第91話:道はまた交わる
私は、ヘカテリア王国の王都を出てから、最短経路でエクスマキナ王国の王都へと向かいました。そうして、地上を走り、場所によっては空を駆け、可能な限り早く、移動しました。
そうは言っても、ヘカテリア王国内に入ったくらいからはフードで顔を見えないようにし、目立つ銀髪を隠して移動することにしました。私の気配をほとんど感じることのできないのはあくまでもヘカテリア王国の人だけだということが分かっていたからです。
(久しぶりですね。こんなに人の注目を集めてしまうのは)
久方ぶりにこうして人の視線を集めてしまうとなんだかむず痒く感じてしまいます。そんな好奇な目線を浴びながらも私は王都近郊へとたどり着きました。
そして、夜まで待って、私は王都内へと入り、王城の離れに、私の本来の居場所まで戻ってくることが出来ました。当然、誰かに見つかることなく。扉の鍵は持ち出していたので、その鍵で扉を開けて中に入り、自室へと向かいました。
久しぶりに部屋を見た感想は、思った以上に綺麗、というものでした。出て行く前の私が一体部屋をどのような状態にしていたのかまでは覚えていませんでしたが、なんとなく窓を開けたまま出て行ってしまったような気がします。そもそもとして、離れの鍵を掛けた記憶もありません。鍵や窓の状態、それに、思った以上に片付けられている部屋を見ると、きっと誰かがこの部屋の掃除をし続けていたのでしょう。私がここに戻ってくることを信じて。
そんな私のことを信じてくれた人が整えてくれた部屋を進むと、私が普段から使っている作業用の机、その上に手紙とレイピアが置いてあることに気が付きました。レイピアの方は一旦置いておいて、まずは手紙の封を切ることにしました。
『親愛なるルナへ
ルナがこの手紙を読んでいるなら、ルナは一回ここに戻ってきているってことだよね?
まずはなんでこんな手紙を書いたのかだけ書かせてもらうね。私、ルナの残した手紙を見て、後悔したんだ。だって、ルナが失踪をしてしまうくらいに不安定な状態なことに気づけなかったことを実感しちゃったから。で、そのあとに魔女についての話を聞いたんだ。それによって、ルナがどうなってしまったのか、そして、それをルナがどう考えたのか、それが分かっちゃった。
だけどね、いや、だからこそかな、ルナが実際にどう思っているのかを知りたくなっちゃったんだ。それに、私も伝えたいことがあるしね。
だからさ、ルナがこの手紙を呼んだ次の満月の日、二人でドラゴンと戦った草原、そこに来てくれないかな?そこで実際に会って話をしたいんだ。私は満月の日、ずっとそこで待っているから。
貴方の親愛なる友人、フレアニア・フィア・ヘカテリア』
…ずるいですよ、こんなの。こんなこと書かれてお膳立てされたら会いに行くしかないじゃないですか。
少し落ち着くためにも私は一回手紙を置いてレイピアの方を確認してみることにしました。
「…なんですか、この業物は」
オストさん達に色々と教えてもらう前にはきっとそれには気づかなかったのでしょう。まず、デザインについて。柄は金色、刃は銀色で構成され、差し色として青と黒がちりばめられていて、見た目としては華美に見えますが、それと同時に実戦で使うことを想定されたデザイン。かなり丁寧な仕事がされていることがわかります。なんとなくですが、オストさんが打ったもののような気がします。次に、そこに刻まれた術式について。この剣には相当量の魔素が浸透して、術式を成していることが分かります。これに魔力を通せばその術式は魔法という形で表に出てくるのでしょう。
レイピアの柄を握ってみると、恐ろしいくらい手に馴染みました。レイピア全体に魔素が浸透していることも一つの要因なのでしょうが、何かしっくりくる、というかこれが手元にあって当たり前と感じてしまいます。
「フレアがこれを作ってくれたんですね。私のために」
猶更、私の中でフレアに出会わなければいけない理由が増えてしまいました。フレアが私を大切に思ってくれていることが身に染みて感じられて心の中がぽかぽかしてきます。
ただ、それと同時にどうしてか心がものすごく冷えていってしまうのも感じます。私は間違いなくフレアとは違う時間を歩んでいくのに、この気持ちに私は答えなくてはいけないのですか?それに、何よりも、
一番つらいのは、そんなフレアを置いていかないといけないこと
そんな未来が待っているのならば、最初から深く関わらなければ、きっとこんな感情を抱かなくて済むのでしょう。
決めました。しっかりと、フレアには私の気持ちを伝えましょう。私とフレアの道は重なることはない、もし重なってしまうなら、互いに不幸になるだけ。なら、もう会わない方がいいって。そうした方が互いに幸せになれるからって。そう考えて、私は私自身のもう一つの気持ちを凍てつかせて、そっと隠してしまうのでした。
…そういえば、次の満月っていつでしたっけ?そう思って外を見てみると、月はほぼほぼ真円になっていて、明日にも満月になってしまいそうでした。つまり、明日、あの草原に向かえばフレアに会える。
「少しだけ用意しましょうか」
そう独り言つと、私は少しだけ荷物の整理をし始めました。
翌日の夜、私は心臓の鼓動を強く感じながら、フレアとの待ち合わせ場所、ある意味、私の運命を決めた場所へと向かいました。
「ルナ、やっと、来てくれたんだね」
そこには、箒を右手に持ち、二本の剣を携えたフレアが何故か草原に寝転がって待っていたのでした。
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