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第一話:爆発、そして異世界への店開き

過労死寸前のブラック居酒屋店長、井坂やちる。ガス爆発で店ごと「散った」彼を、なぜか酒好き女神が異世界に転生させた!「最高の酒と肴で私を楽しませろ」という女神の無茶振りに、やちるはチート能力「居酒屋ダンジョン」で応える。町の外れに突如現れた和風居酒屋『転生亭』。ここから始まる、やちるの新たな居酒屋ライフと、波乱に満ちた異世界物語の幕開け!


井坂やちる、24歳。

童顔のイケメン。

しかし、その顔には

疲労が色濃く刻まれ残念なくらい老けていた。


ブラック企業が経営する

居酒屋の雇われ店長として、

彼は今日も厨房に立ってた。


朝から晩まで働き詰め。

人手は常に足りず、

客からの罵声、

上司からの無理難題は日常茶飯事。


それでも、グラスを傾ける客が

「美味い!」と笑顔を見せる瞬間だけが、

やちるを辛うじて繋ぎ止めてた。


「ちくしょう、このままじゃ本当に体が『散る』な…」


ふと、そんな自嘲にも似た独り言が漏れる。

日付が変わる頃、

疲れで朦朧とする意識の中、

コンロの火を消そうと手を伸ばした、その時だった。


ドンッッッ!!


けたたましい爆発音と、

店を丸ごと揺るがす衝撃。

激しい炎と熱風がやちるの全身を襲い、

彼の意識は暗闇へと深く沈んでいった。


「居酒屋、散る」――


まさにその言葉通り、

彼の居酒屋人生は、爆炎と共に

唐突に終わりを告げた。


次に目覚めた時、

やちるは理解不能な光景の只中にいた。


空は限りなく青く、

肌を撫でる風は生ぬるい。

見渡す限り、荒涼とした大地が広がるばかりで、

前世の面影はどこにもない。


「は?……どこだ、ここ?」


混乱するやちるの耳に、

どこからか陽気で、

どこか酔っぱらいのような女性の声が響いた。


「おやおや、目覚めたかい?

まさか本当に『散る』とはねぇ。

面白い死に方をしたものだ、井坂やちる!」


姿は見えない。

だが、声は確かにやちるに語りかける。


「君の『居酒屋、散る』という名前と、

店が爆発するという最期。

私、酒好きの女神が大いに気に入ったよ!

いやぁ、久々に腹の底から笑わせてもらったね!」


酒好きの女神?

笑わせた?

やちるは呆然とする。


「君は、そのブラックな環境で、

それでも『美味い』を追求し続けた。

その情熱、素晴らしいじゃないか!

私の好みだよ」


声は楽しげに続ける。


「だから特別に、新たな生を与えよう。

好きなように生きなさい。ただし……」


女神の声は、少しだけ真面目なトーンになった。


「私を楽しませるのだ。

最高の酒と肴を作り、

私を満足させてみせなさい!

私の退屈な日々に、新たな刺激をもたらすのだ!」


やちるは反論しようとしたが、

言葉が出ない。


「そのための力は、ちゃんと用意してあるよ。

ほら、これだ!」


女神は一方的に告げた。


「まずは、どんな食材でも瞬時に見抜く『食材鑑定』。

次に、君の理想の居酒屋をどこにでも作り出し、

その地下に無限の食材庫となるダンジョンを生成する

『居酒屋ダンジョン』!」


「え、えっと……」


「そして、これだ!

異世界のあらゆる者と心を通わせる

『言語の理』!

これでどんな種族の客が来ても安心だね!

さあ、頑張りなさい!

期待を裏切らないでくれよ、やちる!」


声が遠ざかると、

やちるの体に奇妙な感覚が駆け巡った。

同時に、脳裏に新しい知識が流れ込んでくる。


「食材鑑定?

言語の理?

居酒屋ダンジョン…?」


途方に暮れながらも、

やちるはとりあえず歩き出した。

どこへ行けばいいのかも分からないまま、

ただひたすら、人の気配を探して荒野を進む。


どれくらい歩いただろうか。

空が茜色に染まり始めた頃、

遠くの地平線に、巨大な壁のようなものが見えてきた。


「あれは……城壁か?」


希望を胸に、やちるはさらに足を速めた。

やがて近づくと、

それは想像以上に高く、堅牢な石造りの城壁だった。

町の入り口には、ごつい鎧を着た門番が立っている。


「言語の理」のおかげか、

彼らの話している言葉が不思議と理解できた。

どうやらここは、この地方の中心となる町らしい。


町に入ってすぐに店を出すのは、

きっと色々と面倒だろう。

前世のブラック企業での経験が、

やちるにそう囁いた。


まずは目立たず、

しかし客足が見込める場所。


やちるは町の外壁に沿って歩き、

人通りは少ないが、生活の匂いがする一角を見つけた。

古びた家々が立ち並び、

子供たちが路地で遊んでいる。

ここなら、下町の住民相手に、

細々とでも店を始められるかもしれない。


やちるは、その一角で、

少しだけ開けた場所を見つけた。


「ここに、居酒屋が、欲しい……!」


本能的に強く願った瞬間、

彼の目の前の地面が激しく振動したかと思うと、

音を立てて隆起し始めた。

土と木材が組み上がり、屋根が形成され、

みるみるうちに一軒の建物が姿を現す。


それは、やちるが前世で夢にまで見た、


和風の隠れ家のような居酒屋だった。


暖簾には、そう筆で書かれている。

「転生亭」。

店の地下からは、どこか禍々しくも、

同時に食材としての可能性を感じさせるような、

奇妙な気配が漂っていた。

まさに「居酒屋ダンジョン」の入り口だ。


やちるの、異世界での第二の居酒屋人生が、

今、始まった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ブラック企業居酒屋の店長だったやちるが、まさかの爆死から異世界転生。しかも転生させたのは、名前と死に方が面白いからという理由で酒好きの女神様! チート能力「居酒屋ダンジョン」を与えられ、異世界の片隅で『転生亭』を開業するまでを描いた第1話でした。


「居酒屋、散る」という悲劇的な始まりから、新たな舞台でどんな美味しい料理と、どんな人々との出会いが待っているのか。次話からは、早速S級冒険者リリアーナとの出会いが待っていますので、どうぞお楽しみに!


感想や評価をいただけると、モチベーションに繋がります。引き続き、『転生亭』の物語にお付き合いいただけると嬉しいです!

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