第95話:本来の居場所に
んん、あれ?私何をしてたんだっけ?ああ、そうだ。ルナと戦って、パッと思いついた魔法を使って、そっから、ええと。そのままルナになんとか勝ったことまでは覚えてるんだけど、そこから魔法を解除したら一気に力抜けちゃってそこから、ってなんか頭撫でられてる?
「あ、起きましたか?」
頭上から降ってきたのは優し気な言葉だった。…これってもしかして膝枕されてる?そんな気がして目を開けてみると視界には草原と夜空が見えた。声のした方、つまり上を見るとルナの顔が視界に入った。
「うん、おはよう、でいいのかな?ルナ」
「ええ、まだ辺りは暗いですが」
ルナが笑ったところを久しぶりに見た気がする。
「久しぶりに笑ったところ見た気がするなあ」
「私がですか?ふふ、そうかもしれませんね」
ルナの笑い方は取り繕ったようなものでもなく、とても自然なものだったように感じた。どれくらいの間寝てたのかはわからないけれどさすがにルナの足が痺れてそうだと思って座ろうとしたら、ルナの手によって頭を抑えられてしまった。
「もう少しこうしていても大丈夫ですよ」
「いや、もう大丈夫なんだけど?」
「私がこうしていたいからいいんですよ」
そう言ったルナは私の髪をさらさらと梳いているようだった。
「独り言なんで軽く流すくらいにしてくださいね?」
ルナはそう切り出すと少し語り始めた。
「私ですね、諦めていたんですよ。私は普通の人じゃなくなってしまったんですから。私はいつまで、どれくらいの間生きているのかわかりません。容姿も、このままほとんど変わらないのかもしれません。そうなると、私はどう考えても世の中で浮くことになってしまうでしょう。それに、今一緒にいる人も私よりも先に老けていって、…死んでしまうと思うと私は耐えられなかったんです。最後には独りぼっち。そうなる運命なら、最初から近くに人を寄せなければいい。そう思って、つい逃げ出してしまったんですよ。そうした方がいいと信じてです」
その言葉はルナの本心の吐露だったんだろう。私が同じ立場だとしたらどうしただろうか。同じ選択をしただろうか。多分しない気がする。でもかといってどうするかまではわからない。
「フレア、もうそろそろ戻りましょうか」
ルナの言葉について考えていたらそんな声がした。
「うん、いいけど。でも、戻るってどこに?」
「もちろん、私達の本来の居場所ですよ。ここからだと、そうですね、エクスマキナ王国でしょうかね」
そのときのルナの顔がびっくりするくらいに美しかった。迷いを吹っ切ったような、そんな感じだった。私が先に立ち上がって手を差し伸べるとルナは素直にその手を取ってくれた。
「ところで戻る前に一つ聞いてもいいですか?」
「ん?何?」
「フレアが持ってきていた箒、どこにいったんですか?」
「あっ」
多分最初にいた場所に置きっぱだわ。
「…戻る前に一緒に探してくれないかな?」
「はあ、いいですよ。本当に何やってるんですか」
ルナはため息をつきながらも応じてくれた。若干呆れたような意味が含まれていた気がするのは気のせい、気のせいだよね?ちなみに箒は割とあっさりと見つかった。最後に剣でのやり取りをした場所から少し離れていたけれど、五分も掛からずにすぐ見つけられた。まあ、二人揃って空から探したからってのもあるんだけどね。
「ルナって空飛んでるってよりは走ってるよね?」
「え?まあそうですね。空中に魔素で足場を作ってその上を移動している感じなので。消耗とかも特にはないですよ」
「あー、そういう感じなんだ。私の飛行魔法とは違って割と癖が強そうな感じだね」
「実際そうですね。足場を作れなければ落ちちゃいますし。移動先に予め足場を用意しないといけませんし。まあ、それくらい造作もないですけどね」
最後の方は出来て当然と言わんばかりの感じの言い方だった。なんというか、自信を取り戻したような雰囲気を感じる。
とまあ、そんな感じのやり取りをしながら箒を見つけた後、エクスマキナ王国の方へと帰路を取ることにした。ちなみに帰る方法は箒で、私が前に乗って後ろにルナが乗って私に捕まる形になった。それが一番早いと思ったからね。ただ、その、実際にこうしてみるとすごくドキドキするんだけど。ものすごく密着されてるし、ルナの吐息がその、首元に掛かってなんかぞわぞわする。
「じゃあフレア、このまま私の部屋までお願いしますね」
「…」
「フレア?」
「ああ、ごめん。ええと、ルートに指定はある?」
「出来るだけ人目につかないルートでお願いします」
「おっけー、任せて」
私はそう言うと、飛行魔法を起動して空へと旅立った。このときの私は気づいていない。後ろにしがみついているルナが至福そうな顔をしていて、同時に蠱惑的な目をしていることに。
空が薄明に染まりつつある中、エクスマキナ王国の王都が見えてきた。後ろのルナはここまで一言も口を開くことなく私にしがみついていた。そのまま未だ薄暗い王都上空を飛行して王城へと向かう。早朝とはいえ街は動き出していて、人々が行き交うのが見える。満月の後、月と太陽がわずかな間だけ一緒に存在する時間。ルナにとって、私といる時間はこの時間みたいに短いものになるのかもしれないけど、少しでもその時間の彩りになれたらなって思うんだ。
「ルナ、戻ったらしっかりと後始末はしてね」
「そうですね。色々と迷惑を掛けたようですので」
「一応私も付き合える時は付き合うからさ」
「ええ、では頼らせてもらいましょうかね」
そう言ったルナは私の背中で笑ってくれた、そんな気がした。
そのままルナの屋敷についたら部屋には窓から侵入した。どうやらルナは昨日の夜出る前に窓に鍵を掛けてなかったらしい。そうして部屋に入るや否やルナはベッドへとダイブをかました。私ごと。
「ええと、ルナ?どうしたの?」
突飛な行動に出たルナに問いかけてみたけれど、返事は返ってこなかった。少し揺すってみると、寝てしまっているようだった。すーすーと寝息が聞こえる。
「仕方がないなあ」
そう言って、ルナを軽く抱きしめて頭を撫でた。すると、部屋の扉が開いた音がした。音の方に視線を向けるとそこにはいつぞや私にルナからの置手紙を手渡したメイドさんがいた。メイドさんは私をまず確認すると、次に私の上に乗っているルナに視線を移した。そして、
「ふえええええええええええ!?ルナ様がお戻りにいいいいい!?」
と、まあとんでもなく情けない叫び声を上げたのだった。
なんとか和解、出来たのかな?
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