大地に縫い付けた。


「ガ……アア……。わ、私の……美しい……腐敗が……」


歪んだ四天王は、自らが汚した大地の上で、塵となって消滅した。


◇◇◇


静寂が戻った森。 瘴気は主を失い、その勢いを失い始めていた。


「……見事だ」


大樹の枝から、リューナが静かに降り立った。その瞳から、5人への敵意は消えていた。


彼女は、花音の前に立つ。


「お前……。あの絶体絶命の中で、あの小さな命を庇ったな」


「……!」


「私は、人間が嫌いだった。ドワーフの技術で山を削り、森の平和を乱す、自己中心的な存在だと思っていた」


リューナは、舞が着けている『魔力収束ガントレット』に視線を送る。


「だが、お前たちは違った。その力(ドワーフの技術)を、森を守るために使った。そして、あの小さな命のために、自らの命を賭けた」


リューナは、花音に深く頭を下げた。


「お前たちは、私が知る人間とは違うようだ。……いや、私が、知ろうとしていなかっただけかもしれん。すまなかった」


花音が、そっとリューナの手を取る。


「リューナさん。私たちも、あなたの力を貸してください。この森を、一緒に救いましょう」


リューナは顔を上げ、強く頷いた。


「ああ。喜んで力を貸そう。連合に加わる」


◇◇◇


和解の証として、二人は並び立った。


「《浄化のテラ・キュア》!」


花音の歌声が、大地そのものの治癒力を呼び覚ます。


「応えよ、いにしえの精霊たち! この森に、再び息吹を!」


リューナが、エルフにしか使えない古の「精霊術」を唱える。


二つの異なる浄化の力が共鳴し、奇跡が起こった。


黒く汚染されていた大地から、エメラルドグリーンの光が溢れ出し、毒の沼は澄んだ水へと変わっていく。枯れていた木々からは、若々しい新芽が芽吹き始めた。


森が、本来の美しい姿を取り戻していく。 新たな仲間と、次への希望を手に入れた5人の顔に、安堵の笑みが広がった。


(第三十二話 終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ