第十一話:最初の連携(コンビネーション)
結衣の《キュア》が放った浄化の光が、井戸の底の闇を切り裂いた。
舞の体から呪いが消え去り、同時に、浄化の波動を浴びたカース・スラッジが苦悶の叫びを上げる。
「状況を再構築するわよ!」
恵が叫んだ。
結衣の覚醒により、戦況は一変した。
5人全員が第二のスキルを習得した今、恵の頭脳には、勝利への最適解が閃いていた。
「これより、私たちの連携を開始する! 鍵は、舞と結衣のサイクルよ!」
恵は矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「まず、私たちが生存するための基盤を固める! 花音、《癒やしの歌》を! 観月、《力のダンス》を!」
「承知いたしましたわ!」
「オッケー! みんな、盛り上がっていくよ!」
花音の慈愛に満ちた歌声が響き、持続回復効果が全員を包む。
同時に、観月の情熱的な踊りが、全員の攻撃力と士気を引き上げる。
「そして、魔力効率を最大化します! 結衣、舞! あなたたち二人に《最適化》をかけるわ!」
恵のスキルが発動し、防御と浄化の要となる二人のMP消費が劇的に軽減される。
「これで準備OK。舞、敵の攻撃を全て引き受けて!」
「わかった。どんな攻撃も、私が拾う!」
舞が最前線に躍り出る。
「ブギュルルルル!!」
カース・スラッジは、最大の脅威である結衣を排除すべく、無数の汚泥の触手を放った。
「《カバー》! 《カバー》! 《カバー》!」
舞が叫ぶ。結衣に向けられた全ての攻撃が光の盾に阻まれ、そのダメージと呪いが舞一人に転送される。
凄まじい衝撃が走り、舞の体に再び黒い斑点が浮かび上がる。
「《キュア》!」
すかさず結衣が浄化の光を放つ。
《最適化》の効果で、詠唱は一瞬で完了する。
舞の体から呪いが消え去り、花音の歌がダメージを即座に癒やす。
「計算通りよ!」
恵が叫ぶ。
「敵の攻撃を舞が受け、呪いを結衣が解除する。この連携が続く限り、私たちに負けはない!」
それは、5人の力が完璧に噛み合った、一つの完成されたシステムだった。
「ブモォォォ!?」
カース・スラッジは混乱していた。
絶対的だったはずの呪いが通用しない。攻撃しても、ダメージは分散・回復され、決定打にならない。
「敵の動きが単調になりました! 攻勢に転じます! 《分析》結果、弱点は火と光!」
「私が削る! 《ファイア・ボール》!」
観月が放つ火球が、スラッジの体表を焼く。恵も《ウィンド・カッター》で追撃する。
ダメージが蓄積し、カース・スラッジが狂乱する。
その巨体を膨張させ、洞窟全体を押し潰さんばかりの圧力を放つ。同時に、体の中央で鈍く光る「核」が露わになる。
「核が見えました! ですが、敵の最後の抵抗です! 最大の瘴気が来ます!」
洞窟全体が、致死レベルの黒い霧に包まれた。
「負けない! 《癒やしの歌》!」
花音が歌声を強める。
「《キュア》!」
結衣も浄化の光を最大出力で放ち、黒い霧を中和する。
「今だ! 核を狙え!」
舞が叫ぶ。
「結衣、合わせるよ!」
「うん!」
観月と結衣が並び立つ。二人の手には、それぞれ最大まで高められた魔力が宿っている。
《力のダンス》と《最適化》、二重の強化が、彼女たちの初期スキルを必殺の威力へと変えている。
「燃えちゃえ! 《ファイア・ボール》!」
「浄化して! 《ホーリー・アロー》!」
観月の炎と結衣の光。二つの異なる魔力が同時に放たれる。 だが、それらは並んで飛んだだけではなかった。
炎は光の矢を導とし、光は炎の勢いを糧とする。
二つの力は瞬時に共鳴し、螺旋を描きながら一つに融合した。
それはもはや、単なる火球と矢ではない。観月の純粋な「火力」と、結衣の「浄化」特性が完璧に組み合わさった、一つの巨大な「浄化の炎槍」へと変貌していた。
「行けぇっ!!」
二人の叫びと共に、即席の合体魔法が一直線にカース・スラッジの核を貫いた。
「ギュギャァァァァァァァァ……!!」
断末魔の叫びが洞窟に響き渡る。
弱点を貫かれたカース・スラッジの巨体が内側から崩壊し、汚泥は蒸発し、黒い塵となって消え去った。
◇◇◇
静寂が戻った。
瘴気は完全に消え去り、代わりに清らかな水の流れる音が響き始める。地下水脈が、本来の透_き通った姿を取り戻していた。
「《分析》完了。汚染源、完全消滅」
恵が報告すると、張り詰めていた緊張の糸が切れ、5人はその場にへたり込んだ。
「やった……! 私たち、勝ったんだ!」
観月が歓喜の声を上げる。
「ああ。悪くない連携だった」
舞が口元を緩める。
結衣は、自分の手を見つめていた。
仲間を信じ、力を合わせることで、こんなにも強くなれる。その実感が、彼女の心を強く満たしていた。
地上に戻った5人を待っていたのは、村人たちの歓声だった。
枯れていた「聖なる井戸」から清らかな水が湧き出したのを見て、何が起こったのかを察したのだ。
「おお……! 井戸が蘇った! 呪いが解けたぞ!」
「結衣様! 皆様! 本当に、ありがとうございました!」
村長をはじめ、村人たちが深く頭を下げる。
ノクス村を覆っていた死の気配は消え去り、村全体に希望と活気が満ち溢れていた。
◇◇◇
翌朝。
十分な休息と、村人たちから提供された清潔な水と食料を補給した5人は、ノクス村を後にした。
「本当に助かりました。フォルトゥナへ行かれるのでしたら、どうかお気をつけて」
村人たちに見送られながら、5人は街道を進む。
最初の試練を乗り越え、確かな成長と絆を手に入れた彼女たちの足取りは、力強かった。
「さあ、次はいよいよ自由都市フォルトゥナだ」
舞が地図を確認する。
「レジスタンスの指導者、シルヴィアさん……どんな人でしょう」
花音が期待と不安を滲ませる。
「どんな相手でも、私たちの最適解を導き出すだけよ」
恵が眼鏡を直す。
「よーし! 次の街でも、私たちの革命、見せつけちゃおう!」
観月が拳を突き上げる。
「うん! 行こう、みんな!」
結衣の笑顔と共に、5人は希望に向かって歩き出す。
だが、彼女たちの活躍は、すでに思わぬ者の注意を引いていた。
◇◇◇
遠く離れた場所。
闇に包まれた玉座の間で、水晶玉に映る5人の姿を見つめる者がいた。
優雅な貴族のような出で立ちだが、その瞳には冷酷な光が宿っている。
魔王軍四天王が一人、人形遣いマリオニス。
「ふふふ……素晴らしい。実に素晴らしい輝きだ」
マリオニスは、口元を歪めて笑った。
「だが、その絆、その希望……実に脆く、壊れやすい。さあ、歓迎しましょう。私の舞台へ。彼女たちの絶望は、一体どんな色をしているのでしょうね?」
新たな陰謀が、静かに動き出そうとしていた。
(第十一話 終)
もし、この『放課後ファミレス(略)』を読んで、
「ちょっと面白いかも」
「結衣たちの絆、応援したい!」
「5人(特に恵)のポンコツ具合が可愛い」
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