第十一話:リリアーナの介入と問題解決
悪徳代官ゼルドの罠にはまり、
資金難に陥った『転生亭』。
やちるの苦悩に、
S級冒険者リリアーナが立ち上がる!
領主邸へ向かう二人の行く先には、
リリアーナの秘められた過去、
そして、彼女が放つ「秘密の脅し」が
待ち受けていた――。
翌朝、町の領主邸へと向かうやちるの足取りは重かった。
隣を歩くリリアーナの表情は、いつもの飄々とした笑顔ではなく、
どこか冷徹な光を帯びている。
やちるは、その横顔をちらりと見て、
普段のリリアーナからは想像もつかないような気迫を感じていた。
領主邸の門番は、
いきなり現れたやちるとリリアーナを訝しげに見やった。
「なんだ、貴様ら。領主様に何の用だ?
無駄足ならすぐに立ち去れ」
ドワーフのような大柄な門番が、威圧的に門を塞ぐ。
だが、リリアーナは臆することなく、門番の目をまっすぐ見据えた。
その深紅の瞳には、S級冒険者としての経験に裏打ちされた、
確かな「威圧」が込められている。
門番はごくりと唾を飲み込み、わずかに顔を青ざめさせた。
「領主様に、急ぎでお話がございます。通していただけますね?」
リリアーナの声は静かだが、有無を言わせぬ響きを持っていた。
門番はたまらず一歩後ずさり、しぶしぶと門を開いた。
領主エルドリックの執務室は、豪華な調度品で飾られていた。
やちるが内心でその絢爛さに圧倒されていると、奥から初老の男が現れた。
彼こそが、この町の領主、エルドリックだった。
見た目は温厚そうで、どこか人の好さそうな顔をしている。
「これはこれは、いかなるご用件でこのような場所へ?」
エルドリックは鷹揚に問いかけたが、
その視線はS級冒険者らしい雰囲気を纏うリリアーナに釘付けになっていた。
リリアーナは淀みなく、しかし明確に、ゼルドの悪事を告発した。
「領主様。わたくしたちの営む『転生亭』に、
あなたの代官を名乗るゼルドという者が度々現れ、
不当な名目で法外な税金を徴収しております。
その証拠として、こちらを」
やちるが震える手で差し出したのは、ゼルドが差し出した偽りの請求書と、
資金が減っていく店の帳簿だった。
エルドリックはそれらに目を通し、眉をひそめた。
「むう……ゼルドが? しかし、彼は長年、
この町の税務を任せてきた忠実な者のはずだが……」
領主がゼルドを庇おうとする素振りを見せた、その瞬間だった。
リリアーナは、まるで獲物を捉える猛禽のように、
一瞬で領主エルドリックとの距離を詰めた。
彼は驚く間もなく、背後のソファに勢いよく押し付けられる。
ドンッ!!と鈍い音が響き、
エルドリックの体がソファに深く沈んだ。
リリアーナは、エルドリックの顔に己の顔を間近まで寄せた。
その瞳は冷たく、どこか獣じみた凄みが宿っている。
エルドリックは恐怖に目を見開き、額に脂汗が滲み始めた。
「……領主様。あなたの治める領地で、代官の不正が明るみに出れば、
あなたの評判は地に落ち、その地位も危うくなるでしょうね。
ましてや、その被害者が、王都にも強い影響力を持つ
**西方の大領主ヴァルハイト家**が関心を寄せている店であれば、
どうなるか……お分かりになりますね?」
リリアーナは、耳打ちするように冷酷に囁いた。
その言葉が、エルドリックの脳髄に直接響いたかのようだった。
そして、リリアーナはすっと身を引き、その際に、
彼女の胸元でひっそりと輝いていた**ブローチを、
領主の視線が捉えるようにちらりと見せた。
**それは、洗練された意匠で彫り上げられた、
ヴァルハイト家の家紋
――古き竜と剣が交差する紋章だった。
エルドリックは、その耳打ちされた内容と、
ブローチで示された確かな裏付け、そしてリリアーナの放つただならぬ圧に、
恐怖で全身を震わせた。
冷や汗が背中を伝う。
彼は、この件を揉み消そうとすれば、自分の領地だけでなく、
ヴァルハイト家の怒りによって全ての地位を失うことを瞬時に理解した。
「わ、わかった! 承知した! すぐに調査し、必ず解決しよう!」
エルドリックは、必死に頷いた。
領主の命により、ゼルドは即座に捕縛された。
彼の執務室や私邸からは、帳簿の偽造書類、他の店からの不当な徴収記録、
そして大量のギャンブルの借用書が次々と発見された。
「クソッ、クソッ! なぜこんなことに……!」
ゼルドは逮捕されながらも悪態をついていたが、
その悪行が白日の下に晒されると、町中から罵声が浴びせられた。
調査の結果、
ゼルドが『転生亭』から巻き上げた金銭のほとんどが、
彼の重度のギャンブル癖によって使い込まれており、手元に残っていないことが判明した。
彼の私財も全て差し押さえられたが、
それでもやちるが支払った額には遠く及ばない。
「まことに申し訳ない! ゼルドの不祥事により、
貴殿に多大なるご迷惑をおかけした。
本来であれば全額即座に返済すべきところだが、
無念ながらゼルドの財産では追いつかない。
しかし、この領主、決して踏み倒すことはしない!」
エルドリックは執務室で深々と頭を下げた。
「これは私の監督不行き届きによる失態。
領主としての責任として、不足分は私が毎月、必ず貴店へ伺い、
分割で返済していくことを約束しよう!」
やちるは、その言葉に安堵のため息をついた。
全額がすぐに戻らないのは残念だが、これで資金繰りの不安は解消される。
何よりも、領主がこれほど真摯に対応してくれることに、
やちるの心は救われた。
『転生亭』の経営は、これにより完全に安定を取り戻した。
やちるは安心して、料理と酒造りに集中できるようになった。
そして、領主エルドリックは、宣言通り、
毎月決まった日に『転生亭』を訪れるようになり。
彼は返済のためだけでなく、やちるの料理とミルドが試作する酒に魅せられ、
店の新しい常連客となったのだった。
今回の件は、町の有力者たちにも『転生亭』の存在を強く印象付けた。
そして、水面下でその動向を注視しているセシリアにとっても、
強力な後ろ盾を得た『転生亭』は、ますます無視できない存在となっていったのだった。
悪徳代官ゼルドの不正を暴くため、
リリアーナがついに本気モード!
その秘められた正体と、
S級冒険者ならではの交渉術が炸裂します!
領主との関係も、
まさかの「分割返済常連客」という
ユニークな形に!?




