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第十二話:自由都市フォルトゥナ

ノクス村での「革命」は、周辺地域に希望の波紋を広げていた。


疫病の呪いを解き、聖なる井戸を蘇らせた5人の少女たちの噂は、彼女たちが歩くよりも早く、街道を伝っていった。


村人たちから惜しみない感謝と十分な物資を受け取った結衣たちは、確かな自信を胸に、旅を続けていた。


「なんだか、アストラディアに来たばかりの頃とは全然違うね」


観月が晴れやかな表情で言った。空は高く、風は穏やかだ。


「ええ。あの時は、絶望しかありませんでしたけれど……今は、私たちにもできることがあると分かっていますもの」


花音が微笑む。


「慢心は禁物だ」


舞が言いながらも、その口調は以前よりも柔らかい。


「だが、私たち5人の連携コンビネーションは、もはや付け焼き刃ではない。それは証明された」


「その通りです」


恵が頷く。


「第二スキルが出揃ったことで、戦術の幅が劇的に広がりました。リソース管理も安定しています。費用対効果は良好です」


結衣は、仲間たちの頼もしい横顔を見つめた。


数々の試練を乗り越え、彼女たちの絆は、もはや何者にも揺れがされないほど強固なものになっていた。


数日後。小高い丘を越えた先に、ついに目指していた都市が姿を現した。


「すごい……!」


結衣が息を呑む。


巨大な石造りの城壁が、周囲の平原を圧するようにそびえ立っている。


いくつもの塔が空を突き、城門へと続く道には、多くの人々が行き交っていた。


あれが、魔王軍に抗うレジスタンスの拠点、自由都市フォルトゥナ。


城門に近づくと、警備にあたっていた衛兵たちが5人の姿に気づき、驚きの表情を浮かべた。


「おお! もしかして、君たちか!? ノクス村を疫病から救ったという、異世界の……!」


「話は聞いている! お待ちしておりました! どうぞ、お通りください!」


噂はすでにフォルトゥナにまで届いていたのだ。


開かれた門をくぐると、そこには圧倒的な活気が広がっていた。


石畳のメインストリートには露店がひしめき合い、様々な種族――人間だけでなく、エルフやドワーフの姿も見える――が行き交っている。


ノクス村の絶望的な光景とは対照的な、生命力に満ちた世界。これが、彼女たちが守るべき「日常の輝き」の具体的な姿だった。


「レジスタンスの指導者、シルヴィア様にはすでに連絡済みです。本部へご案内します」


衛兵に案内され、街の中心部にある、一際大きな石造りの建物へと向かった。


◇◇◇


レジスタンス本部、作戦司令室。


部屋の中央、巨大な戦略地図の前に、その人物は立っていた。


長い銀髪を後ろで束ね、機能性を重視した軽装の鎧を纏っている。


その佇まいは研ぎ澄まされた剣のように鋭く、一切の無駄がない。そして、その瞳は、全てを見透かすかのように冷静だった。


彼女が振り返る。


「待っていたぞ。賢者アルドゥスから遣わされし者たちよ」


その声は、低く、落ち着いていたが、確かなカリスマ性を感じさせた。


「私がシルヴィアだ。"銀狼"……そう呼ぶ者もいるようだが」


5人は、シルヴィアの圧倒的な存在感に息を呑んだ。


「ノクス村での活躍は聞いている。見事な手腕だった」


シルヴィアは感情をあまり表に出さず、事実だけを淡々と述べた。


「特に、魔法だけでなく、知識を用いて状況を打開した点……高く評価する」


「あの……アルドゥス様のことですが」


結衣が切り出した。


「彼は今、記憶を失っていて、魔力もかなり衰弱しています」


「アルドゥス様が?」


シルヴィアの眉がピクリと動いた。


「……そうか。あの方が、そのような状態に」


シルヴィアはわずかに目を伏せた。


「偉大なる賢者が、単なる召喚の代償でそこまでのダメージを負うとは考えにくい。もしや、あの方は……」


何かを察したようだったが、シルヴィアはそれ以上は語らず、壁にかけられたアストラディア全土の地図を示した。


地図上には、魔王軍の勢力範囲を示す黒い印が、大陸の半分以上を覆い尽くしていた。


「現状は極めて厳しい。魔王軍は強大だ。特に、四天王と呼ばれる幹部たちは、一人一人が一都市を滅ぼすほどの力を持っている。我々レジスタンスだけでは、力が足りない」


シルヴィアは、改めて5人を真っ直ぐに見据えた。


「異界の勇者たちよ。貴官たちの力を、このアストラディアのために貸してほしい」


その言葉に、迷いはなかった。


「もちろんです!」


結衣が力強く頷く。


「私たちにできることがあれば、何でもやります!」


5人の決意を確認したシルヴィアは、満足げに頷いた。


「心強い言葉だ。歓迎するぞ。今日から君たちも、レジスタンスの一員だ」


◇◇◇


その夜。5人には本部近くの宿舎が与えられた。


アストラディアに来て初めての、清潔なベッドと温かい食事。束の間の休息だった。


「はぁ〜! ベッドって最高!」


観月がシーツにダイブする。


「数日ぶりのお風呂……生き返りますわ」


花音がうっとりとする。


「やっと一息つけたな」


舞が窓の外に広がるフォルトゥナの夜景を眺めながら呟いた。


召喚、絶望、戦い、そして革命。


あまりにも多くのことが起こりすぎたが、彼女たちは生き延び、今ここにいる。


「当面の目標は、この組織の基盤強化です」


恵は、早速手に入れたレジスタンスの組織図を見ながら分析を始めていた。


「シルヴィアさんは優秀な指導者ですが、組織運営は旧態依然としており、非効率的な部分が多い。物資管理、人員配置、情報伝達……改善の余地がありすぎます。私の《最適化》と知識で、組織改革リストラクチャリングに着手します」


恵の瞳が、新たな挑戦への意欲で輝く。


それぞれの役割を見つけ、未来への希望を語り合う。


それは、岡山での放課後と同じ、かけがえのない時間だった。


だが、彼女たちはまだ知らない。


新たなる、そして最も狡猾な脅威が、すでに彼女たちのすぐそばまで迫っていることを。


◇◇◇


月明かりがフォルトゥナの街並みを照らしている。


街外れの時計塔の上。街の喧騒を眼下に見下ろしながら、一人の男が優雅に佇んでいた。


仕立ての良い貴族のような服を纏い、柔和な笑みを浮かべている。


だが、その瞳は、まるでガラス玉のように冷たく、感情が読み取れない。


四天王がひとり、"人形遣い"マリオニス。


彼は、宿舎の窓辺に立つ結衣たちの姿を遠くから見つめ、陶酔したように笑みを浮かべていた。


「ようこそ、自由都市フォルトゥナへ。愛らしき人形たちよ」


マリオニスは、誰にも聞こえない声で囁いた。


「君たちの絆は美しい。希望に満ち溢れている。実に素晴らしい……。だからこそ、壊し甲斐があるというものです」


彼は楽しそうに口角を上げた。


「さあ、第二幕の開演です。まずは、その美しい絆に、小さな亀裂を入れて差し上げましょう」


マリオニスの狂気を孕んだ笑い声が、誰にも知られることなく、夜の闇に溶けていった。


(第十二話 終 / 第一部 完)


もし、この『放課後ファミレス(略)』を読んで、

「ちょっと面白いかも」

「結衣たちの絆、応援したい!」

「5人(特に恵)のポンコツ具合が可愛い」


……など、少しでも心が動いた瞬間がありましたら、どうか、画面下部にある【ブックマーク】と【評価(↓の☆☆☆☆☆)】を、ポチッと押していただけないでしょうか。


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