第89話:分かったことと待ち人と
翌日、私は改めてオストさんのところへと向おうと思いました。一階に降りて探してみると、火をくべた部屋で赤熱した金属を叩いているのを見つけました。さすがに今近づくのはどうかと思ったので叩くのに使っているハンマーを置くまで待ってから距離を詰めて話しかけてみました。
「ええとですね、オストさん」
「なんだ?ルナ様」
「昨日お願いしていた件についてなんですが」
「ああ、いいぞ。まあ無理にならない程度のことをお願いするが」
って、あれ?ここに何もせずに居候という形もあれなのでやっぱり手伝いをしたいと申し出ようと思っていましたが、あっさりと話が通ってしまいました。思わず、戸惑いが外に出てしまった気がします。
「まだ私何も言ってなかったんですけど…」
「どうせ手伝わせて欲しいって話だろ?」
「ええ、まあそうですけど…」
私の未だ困惑の隠せない声を聞いて私の方を向いて、オストさんはこちらに顔を向けてきました。
「うん、声の調子からわかっていたが疲れ自体はだいぶ取れている感じがするな。それに、顔色も昨日よりもよくなっている」
「そうなんですかね?」
「ああ、やっぱりこれなら手伝ってもらうのも問題なさそうだ。まあ、仕事内容自体はコレイの方に聞いてくれ。今は、お店側にいるんじゃないか?」
「あ、でも私今下手に他人の目に触れるところには行きたくないです…」
「あー、そこか。なら一緒にコレイのところに行くか」
そう言ったオストさんはタオルで汗を拭いた後、立ち上がって歩き始めました。私もそのあとをすぐに追います。オストさんが私の事情を、まあ話していたこともあるのでしょうが、察してくれて助かりました。
そうして、すぐ近くの部屋へと行くと、オストさんがコレイさんを隣の部屋から
呼びました。
「あら、ルナ様じゃない。気持ちの整理とか出来た感じかしら?」
「はい、なんとか」
「そう、じゃあ昨日のルナ様のお願いの通り少し手伝ってもらおうかしら」
「それじゃあ、俺はさっきの作業に戻るぞ。ルナ様はコレイの手伝いをしてやってくれ。コレイはルナ様を下手に前に出さなければ大丈夫だ」
「わかったわ、オスト。それじゃあ、ルナ様、こっちに来てもらえるかしら?」
オストさんは私をここに置いて、部屋を出て行ってしまいました。きっと仕事に戻るのでしょう。そんなオストさんを流し見したところで、コレイさんが改めて話しかけてきました。
「さあて、まず手伝ってもらう前にいくつか質問に答えてもらえるかしら?」
「はい、分かりました」
そう言ったコレイさんは私にいくつかの質問を投げかけてきました。得意な分野とか、どれくらい運動が出来るかとか、恐らく私の能力を測りたかったのでしょう。ただ、質問という体でフレアをどう思っているのかを聞いてくるのはなんだか止めて欲しかったです。そんな恋バナするみたいなノリでされても今の私はそれを許容するだけの余裕がないです。
「んー、まあこれくらいでいいかしら。とりあえずいくつか分かったことがあるわ」
そう言ったコレイさんは何か気づいたかのような顔で腕を組んでこう宣言しました。
「ルナ様はフレア様のことを気にしているってことが分かりました!」
ある種どうでもいいことでした。つい転んでしまいそうになるレベルでです。
「あら、冗談よ?そんな呆れたような顔しないで頂戴」
「いや、そりゃ呆れたような顔になりますよ。さっきの質問は私がここを手伝うにあたって何を出来るかの確認するのが目的だと思っていたんですから」
コレイさんの表情的に軽くからかっているだけだということは分かりますが、真面目な話をしようとしていた矢先だったが故に突っ込まざるを得ませんでした。そんな私を見て満足したのかコレイさんは雰囲気をピンとしたものへと切り替えました。
「まあ、少し遊んで肩の力を抜いたところで真面目な話ね。聞いた感じ、案の定といった感じかしらね、ルナ様ってなんでも出来そうね。力仕事とかも問題はなさそうまであるわ」
まあ、さすがに立場的にあまり力仕事とかをさせるようなことは避けようと思うのだけどね、と追記するように言いました。
「ルナ様が今失踪状態なのを考えるといくら気配とかを感じないことを考えても接客とかは難しそうね。だから裏での仕事がメインになるわね」
私はコレイさんのその意見に頷いて肯定の意を示しました。
「じゃあ色々と教えようかしら、ついてきてちょうだい、ルナ様」
そう言ったコレイさんは私を手招きしてきました。私はそのあとを気持ち慌てるかのようについていきました。その足取りは私自身で自覚できるほどにここ最近だと軽いものだと感じました。
「ルナ様ってフレア様に対して抱いている感情は本当に親愛なのかしら?」
そんなコレイさんの呟きは私の耳にギリギリ届かずにかき消えていきました。
さて、それ以降、私はコレイさんに様々な仕事を教えてもらいました。事務仕事だとか、シンプルな肉体労働、掃除のやり方などです。王族としての務めを果たしていたときに比べて少し体を動かすことが多いですが、あまり大きな違いはないように感じました。
「まあ、見立て通り大体のことはすぐに出来てしまうのねえ」
これが一日私の動きを見ていたコレイさんの感想でした。オストさんはその声を聞いてなのか、私の顔を見てきて、やっぱりルナ様って天才なんだな、と軽く零したのが耳に入りました。私としてそんな評価自体には既に興味がなくなってしまっているため、特に何か感じるということもなく二人を見ていました。
翌日は、オストさんのところで無理を言って仕事を教えてもらいました。私は魔法が使えないためにオストさんと全く同じ、というわけにはいきませんでしたが、鍛冶、というものがどういうものかは分かりました。
「ルナ様、俺が相当な時間を掛けてものにしたものを魔法を使わない部分、基礎の部分だけとはいえ、こんなあっさりと覚えちまうんだな」
そんな呆気にとられたような声が耳に入ったのがとても印象的でした。そのあとに続けて、まあフレア様の魔法みたいなもんなのかもしれないな、と付け加えていましたが。
そうして、私が二人の仕事を手伝うようになってから、途中から色々と先読みして勝手にやるようになりましたが(二人とも止めないので問題なかったですよね?)、幾ばくか経ちました。表にあまり出ていないのと今の私の体質のおかげなのか私がここにいることは未だにこの二人以外は知らないはずです。
その間のフレアの動向については、二人がさりげなく集めてくれていました。聞いた感じでは、最近王都近郊に現れたフェンリルの討伐を成し遂げたらしいです。なんでも、そのフェンリルは特殊個体?と言われる通常の個体よりも強い個体だったらしいですが、ほぼ一人でその討伐を成功させたそうです。
「そうですか、またフレアは前を向けるようになったんですね」
そんな声が無意識に私の口から漏れ出してしまっていました。フレアは出来ることをしようとしているのに、私は未だに燻っている。そんな動くことの出来ない自分に若干嫌気が差してしまいます。
私の思考がそんな後ろに向いてしまっているときのことでした。
「やっほー、オスト!」
私が聞きたくてたまらなかったその声が、最後に出会ったときよりもどこか明るく、それでいて自信をもった、そんな声が私の耳に入ったのは。
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